初陣①
「…おーい、聞いてるかー?」
ナツキの声がヘッドセット越しに響く。さっきまでの高揚とは違う、妙に引っかかるような音色だった。
「……あぁ、ごめん。ちょっとだけ昔を思い出してた」
タツヤはスコープから目を離し、小さく首を振った。
通信越しにユリの声が入る。
「寝不足? 初めての実戦だもんね、ちょっと心配になるよ…」
その空気を、ナツキが低く張り詰めた声で切り裂いた。
「…それよりヤベェのが居る。データに無い。“ストーカー”よりもデカい、サソリみてぇな奴」
彼が指差す先、崩れた建造物の陰。
タツヤがスコープを向けた瞬間、心臓が一つ跳ねた。
瓦礫と砂塵に巧妙に紛れた異形の影それは“ランバート”の中でも、あきらかに異質な個体だった。
体高およそ5メートル。装甲はガンメタリックに光り、通常種の比ではない重厚感と硬度を帯びている。節くれだった脚、鎌のような前肢、そして何より……頭部と思しき位置に並ぶ、赤い双眼。
一瞬だけ、それがスコープの中央でタツヤと視線が合う。まるで敵がこちらを見据えているかのような恐怖…思わず一瞬スコープから目を逸らしそうになる。
ナツキが珍しく慎重な口調で言う。
「ユリ、ドローン飛ばせるか? 本部にコイツの映像を送っときてぇ」
戦場で最も猪突猛進に見える彼が、“情報共有”を最優先した。それがこの敵の異常性を物語っている。
「……了解」
ユリの声は静かだが、わずかに震えていた。
彼女の操るドローンが、ゆっくりと高度を上げ、未知の存在へと近づいていく。
だがその緊張の最中
「……なんか、変な音しねぇか?」
ナツキが耳をすませるように地面に目を向けた。
低く、鈍く、腹の底に響くような地鳴り。だがそれは、どこからか確実に"来て"いた。
そして次の瞬間。
「……下か!!」
地面を抉るように突き上げたのは、ドリル状に回転する尻尾だった。
ついさっきまでナツキが立っていた地面を、音もなく“それ”は貫いた。
砂埃とコンクリ片が空へと舞い上がる。
尻尾を回避し、瓦礫から飛び出したナツキの姿を視認したランバートは金切り声を上げる。
次の瞬間、巨大な脚で地を蹴り、ナツキに向けて一直線に突進してきた。




