"血"の武器②
アタッシュケースの蓋を閉じたワタナベが、ふいに別の細長いケースを抱えてこちらに向き直った。
「……そして、これは私が夜なべして作り上げた試作品です」
静かに、だが誇らしげに語る。
「名を――"血刀"といいます!」
カシュッと留め具を外し、ワタナベがゆっくりと鞘からそれを抜き放つ。
シャキィィィン――
金属音と共に現れたのは、刀と呼ぶには無骨すぎるフォルムの剣。
黒鉄色の刀身に沿って、チューブのような血液伝導ラインが走る。構造はブラッドナイフと同系統だが、血の供給量は数倍。
一撃放てば、その場の生命線を代償にしかねない、“敵を殺すためだけ”の武器。
近くで見ていたタツヤが、眉をわずかにしかめながらつぶやく。
「……あー。これ、絶対ナツキがはしゃいで振り回すパターンだな」
だが、その予想は裏切られた。
ナツキは刀を見つめると、静かに「失礼」と一言だけ告げ、慣れた手つきでそれを受け取った。
構えも、重さの確認も、すべてが無駄なく洗練されている。
「…やはり、あなたにこれを見せたのは正解だった」
ワタナベの声に、タツヤがちらりと横目で彼を見る。
「旧時代……いや、もっと前の“剣の道”を目指していたのでは?」
ナツキは目を伏せ、柄を軽く握ったまま答えた。
「…ジーちゃんが剣道好きだっただけだよ。俺はそれに付き合ってただけ」
短く、飾りのない言葉だった。
そう言うとナツキは刀をワタナベに返そうとする。だがワタナベは、ゆっくりと首を横に振った。
「それは、もうあなたのものです」
ナツキはしばし言葉を失ったまま、刀を見つめる。
そして、深く一礼すると、刀を丁寧に鞘へ納めた。
そのまま腰に手を添え、鞘を自らの左腰に携える。
それは、明らかに慣れた動作だった。
普段はおちゃらけて軽口ばかり叩いている彼に、この瞬間だけは誰もが“武人の気配”を感じ取っていた。




