生きていく覚悟⑤
グラスの水が少しずつぬるくなっていく。
夜の静寂は、心の奥にある感情を自然と引き出してくれるようだった。
「……俺な、ああ見えて、タツヤとかユリみたいに冷静に判断できる奴って、マジで尊敬してんだぜ」
照れたように、でもどこか真剣にナツキが呟いた。
「だってさ、俺は突っ込んで殴ることしか知らねーし、すぐカッとなっちまう。気づいたら一人で突っ走ってて……それで何回も迷惑かけた。」
その言葉には、重さがあった。
タツヤは少し目を伏せて、それでも真っ直ぐに応えた。
「……僕は、君の“立ち向かう勇気”に憧れてたよ。
本当は怖くて仕方がないのに、踏み出せる人間なんて、そうはいない」
ナツキが顔を上げた。タツヤと目が合う。
視線が交差し、言葉が消える。
ふと、ナツキが手元のグラスを持ち上げ、ニヤッと笑った。
「……ま、ここに来ちまったからには、昔がどうとか関係ねぇよな。今の俺たちは仲間で、ダチ!って事で!」
グラスが夜空に掲げられる。
それが"乾杯"の意図だとすぐに察したタツヤは、横に置いてあった合成粉乳の瓶を静かに持ち上げ、カツンと音を立てた。
「……ダチ、か。うん」
「乾杯」
キンッ、とグラスと瓶が触れ合い、何かが繋がった音が響く。
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高台の物陰で、そんな2人の様子を影から見つめる2人の人影があった。
「ふふ、見てごらんよ。
ね?君が悩んでたことなんて、案外ちっぽけなことだっただろ?」
静かに語るのはマントマン。
物陰に隠れながら、肩を並べていたのはユリだった。
「過去とか、古い時代とか……俺にはよくわかんないけどさ」
「でも、君ら3人は特別な仲間なんだよ」
ユリは俯きかけた目をそっと上げ、夜風にさらわれる前髪を押さえながら答えた。
「……はい。そうですね」
その瞳は、ほんの少しだけ潤んでいた。
そして深夜
訓練所前
人気のないダストハイブの一角。
訓練所前の路地裏に、ぼんやりとオレンジ色の灯りが揺れていた。
屋台のような形状の簡易キッチン。
看板には、かすれた字でこう書かれていた。
"夜泣き蕎麦 P.J亭"
「はいよーっ、魂のだし汁入りカラカラ極細麺一丁ッ!
警備兵も、構成員も、寝落ち勢もまとめて面倒見るよーん!」
P.Jはタオルを頭に巻き、ノリノリで蕎麦を振る舞っていた。香ばしい醤油とネギの香りが、夜の静けさを優しく包み込む。
その噂を聞きつけた兵士や整備班が、三々五々、引き寄せられるように集まってくる。
戦場と隣り合わせのこの場所で、誰もが"ひとときの温もり"を求めていた。




