生きて行く覚悟④
湯上がりの火照った体に、ひんやりとした夜風が心地よい。
タツヤは浴衣に似た軽装のまま、高台のベンチに腰掛けていた。
ダストハイブの最上階。地下要塞でありながら、空を見るために作られた外気監視台がある。
都市の上に積もった瓦礫と、崩れた高速道路、ひび割れたビル群…"終わった世界"を、赤い月明かりが優しく照らしていた。
手にした瓶には、白濁した液体。
合成粉乳――カルシウム粉末と人工甘味料を混ぜただけの簡素な飲み物だが、なぜか懐かしい味がした。
(……やっぱり、どこか違うんだ)
食事中に交わしたユリとの言葉が、頭から離れない。
"ナツキは違う"。
自分たちがまだ準備も覚悟もできていない場所に、平然と立っている。
複雑な表情のタツヤの隣に、ひとつの影が現れた。
「マスター、隣……空いてるかい?」
片手にグラスを持ち、浴衣姿で立つナツキが、どこか芝居がかった口調で続ける。
「今日はな、水ロック水割りの気分なんだ」
手の中のグラスがカランッ、と鳴る。
「……結局、ただの水じゃねぇか」
呆れたようにツッコむタツヤに、ナツキはニッと笑う。
二人、並んで座る。
しばしの沈黙…風の音と警戒用ドローンのホバリング音が響く。
「……俺さ」
ふと、ナツキが口を開いた。
「前の時代じゃ、お前らみたいな連中と生き方が違うって、ずっと思ってたんだよ」
「……?」
唐突な言葉に、タツヤは思わず顔を向ける。
「なんつーか……お前ら“優等生”ってさ、将来のことばっか考えて、ルール守って、先生の顔色伺って……何が楽しいのか分かんなかった」
「……」
「俺はダチとツルんで、ちょっと可愛げのねぇイタズラして、ムカつく奴とケンカしてさ。
くだらねーかもしれないけど、そういうのが“生きてる”って感じだったんだよ」
月明かりの下、どこか懐かしそうに笑うナツキの横顔。
タツヤもまた、ゆっくりと口を開いた。
「……僕も、同じだったよ。
ナツキみたいな人を見て、“なんであんなに目先のことばっかり楽しんでられるんだろう”って思ってた」
「……」
「でも、ここに来て……やっと分かった気がする。
あの頃、自分は勝手に“子供だ”って切り捨ててただけだった。……ほんとは、君がずっと羨ましかったんだ」
静かに語るタツヤの声が、夜風に溶ける。
そして、二人は同時に、言葉を重ねた。
「ここに来て、俺は――」
「ここに来て、僕は――」
「お前(君)って、本当にスゴい奴なんだなって思ったよ」
「…えっ?」
お互いの顔を見合わせ、同時に声を重ねてしまったことに気づく。
「お、お前もかよ……」
「い、今の取り消してもいいよ……?」
気まずそうに笑い合う二人。
けれど、その距離は確かに縮まっていた。




