ダストハイブ前線基地③
数分後、シミュレーター内部に足を踏み入れると、天井から床まで真っ白な球体空間が広がっていた。
全方位から情報を投影するための完全密閉型VR訓練室。内部には既に訓練用の装備が準備されている。
「それじゃ、説明しようか」
マントマンはふわりとマントを揺らしながら説明を始める。
「これから君たちに体験してもらうのは、仮想空間での“実戦シミュレーション”。使う武器は」
彼が指を鳴らすと、装備リストが空中に表示される。
M4系アサルトライフル、グロック系ハンドガン、"旧世代人の血晶"を含んだ合金製サバイバルナイフ…軍の基本装備のようだった。
彼は指を一本立て、楽しげに笑った。
「装備の重さや武器の反動、この辺は再現されたデータだけど…"痛み"だけは本物だよ。
脳波経由で実際に受けた痛みと同等の痛みが体に流れるようになってる。当然、訓練が終わればダメージは現実には残らない。けど……場合によってはショック死することもあるから気をつけて?」
「おいおい……」
タツヤは小さく呟き、それを聞いてか聞かずか、ナツキは肩をすくめる。
「貴重な旧世代人の俺たちを死なせていいのか?」
「心配ご無用。仮に訓練で死んだら政府が身体を丸ごと引き取ってくれるよ。きっと、最後の一滴まで余すところなく“絞り出して”くれるさ」
マントマンはニッコリと白い歯を見せながら親指を立てた。サングラス越しで見えないが…この男ならきっとウインクだってしている。
「…ブラックジョーク…いや、ブラッドジョークってか?」
⸻
3人の視界が切り替わった。
先程までの何も無い空間とは違う。
赤黒い空。崩れたビルの影。鉄骨の匂いが風に乗って運ばれてくる。
タツヤの足元に瓦礫が転がり、遠くで何かが軋むような音がした。
そして…ゆっくりと姿を現す、一つの影。
肉体は人の形をしているが、皮膚はひび割れ、背中には細い鎌のような触手が剥き出しに突き出ている。
異形…"何らかの理由でランバートになった人間"なのか"人型のランバート"を思わせる。
「訓練にしちゃリアリティ満点だな!仮想と現実がわからなくなっちまいそうだ!」
ナツキが銃を構えながら叫び、引き金を引く。
…しかし、弾丸が発射される気配が無い。
ナツキは戸惑いながら銃を掌で叩いてみたり、あろう事か銃口を覗き込もうとすらしていたが、隣に立っていたタツヤが無言で頭を叩いて止めさせた。
「落ち着いて、呼吸を整えて」
ユリはタツヤの隣に立ち、小型のマシンガンを構えると、静かに引き金へ指をかけた。
タタタンッ!と乾いた銃声が響き、弾丸が人型のランバートの身体に直撃する。
「撃たなきゃ死ぬ。ここで撃てなきゃ戦場でも撃てない。…いい練習になるよ」
その言葉と共に、攻撃を受けたランバートが奇声を上げ、3人に向かって動き出した。
異形と新兵たちの対峙…仮想空間ではあるものの、そこには確かに"死の予感"がある。




