ダストハイブ前線基地①
陽光のない赤黒い空の下、瓦礫の谷間を抜ける。
足元に転がるのは、朽ちた道路標識、タイヤのホイール、溶けかけたベビーカーの骨組み。
ナツキがぽつりと漏らした。
「……こりゃもう、ちょっとやそっとじゃ元には戻んねぇな」
「元に、なんて戻らないさ」
歩きながら、マントマンが答える。
そしてタツヤ達の方を見ると、明るい口調で続ける。
「けど、きっと"取り戻すことは"できる。
…ま、そんな事は後にして、まずは俺たちの拠点で飯でも食おうか!」
数分後。
谷間を抜けた彼らの前に広がっていたのは、地下格納庫を改造したような巨大施設だった。
周囲には鉄条網、監視用のドローン、見張り台。だが中には、人の声…笑い声も混じっている。
「ここが……」
タツヤがその光景に見とれていると、マントマンはその前に立ち、両手を広げる。
「俺たちの拠点の一つ。“ダストハイブ”だ!!歓迎するよ、旧時代の命知らずども!」
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中に入ると、空気がほんのわずかに温かかった。
壁にはパイプが張り巡らされ、工業的な金属臭と、どこか懐かしい“料理の匂い”が混ざって漂ってくる。
「おーい!お帰りー!」
ひときわ太い声が響いたかと思うと、廊下の先からドレッドヘアの大柄な黒人男性がドタドタと駆け寄ってくる。
ぶ厚い胸板、脂肪と筋肉の混在した身体。
しかし何よりも、満面の笑みと両手に抱えた"皿"が目を引いた。
「よう、痩せっぽっち共!まずはオレ様特製の合成タンパクピザと、超高濃度甘味料ジュースで昼メシと行こうぜ!」
見たこともない色のジュースや謎の物体に、タツヤが思わず顔をしかめる。
「うわ……なんか色がすごい…」
男はつまみ食いしながら続ける。
「まぁ見た目で食いもん選んでる場合じゃないんだよね〜この時代は。あ、俺は"ポール・イェーガー"。気軽に"P.J"って呼んでくれよな!ここじゃコックみたいな事をやってるよーん!とりま、よろしく!」
P.Jの持つ皿の上の"ピザ"と呼ばれたそれは、確かに形は丸く、チーズらしき何かがとろけていた。
だが生地は異様に軽く、パサついており、具材も全て合成素材…動物由来の“肉”など一片も使われていない。
だが、P.Jは胸を張る。
「オレ様の合成ピザは、最新の栄養調整モデルだ。プロテイン、カルシウム、ビタミン、そしてなんと"本物の塩"も微量入ってる。ゼイタクだろ?」
タツヤはジュースのパックを手に取り、ラベルを見た。
「……合成ビタミン、甘味料、香料、炭酸水…ジュース…なんだよな? 」
「カロリーはちゃんとあるんだから文句言うなよ〜?」
P.Jは大きく膨らんだ腹を太鼓のように叩きながら言った。
タツヤの横ではユリが苦笑いしていた。
「ここじゃ、旧時代の保存食ですら貴重品。旧政府管理の倉庫から“奪還”してきた缶詰ですら"ご馳走"だからね…」
ナツキはピザを一口かじり、むせそうになりながらも飲み込んだ。
「食えなくはねぇな…それに、腹は膨れる」
P.Jが満足げに親指を立てる。
「気に入ったなら明日は"合成たこ焼きたこ抜き"にしてやるぜ!マヨ香料たっぷりのな!」
タツヤはそんな光景を眺めながら、改めて実感していた。
自分たちは、もう"守られる存在"じゃない。
誰かの犠牲で守られたぬくもりではなく、“この世界の現実”の中で生きていくのだと。
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食堂の入り口から整備服姿の隊員が声をかけた。
「隊長。ルーキー2名、登録手続き完了しました。"クレリック"と3人での訓練プログラムに参加させますか?」
マントマンは振り向き、3人を見た。
「ん〜、まずは適正を見よう。今日の午後からシミュレーター訓練に参加してもらう。
君たちがどこまで通用するのか、見せてもらうよ」
ナツキがニヤリと笑う。
「訓練?そんなもん、遊びみたいなもんだぜ」
だが背後のP.Jがポンとナツキの肩を叩いて言う。
「そう言ってた威勢の良いやつが昨日、シミュレーターでゲロ吐いてたんだよ〜」
マントマンはふふっと笑って続ける。
「ま、まずは食ってから。戦場も訓練も、空腹じゃ話にならないよ」
こうして、"旧世代の若者"たちは、"戦場の入り口"へと足を踏み入れていく。




