ようこそ現代へ④
マントマンの指差す先から、まばゆい光が差し込んでいる。
出口へ向かいながら、マントマンは腰のポーチから口元用のガスマスクを取り出し、無言で装着した。
その様子に、二人は思わず身構える。
「…まさか外、空気やべぇのか?」
マントマンは笑い声を上げながら言う。
「いやいや、違う違う。俺は顔をあんまり見られたくないだけ。マスクをしてる方が都合がいいんだ」
その言葉に、タツヤとナツキは安堵の息を漏らした。
やがて、一歩、また一歩と外の世界へ踏み出す。
「……眩しい」
タツヤが思わず呟いた。
だが視界が徐々に慣れていくと、彼の表情は一変した。
広がっていたのは、荒野と廃墟。
かつての文明の残滓と思しきコンクリートの瓦礫と、無残に崩れ落ちた高層ビルの残骸。
空はまるで炎が染み出したように赤黒く、灰色の雲が低く垂れ込めていた。
「うわ……寝すぎたか?もう夕方じゃねーか」
ナツキが冗談交じり言うが、マントマンは首を横に振った。
「…今は朝の10時だ。夕方はもっと暗いよ」
その静かな言葉に、二人はようやく理解した。
自分たちが目覚めたのは、かつて知っていた世界ではないということを。
そして、マントマンは唐突に言った。
「さて…君たちには“選択肢”がある」
ふたりがマントマンの方を見つめる。
「一つ目。旧世代人として、この世界で“守られる側”になること。
この世界じゃ、誰もが憧れる生き方だよ。
物資も優先的に支給されるし、治療だってタダ同然。ほとんどの旧世代人はこの道を選ぶ。
ただし…自由じゃない」
「君たち旧世代人の体にはね、ナノマシンが埋め込まれてる。
今この瞬間も、君たちの位置情報は衛星を通じて監視されているんだ。
血液の状態、心拍数、脳波まで、全部ね。
で、"守られる側"の人間は皆、国が管理する特定の安全地帯に集められてる、って感じかな」
「…“管理された自由”…か」
タツヤが小さく呟くと、マントマンは軽く頷いた。
「そして、もう一つの選択肢は……」
マントマンが少し間を空ける。
風の音が瓦礫の間を吹き抜けていく。
「俺たちと一緒に“戦う”ことだ」
「最前線に立ち、命の危険と常に隣り合わせになる。
正直、ほとんどの旧世代人はこの道を選ばない。
でも…君たちは"自由に選べる"んだ」
タツヤが黙ってうつむいたその横で、ナツキは口元を緩めて、すぐに答えを出した。
「じゃあ俺は戦うぜ」
タツヤが驚いたように振り向く。
「別に、守られて生きてぇ奴を責める気はねぇよ。
せっかく生き延びンなら、普通はそっち選ぶのが当たり前だろ」
そう言って、ナツキはまっすぐな瞳で空を見上げた。
「でもな…俺はごめんだ。何もしねぇでただ守られてるだけってのは、ゆっくり死を待ってるのと同じだろ?」
「だったら、ちょっとでも自分でバケモンぶっ倒して、その分だけ笑えるようになったら…そっちの方がマシだって思うだけだよ。平和なんてモンも、一生涯保証って訳じゃ無さそうだしよ」
その言葉に、タツヤは目を見開く。
けれど、ふと――思い出していた。
あの日…平和はあまりにも突然に失われた。
ならば、自分が選ぶべき道は――
「……僕も、戦います」
タツヤはゆっくりと顔を上げ、マントマンを見据えた。
その瞳には、迷いがなかった。
そして、その瞬間
「タツヤなら、きっとそう言うと思っていたわ」
聞きなれた声が、背後から届いた。
振り返ったその先には、
薄いグリーンの戦闘服に身を包み、小型のマシンガンを背負った少女、ユリの姿があった。
風に揺れる短めの髪。微笑みを浮かべたその表情は、どこか誇らしげだった。
「ユリ……?」
「ようこそ、現代へ」




