第四二段 小白川という所は(その四)
義懐の中納言が、
「それで、呼び返される前には、どう言っていたのだ。この返事は、言い直したものなのか。」と問われたので、
「ずいぶん長く立って待っておりましたが、そうそう待ってもいられませんので、『それではこのまま帰りましょう。』と歩き始めたのを、呼び返されまして。」などと言う。
「誰の車なのか。見知っているか。」などとおっしゃるうちに、説法の講師が高座に登ったので、みな静かになった。女車のほうを見ると、かき消すように見えなくなっていた。
(ここに来たのを後悔しながら、帰ってしまわれたのね。やはり、お気の毒だ。どんな気持ちでおられたのやら。)
あの車は、下簾などが今日使い始めたように新しく、濃い単襲に蘇芳色の薄物の上着という服装で、車の後ろに模様を擦りだした裳をそのまま広げて打ちかけてあったのは、いったいどのようなお方であったのか。
不完全な返事をするよりも、よほどなるほどと思われるように聞こえて、なかなかよい返事だったと思う。
(清少納言は、最後にはよい対応であったと評価していたようだ。)
登場人物一覧
屋敷の主 もとは、藤原師尹(藤原忠平の次男。官位は正二位・左大臣)
現在は、藤原済時(藤原師尹の次男。官位は正二位・大納言、左大
将、 贈右大臣)
主の親戚 藤原義懐(師尹の兄伊尹の五男。 官位は従二位・権中納言)
藤原実方(済時の兄の子、済時の養子。官位は正四位下・
左 近衛中将。中古三十六歌仙の一人
藤原道隆(藤原師尹の兄の師輔の三男兼家の長男。官位
は正二位・摂政・関 白。この当時は三位の中将。
定子の父)
子ども多すぎ。いとこが、数え切れず。




