第二七一段 成信中将は(その3)
今内裏である一条院に造られた一間の局には、定子様は薄情だとお思いになる人は全く近づけない。その局で、東の御門に向かって、趣のある小廂がある所に、式部のおとどという女房と一緒に夜も昼も控えている。定子様も、いつも物見をされるのにこちらにいらっしゃる。
「今夜は、みな、小廂でなく、中に入って寝ましょう。」と言って、南の廂の間に二人で寝ていると、ひどく戸をたたく人がいる。
「うるさいですね。」などと言い合って、寝ているようなふりをしていると、やはり、うるさく呼んでいる。
「あの二人をおこしなさい。空寝であろう。」と定子様がおっしゃるので、兵部という女房が起こすけれど、寝ているようなので、
「まったく、起きられません。」と、人に言いに行くのだが、そのまま居座って話している。しばらく話すのであろうと思っていると、夜が更ける。
この人は、権の中将成信であるようだ。
「これはいったい何をこんなに話しているのでしょうね。」と言って、ただこっそり笑いあっているのも知るわけがない。暁まで居座って、夜を明かして帰って行った。
「この君の行いは、ひどく忌まわしい。またいらっしゃったときには、物を言うまい。いったい何を話して、夜を明かすのか。」
(礼儀として、女性の元からは、夜が明けぬうちに帰るものです。)
などと言って、笑っていると、引き戸を開けて兵部は入ってきた。
(屋が明けぬうちに帰さなかった女の方も同罪です。)




