第二五六段 関白殿、二月十日のほどに(その11)
中宮様が二条の宮にお移りになる夜のこと、牛車に乗る次第もなく、
「我が先に、我が先に。」と乗り騒いでいるのが嫌なので、それなりの女房三人と、
「やはりこの車乗りの様子といったら、とても騒がしくて、祭りが終わった時のように倒れそうに混乱していて、ひどく見苦しいですこと。まったく、どうしようもない。乗ることのできる車がなくて行くことができなければ、定子様が自然と聞きつけられて、車を差し向けてくださることでしょう。」などと言って笑い合わせて立っている前を、他の女房達は押し合い見苦しく乗っていく。
宮司が出てきて、
「これで終わりか。」と問うので、
「まだここに居ります。」と答えると、寄ってきて、
「だれだれがいらっしゃるのか。」と問う。
「ずいぶん不思議なことですね。今は、皆乗っておしまいになったと思っておりました。どうしてこんなに遅れておられるのか。今は、御厨子所の女官を乗せようとしていたのですよ。珍しいことだ。」と言って驚いて車を寄せる。
(定子様お気に入りの清少納言たちがまだ残っていたので、宮司は、しきりに不思議がっています。貴族の娘はみんな乗ってしまって、最後に采女の女官を送る手はずだったようです。)
「それなら、まず予定の方を乗せられて、その次にでも。」と私が言うのを聞きつけて、
「とんでもないことだ。意地悪なことをおっしゃる。」
(我がおとがめを受けるではないか。)
などと言うので、車に乗った。
その次は、本当に御厨子所の女官の車なので、最後尾になり、松明の明かりも暗いのを笑いながら二条の宮についたのであった。




