第二五六段 関白殿、二月十日のほどに(その1)
定子様の父で関白である道隆様が、正暦五年(994年)二月十日に、法興院の尺泉寺という御堂で一切経供養をなさった。その供養に女院で、一条天皇の母君で道隆様の妹君である詮子様、一条天皇の中宮で、娘である定子様もいらっしゃるのは当然のことである。
定子様は、二月一日に里邸である二条の宮に入られる。夜が更けて眠くなってしまったので、何事も見ないで、翌朝日がうららかに差し出たころに起きた。
二条の宮は、西暦三年の十一月に新しく造られ、たいそう白く趣深い御殿である。そこに、御簾などがさらに新しいのは、昨日掛けたのであろう。調度品、獅子、狛犬など、いつの間に入ったのであろうかとおもしろい。
桜が一丈(約3m)ほどあって、たいそう咲き誇っているようで、ただいま御階のもとにあるので、
「たいそう早く咲いたものよ。梅の花が、ちょうどいま花盛りであるのに。」と思って見ると、作ってあった。すべて、花の美しさは、本当に咲いている桜に劣る所はない。どんなに手がかかったことだろうか。雨が降ればしぼんでしまうであろうと思うと残念である。
小家などがたくさんあったところを、今造らせられたばかりなので、木立などの見どころのあるものは、まだない。ただ屋敷の様子は見近でよい感じである。
(さすが、天下の関白さま。定子のために作られた里邸はすばらしく整えられています。木立は、間に合わなかったようですが。この後も、華々しい様子がずっと続きます。その20~その30くらいになりそうです。)
追記:その27まで続きます。




