第二五五段 御前に人々あまた(その2)
そうして、その後しばらくたってから、思いがけないことを思い煩い、人を憎みもして、さるところに居るとき、定子様が、立派な紙を包んだものを二十包み下さった。仰せ書きに、
「すぐに参上せよ。」と書かせていらっしゃって、
「これは、定子様がお聞きになったことがあるそうです。この紙は、よき紙ではなく、悪かろうから、延命祈願の寿命経も書かないであろうが。とおっしゃいました。」と文に書かれているのは、たいそう「おかし」。
私がすっかり忘れてしまっていたことをこうして覚えていてくださったのは、ただ人である女房でも、「おかし」と思うが、まして、中宮である定子様が覚えていてくださったのは、おろそかにすることができるはずもない。心が乱れ、どう申し上げればよいのか分からず、ただ、
「かけまくも かしこき神の しるしには 鶴のよわいに なりぬべきかな
(口に出して申し上げるのも恐れ多い神とあがめる中宮様より、紙をいただきましたからには、鶴のように千年の年まで生きることができましょう。)あまりの御心に言葉もありませんと言上なさってください。」と書いて、申し上げた。
(定子の兄弟の左遷にかかわっていたと思われている人たちと、清少納言が親しかったため、女房達の一部から「しかと」されたり、嫌味を言われていたりと、状況が悪く、宿下がりをしていました。定子は、それを悲しく思い、「とくまいれ」と使いを送ってきたのです。)
台盤所の雑仕がお使いに着ていたので、禄として青い単衣を与えた。
本当に、この紙を草子に作って騒いでいると、思い煩っていたこともまぎれる心地がして、「おかし」と心のうちで思っていた。




