354/361
第二二五段 社は(その2)
蟻通の明神は、紀貫之が、
「わが馬の患いたるを鎮めたまえ。
かきくもり あやめもしらぬ 大空に 在りと 星(蟻通)をば 思うべしやは 」と言ってこの歌を詠んで奉ったところ、願い通り病をお直しになったというのは、たいそうおもしろい。
この蟻通と名付けた縁起は本当の事であろうか。
「昔、いらっしゃった御門が、ただ若い人だけを大事にして、四十歳になった人は殺させてしまわれたので、よその国の遠いところに行って隠れたりなどして、まったく都の中に老人はいなくなっていた。そのとき、中将であった人で、とても栄えていて賢い人が、七十歳に近い親を二人持っていたのだが、
『四十歳でさえ、制しているのに、まして七十歳に近い年であるのにこうしているのは恐ろしい。』と怖がり騒ぐ。中将は、たいそうな孝行者であって、
『遠いところに住ませることはできません。一日に一度はお会いしないでいることなどできません。』と言った。そして、ひそかに毎夜土を掘って家を作り、そこに隠しおいて、毎日会いに行っていた。朝廷にも、周りの人にも、どこかに失踪したのだと知らせていた。




