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地球の植民  作者: でうく
第Ⅲ章:各章『戦場編』
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Ⅲ-ⅩⅣ.戦場の突破口

マーズ=グローバル=サーベイヤー―――名の意味は『火星全球の測量士』―――主人公にこの様な仰々しい名前を付けた心算(つもり)は無かったが、そういう意味らしい。私は英語圏の人間ではないので、殊更(ことさら)意識していない。かれとマーズ=パスファインダーは火星探査機の中でもとりわけ地球に貢献した事を知ったのも、かなり後になってからである。なれば、彼には本篇に於いても多大なる期待をするとしよう。


かれの役割は、その名の通り火星軌道上からの写真撮影や高度測定に拠る火星の詳細な地図作成等を行なう事。周回衛星である。


マリナー計画より20年後、ローバー搭載の着陸機・マーズ=パスファインダーと対になり、再開された火星探査計画・サーベイヤー‐プログラムの最初のミッションとなった。このサーベイヤー‐プログラムは2機目・マーズ=クライメイト=オービターとマーズ=ポーラー=ランダー双方の失敗に由(よ)り頓挫するが、その頓挫に由りマーズ=リコネッサンス=オービターが参入するという不思議な巡り合わせとなっている。無論、本篇で揃う三人について、このミッションを真似た訳では無い。


更に謂(い)えば、サーベイヤーは通信衛星としての役割も担っており、2機が火星表面に着陸し、夫々(それぞれ)の探査車を投入したマーズ=エクスプロレーション=ローバーとも関わりを持ち、地球との中継を取り持っていたと云(い)う。之(これ)もまた偶然だ。


サーベイヤーの功績は数あるが“一番”といえば、シドニア地方の人面岩についてだ。20年前にバイキング探査機が撮影した、人間の顔面にも見える巨大岩―――其(それ)は火星人について様々な憶測を呼んだが、かれはその通称“火星の顔”が幻で、小さな丘が続く細かい起伏のある地形に過ぎなかった事を明らかにした・・・まぁ、其は当り前で怪談じみて話をする科学者の方に問題が有るのだが。本篇での彼は果して怪談を解き明かすのか、其は今後の動きに期待しよう。


・・・さて。之も単なる偶然であるが、サーベイヤーは着陸に失敗したマーズ=ポーラー=ランダーを捜索している。序(つい)でにいえば、マーズ=リコネッサンス=オービターもかれを捜索する。現実には2機共にランダーの手掛りとなる物は発見できておらず、サーベイヤー自身も行方不明となるが、本篇では果して―――?


次項、マーズ=エクスプロレーション=ローバー(主に2号機『オポチュニティ』)について講義する。

グローバル=サーベイヤーはハンドルを切った。それも急ハンドル。スピンせん勢いだ。


(そんな―――・・・っ!)

サーベスは顔面蒼白だった。夢中でアクセルを踏む。車体は左右に大きく振れ、ハリウッド映画のアクション・シーンばりの登龍門の蛇行運転となった。


何故――――!!


「何で、あのひとが・・・・・・!!」


ガタン!ズゴッ、という鈍い音が聞える。サーベスは急ブレーキを踏んだ。どさっ!響きが聞こえたかと思うと、またすぐアクセル。


「―――!!」


サーベスが無謀な運転をする窓の向こう。彼の隣にもう一つ影が並ぶ。彼は恐怖した。



「100キロババア―――!」


「ダレがババアだってぇーーー!?」



だいぶ以前に姥捨山に打ち捨てた筈(はず)のステート=シェリフが、彼の運転する車と並んで走っている。


シェリフがメラメラ拳を作り、窓ガラスを割ってサーベスの頭を掴もうとする。反射神経で辛うじて避けたが、戦慄に震えが止らない。


「だってなにそれあり得ない!!ブレンダはどれほど出してると思ってる!?120だよキャスリン!!」

「だからその女はつまんないって言ったのさディラン!たかだか120程度で破目を外せるって!?・・・ハッ。あんたもつまんない男に成り下がったもんだねぇ!!」

・・・ディラン&キャスリンのユニットは、未だ解散していないらしい。二人は足並みを揃えながら、恋人らしく今日も痴話喧嘩に華を咲かせる。



{―――人間捨てた・・・?オバサン―――}



突如キャスリンがすっ転ぶ。転んだだけで、ディランとの距離が急速に開いた。しかし彼女はすぐ立ち上がり、彼等の仲を引き裂く車を追う。


サーベスはアクセルを強く踏みつけたまま、割られた窓から身を乗り出す。彼女の携帯電話を片手に突き出し、



「グリフォン召喚!!」



と喉が潰れるほど気合の入った声で叫んだ。


{ダレがグリフォンだよ}


召喚されたつもりのないリコネスが冷静にツッコむ。

妖怪人間ステート=シェリフは、呼ばれた意識もヤル気もないグリフォン・リコネスが苦手なようで、自身がツッコまれた訳でも無いのにぐわぁあぁと七転八倒し始めた。リコネスの声・恐るべし。


「かっかっか!追ってグリフォンより厳しき沙汰があるであろう、覚悟致せ!」


自分の権威でも手柄でも無いのに、印籠代わりに携帯電話を掲げ、何気にそれに頼りまくるサーベス。主人公のくせに、何だかカッコ悪い。



「サーベス」



リコネスがどすの利いた声で彼の名を呼んだ。シェリフだけでなく彼だってリコネスのことは苦手だ。天誅か。彼はもはやこれまでと、大人しく返事をした。


「・・・・・・はい」

{車、停めて}

「・・・・・・え!?」

しかし、彼にとって苦手なのはリコネス以上にシェリフだ。人間でないものは苦手だ。先程の出来事も思い出し、サーベスは半ば本気で嫌がった。

「何故―――!?」

{・・・サーベス、病院の中にも入るつもりでいるよね?}

サーベスは思わず警戒が解ける。急な話題の転換の上に、当り前の事を訊くのだ。ハンドルを片手で慣れた様子で緩やかに回しながら

「・・・・・そうだが――」

と言った。だが視線はハンドルではなくリコネスに向いている。リコネスの眼は己の首筋を射る様に視(み)ており、彼は再び警戒した。

「・・・・・・何だ」

{着替えてるみたいだけど―――}

サーベスは何も言わなかった。言えばまたつけ入られる。別れる前に着ていた服は、ボロ=マーシャルとの激闘であちこちが血に滲んだので逃亡の最中に独自で処理をした。国家刑事警察機構(あそこ)はいわば、庭に等しい。


{それじゃ、バレるよ}


サーベスはちらとリコネスを見る。意外な冷静さだった。

{―――普段着ないような服がいい}

すると、サーベスは露骨に不快そうな顔をした。

「・・・・・・この身一つしか持っていない」

{買いな}

「言っただろう?俺は文無し・・・」


{だからオバサンがいるんじゃねぇか}


サーベスが不意に背後を見る。斃(たお)れたシェリフとは存分に距離が開き、グリフォンリコネスの声も彼女には届かない。だからこそか。遠くでシェリフがムクリと起き上がる。また追って来る気だ。

サーベスは顔を蒼くして正面を向き、アクセルを強く踏んだ。

リコネスが何故平気でいられるのかが理解できない。



「ステート=シェリフは三大刑事機構シェリフ家の跡取娘―――火星のお偉い三大機関の警察部門を笠に着て入れば、病院(ソコ)でランダーを見つけるのは容易くなる」



確かに・・・とサーベスは口に手を当てた。


火星という星は一つの国であるという考え方が、世界人口の激減したこの時代には一般となりつつある。エトルリア等一部の民族を除いてだが。星単位での三権分立が整っている。


一は治安。治安を守れればそれは警察・軍問わない。話の成り行き上、この治安部分は国家刑事警察機構となるが、その国家刑事警察機構に更に三大名門と呼ばれる貴族が存在する。・・・もっとも、名家の一つであるマーシャル家は没落し、コンスタブル家は何をやっているか判ったものではないが。


二に航空。これは宇宙開発と共に国立航空宇宙局が担当している。マーズ=パスファインダーが務めており、現在は地球有人飛行がお盛んだ。


三は医療。この独立した三機関が互いに牽制し合う事でこの星の平和は成っている。政治という単語が一向に出て来ないのが実に興味深い現象だ。



「報道も第四権力に入れて欲しいもんだねぇ」

リコネスは笑いながら言った。



名門シェリフ家の跡取が来るとなれば、病院側も無下には帰せないだろう。何よりも、今回の件はシェリフは本当に無関係だ。護衛とでも称して入ればどうにかなるかも知れない。


いずれにしても、彼単独で入ったところで収穫は望めない。



「・・・・・・わかった」

サーベスは嫌々ながらも承諾した。

{・・・そーよサーベス。いうじゃん「清濁併せ飲む」って。真実を視ない綺麗さは単なる無知だ


「ダレが濁(ダーク)だ!!」

はぁはぁ動悸息切れさせながらも遂に車に追い着いた。


サーベスは車を無言で停止し・・・ニュッ!と印籠・・・ならぬ携帯電話を彼女に突き出した。

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