Ⅲ-Ⅷ.壊れる宇宙船火星号
オポはもどかしくて堪らなかった。いっそこの風がかまいたちであればいいのに。
自分が何をしたかったのかわからない。同時に何をして欲しかったのかわからない。彼の言い回しが気に喰わなかったのは事実だ。あそこまで責めようと決めていたのは自分だ。
なのに何故これほどまでに後味が悪い。
責めながら、ここまでやれば言い返してくるだろうと思った。自分だって辛かったのだと、責めてくれる事を期待していた。だけれど彼はそれさえも呑み込んでしまった。
責められなかった。責められたかったのに、責められないと、どうして自分を責めないのかと、気がつけば相手を責めている。それこそ一体どういう料簡だろう。
―――もう、わからない・・・・・・!!
泣きたい訳でも、寧ろ絶対泣きたくないのに、涙は止らず彼女の頬を濡らし続ける。これは一体誰のための涙であろうか。
この感情の裏に隠れる本当の気持ちは、思春期で騒ぐ彼女にはまだ発見できない。
サーベイヤーはちらちらと、助手席に座るシェリフを気にしていた。このひとは全く、何を考えているのか判らない。
半・というかほぼ強制的にここまで来た割には、彼の希望通りここまで逃避行をしてきた。
そして今、彼はスムーズに運転をしている。
捕まえたいのか、泳がせたいのか―――それとも、まだ仲間意識を持っているのか―――?
「何だいさっきからあたしの顔ばかり見て!・・・フフ、さては惚れてはいないだろうねー?」
「・・・っ」
サーベイヤーは首を180度回して、窓ガラスにごんと額をぶつけた。
うん、まだこっちの方がいい。また妙な勘違いをされるよりは。
窓ガラスに映った彼の顔がよほどだったらしく、シェリフはちぇーっと口を尖らせて、フェイシアをその怪力でゴンゴン殴ってエアバッグを無理矢理作動させた。
「何してんの!!」
クラッシュにも近い音に愕いたサーベイヤーがツッコむ。シェリフは急速に膨らむバルーンをバコッと殴って衝撃を無くすと、その上に脚を乗っけて寛ぎ始めた。空気が大量に入っているので、反発が高くてサーフィン気分。
「何って、フェイシア(コレ)に直接脚を乗っけたら痛いだろ?」
そこまでして脚をフェイシアに乗せる必要はあるのか・・・?ツッコミどころは山ほどあるが、彼女自体がツッコミどころの塊なのでもう言わない。
シェリフはリクライニング‐シートを倒して倒して弓形になると、ぎしぎしシートを揺らしながらあーあーあーと唸った。
サーベイヤー、全く以て集中できない。
「なーんーでーあーたーしぃ、モーテーなーいーんーだーろー」
ずざざっ。シェリフのシェリフらしからぬ台詞に、サーベイヤーは大きく車をふらつかせた。モテたかったんですか。
あなたのそういうところがモテないのですとは、さすがに言い切れなかった。
「てか、モテんだよあたしは!」
エアバックをばっこんばっこん蹴りながら魚の如くぴちぴち跳ね上がるシェリフ。モテるはずがないとサーベイヤーは心底思った。
「・・・何で、そんなモテたいんですか」
放置するのが可哀想に思えてきて、サーベイヤーは口を開く。するとシェリフは
「モテんだよあたしゃーー!!」
と奇声混じりに雄叫びを上げ、ばっこんばっこんぴちんぴちんに手を加えてぱたぱたさせた。始祖鳥ですか。
サーベイヤーは怖ろしくなる。モテない、というか人間なのかこのひと・・・・・!
「見合いの話はいっぱい来んだよ!んであたしも受けるんだよ!で最初は皆あたしにメロメロなんだよ!見合い終ったら死んでんだよ!後日何か請求されてんだよ!どう思うよあんた!!」
どんなお見合いしてるんですか・・・彼にといわず、誰もどうにも思えないだろう。疑問とツッコミどころばかりが出てくる。
シェリフがべこんと跳ね上がり、頭逆さにしていたのか血が上って紅く透き通る美白の素顔を現す。金色の髪を整えながらバック‐ミラーを自分の顔の高さへずらした。
「ほらぁーあたしこんなにキレイなのにぃー」
後ろが見えないのですが。シェリフは恐らく彼女の中ではとっておきの誘惑の笑顔、彼女語でいえば『男を惹っかけるカオ』をサーベイヤーにしてみせ、どうだ!!と意気込む。運転中なんですけど。
「・・・・・・」
確かに、美人だなとサーベイヤーは思った。同時に、美人なだけではだめなのだと思った。宝の持ち腐れだとさえ思った。
「・・・うん。いいんじゃない?」
むちゃくちゃ適当。いずれにしろ絶対恋人にはしない。
シェリフはうーん・・・と唸りながら、サーベイヤーを批評的な眼で見つめる。相当・・・・・・相当時間を掛けて品定めをすると、フッ、と微笑して言った。
「判定不可能」
「えっ!?何それ!!どういう意味!?」
全く予想し得ない判定結果に、サーベイヤーは思わず腰を浮かせた。まだ「微妙」と言って貰った方がよい。
「てかあんた、その年なら浮いた話の一つや二つはあるハズだろ!?言ってごらんよ、ほら!」
・・・・・・。サーベイヤーが黙っていると
「あ、判定不可能だもんね、あんた」
と、シェリフがつり上がった目尻をいやらしく下げて、ププ♪と笑った。何故だか妙に腹が立つ。
と、今度は運転席に進入してきて
「てかあんた、走るスピード遅いんだよ!ちんたらちんたら走ってんじゃ無いよ!」
と言い、ペダルを踏もうと脚を突っ込む。足を踏まれたサーベイヤーが遂にキレた。
「あなたがさっきから運転の邪魔ばかりするからでしょうが!!」
それブレーキ! サーベイヤーがシェリフの足を払う。急ハンドルになる。シェリフの腕がハンドルを回すサーベイヤーの腕に当り、ステアリング‐コラムにぶつかった。
ウィーンウィーン。
ワイパーが作動する。
「わお♪」
シェリフ感激。サーベイヤーがすぐさまレバーを上げるが、ボロッとレバーがコラムから外れ、アクセル‐ペダルの下に転がった。
ウィーンウィーン。
ワイパーは止らない。
「壊したね!?」
運転席から立ち上がるサーベイヤー。この車からドライバーが消える。シェリフは半分ヒヤヒヤしながらサーベイヤーの機嫌を取った。
「いいじゃないか!旅のお供にワイパー!こりゃ心強いねーねーディラン!」
「黙れキャスリン!これだからワイパーの腕しか持たない女はだめなんだ!運転というものを解っちゃいない」
何だかよく知らない名前が出てきた。彼に至っては人格まで変化している様な気がする。
ディラン・・否サーベイヤーは偉そうに腕を組んで、車のスピード‐メーターを感心する様に見た。
「見てみなよ!ブレンダはさっきからずっと安定してるだろう!しかも制限速度ギリギリで!これぞ運転の極意だ!」
・・・・・・メーターの名前はブレンダというらしい。キャスリンは焼き餅を妬いた。キャスリンはどうもシェリフではなくワイパーらしい。
「ま!何だいその女は!大体ねぇ、そんな変化の無い女はつまんないよ!絶対あんた向きじゃないね!」
「君はブレンダの事をよく解ってない。ブレンダはいつだって破目を外せる女だよ。ただそれを自制しているんだ。すぐ君かっとなる君と違ってね」
「・・・・あんたはその女のコトはよく言うんだね。でもあたしは信じられない!そんなに言うんだったらあんた、ココで見せてごらんよ!」
「・・・そうか・・・・・・」
ディランはキャスリンから理解を得る事が出来なくて、少し寂しそうだった。声のトーンが低い。
だが、気を取り直す様にメーターをきっと見ると、ウィンクをして気合いを入れた。
「―――いくぞ、ブレンダ!!」
サーベイヤーはアクセル‐ペダルをがっ!と一気に踏み貫いた。
ばきっ!
「・・・・・・」
こちら、メリディアニ班ヘリ担当。カウンティ=マーシャルとサン=バジリデは、月極駐車場に居た。ゴムくさい。
「・・・・・・」
カウンティ=マーシャルは何のコメントも無しに携帯電話を取り出し、掛ける。バジリデはあくまで無視されて、哀しかった。
早速か・・・局長室にてスープ・ヌードルを食すボロ=マーシャルは、至極面倒そうに電話を受けた。
「・・・何だ」
カウンティ=マーシャルが当然かの様に言った。
「マーシャル家の自家用車が在りませんが」
「ふーっ。ふーっ。捨てとけ」
ボロ=マーシャルがスープから引き揚げたばかりのヌードルに息を吹きかける。其のまま食べたら火傷してしまうから。
一頻吹いてからはぐはぐとヌードルを食うと、彼はカップの湯気から離れて立ち上がった。
「はぁ!?」




