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08. 魔法使いの封印

ʄʄʄ


そして数年が過ぎた。


こんなに長くミラトル(ここ)に留まるつもりではなかった。

誤魔化すのももう限界だったのだと思う。


机を挟んで向かい合っていたリスタに、ある時不思議そうに言われた。



「アルト、あなたもしかして年を取らないの?」



秘密の発覚に息を吞む。


うつむいた時、だが安堵もしていた。



「わたしのこれは――――――――――呪いなのです」



隠し続けていたことを絞り出すように告げながら、ようやく言えると思った。


わたしは多分、あなたより年上なのだと。


ʄ


魔法と呪い。


どちらも魔法使いが魔力で掛けるものだが、悪意で掛けられるものは「呪い」と呼び分けられていて、呪いは大抵、解除や停止が難しい。


「わたしは当時、グランタイル帝国に仕える帝国魔法使いでした」


向かいの席で耳を傾けているリスタに、わたしは初めて、自分の本当の素性を告げた。


リスタとわたしは同じ時代の生まれで、おそらくわたしの方が少し年上だった。



今は国名も王朝も変わった小さな国が残っているだけで滅んだも同然のグランタイル帝国だが、五百年前は大陸を征服するのではないかと言われていた強大国だった。


その帝国の、わたしは魔法使いだった。


もっとも、「魔力がある者」を「魔法使い」とするなら当時はまだ、王族や貴族はほぼ全員が魔力を持っていた。「国付きの魔法使い」とは、その中でも強力な魔法を使いこなし、その魔法がなければ出来ない仕事を担う者を指した。言うなれば「職業魔法使い」だ。


当時の帝国の支配地で「レベルゼの迷宮」が発見されたのは、わたしが25歳の時だ。


古代の魔法使いが遺した迷宮は今も世界中に眠っていると言われているが、レベルゼの迷宮の発見はそれが史上初めてのことだった。それから今日まで、レベルゼの迷宮がほかに発見されたことはない。



「人類史上最強」とうたわれる魔法使いは二人いる。



一人が魔法図書館の創造者パウセで、もう一人が、レベルゼだ。



帝国最強クラスの魔法使いがほぼ根こそぎ召集されて、レベルゼの迷宮の制圧を命じられた。


その中にわたしもいた。


「古代の魔法使いが造った迷宮には、古代の偉大な魔道具がたくさん遺されているのです。―――――――古代の魔法使いは、自分の魔力に強烈な自負心を持っています。貴重な魔道具を迷宮に隠し、魔法の罠を何重にも張り巡らせています。それは、その罠を破れる者にしか魔道具は渡さないと言う挑戦状なのです」


そして迷宮で百人近い仲間が失われた。生存者は、わたしを含めてわずか五名。


そのの帝国の衰退はこの事件がきっかけだ。


わたしが自分に掛けられた呪いに気付いたのは、帰還後かなりの月日が過ぎてからだ。魔法図書館の職員が図書館の外に出ることが出来ないように、その呪いにも何かの制約があったのだと思う。五人の生還者の中で呪いが掛かっていたのは、わたしだけだった。


わたしの外見すがたが25歳で時を止めてから、じき五百六十年になろうとしている。


五百六十年、この呪いを解くこと―――――――――死ぬことがわたしの悲願だったのに。


やっと終わりが見えたのに、わたしは今、躊躇ためらっている。


「一度は結婚の約束を交わした女性もいます。でも呪いの話を告げると、彼女は去って行きました」


その話をしたのは、それを言わないことは卑怯に思えたからだ。



「わたくし達、同じ時間を生きているのね」


そう言われて「はい」とうなずいた時には、気持ちが言葉となって溢れ出しそうだった。



無限に繰り返されるこの先の明日あしたも、あなたと共に生きられるのなら――――――



だがわたしを見つめてリスタが浮かべた微笑みは慈母のようだった。



「どうぞこれからも魔法図書館ここにいらして。わたくしきっと、これからの長い月日も、あなたの話し相手くらいにはなれるわ」

「――――――――――――――――――」



何も言えなくなった。


終わりが来ない道を隣で歩こうと言ってくれているのだと分かったが、同時に線を引かれたとも感じた。



リスタが口にした「この先」では、わたしとリスタの関係は、「客と職員」のままだった。


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