↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
61/66

61. 魔法使いの一番長い夜

ʄʄʄ


可能な限り急いだのだが、大陸を横断してミラトルに帰り着けたのは三日目の夕方だった。


リスタを心配させている。


真っ直ぐに図書館に向かいたい気持ちを耐えて、ず屋敷に戻った。

オーディーに無事を知らせるためであるのはもちろんだが、時間を考えてのことでもあった。


リスタとじっくり話すのなら閉館間際の時間に訪ねた方がいい。どうせ帰宅するのなら旅装を解いて身なりを整えようとも思っていた。―――――――もう一度求婚するつもりだったからだ。


屋敷はミラトルから貸与されているものだったが、無事に全てを終えた時にはここに帰宅するつもりだったので、退去日は保留させて貰っていた。


玄関ホールで待っていると、女中に知らされたオーディーが転げそうな勢いで廊下を駆けて来た。



「アルト様――――――!!」

「――――――――――――オーディー……」



それ以上言葉が出ない。向かい合い、ただ微笑むとオーディーはそれで全てを察してくれた。変わらぬ真っ直ぐな背筋で一礼される。



「お帰りなさいませ」



涙声が聞こえた時、込み上げるものがあった。


だが再会を喜び合えたのはその数秒だけだった。体を起こしたオーディーの顔には緊張と焦りがにじんでおり、その予期せぬ表情に戸惑った。



「アルト様。リスタ様がこちらにおいでになりました!」

「!!」



考えてもいなかった言葉に声を失う。



図書館を出たのか?!リスタが――――――――――――



思わず辺りを見回したのは、リスタがここにいるのかと思ったからだ。あの場所に彼女を縛り付けていた全てを乗り越えてわたしの所に来てくれたのだと思った。


しかしリスタの姿を探すわたしにオーディーは激しく首を振った。


「申し訳ありません。お止めすることが出来ませんでした。リスタ様はアルト様を追うとおっしゃって、もう三週間近く前にミラトルを発たれました」

「―――――!!」


その瞬間に千切れ散る白い布の姿が脳裏に甦り、全身から血の気が引いた。


恐ろしい予感で心臓が冷たくなる。



あのハンカチはリスタ本人と繋がっているのでは。



「……!」


三週間。ではわたしが迷宮に向かったすぐあとにリスタは。これが数日のことならすぐに追えたが、三週間も経っているとなれば相当に遠くまで移動しているだろう。



リスタ……!!



今どこに。


全神経を集中してリスタの気配を捜した。これ程までに広い範囲で人を捜したことはなかった。この規模の探査は大海原で一本の針を見付け出すのに等しい。極限の集中で息が出来なくなる。


「アルト様……!!」


頭の奥に痛みを覚え、半歩分だけ体が揺らいだ。


一分、二分――――――――――――


張り詰めた空気の中で時間が無言で過ぎる。


だが十四年間、毎日のように捜した気配だ。必ず見付ける。魔力のありったけを注ぎ込み意識を集中し続けた。そして。



いた!!



微かな安堵と大きな絶望が同時に心を襲った。見付け出した気配は今にも消えそうに弱っていた。


あんなに近くに来ていたのか……!!


なぜ気が付かなかったのか。自分に怒りを覚える。リスタはもう、あと二日もあればウルドエンドに辿り着けそうな場所にいた。


「オーディー!!」

「はい!」

「リスタを迎えにウルドエンドへ戻る!後を頼む!」


それだけ告げて、わたしは帰って来たばかりの家から飛び出した。


ʄ


轟音が大地を揺らした。


帰路では控えていた音速で飛んだ。地上に被害を及ぼさぬように高度は上げたが、音と光は隕石のようだったろうと思う。


太陽に逆行して飛んだために一時間も経たない内に夜になった。


それから食事も休憩も取らずにひたすら飛び続けた。



六百年の人生で一番短くて長い夜を。



不死の呪いを失った体はもろい。逆方向から地球を半周して来た朝と出会った時、目が霞んでいた。それでも音速を保った。目標のかなり手前で速度を落とさなければ安全に止まれないと分かっていたが、限界まで粘った。


リスタ……!行くな……!


やがて太陽がすっかり昇り、世界が白く染まった。

これ以上進むと止まろうとしても間に合わず、リスタを通り過ぎてしまうという地点で急制動を掛け、高度を落とした。


胃液が逆流する。


「……!」


歯を喰いしばった。


地上がぐんぐんと近付く。



草木がまばらな荒れ地に道が見えた。その道にそのひとの姿はあった。



「リスタ!!」



絶叫する。


三週間ぶりに姿を見るリスタは魔法図書館の制服を着ていなかった。初めて見る姿で、馬車や人が行き交う道にうつぶせに倒れていた。それでもリスタを、わたしは見間違えない。



「リスタ!!」


宙から降りて来る人間を見た人々のどよめきが聞こえた。倒れているリスタに近寄ろうとしている人もいた。保護魔法で衝撃を緩和し、そこに落下と変わらぬ速度で降りた。


膝の上にようやく彼女を抱え上げ、名を叫んだ。だがリスタは目をひらかなかった。

その体から急速に生命いのちの気配が消えて行くのが分かる。


何度も名を叫び、体を揺さぶり、必死に呼び戻す。



行かないでくれ。


あなたを失ったら、この世界ばしょに戻って来た意味がない!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。