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47. 最後の扉

ʄʄʄ


「?!」


白い壁と空が見えた。


宙で体をひねると、最早見慣れた物となった白大理石の床がに映った。


ゴウン……


今飛び出た巨大な扉が重い音と共に閉まろうとしている。左隣の同じ大きさの扉の前に、少し前に獲得した魔道具が置かれていた。


最初の広間―――――――……!


肩で息をきながら、思わず右手に顔をうずめた。右肩に背負っていた大きな魔道具がずり落ち掛ける。


「……!」


気持ちを抑えられなくなり、それを宙から床に向かって叩き付けた。



ガシャアアアァンッ…………!



派手な音が立ち、円筒形の空間に反響する。魔道具は数回跳ね、石の床がわずかに砕けた。どれだけ強力な強化魔法が掛かっているのか、それでも折り畳まれた「投影の天幕」が壊れる様子はなく、それが余計に腹立たしかった。


偽物の空を見上げて、喉を裂くようにただ叫ぶ。


二十五個目。八つ目の扉。


「解呪の宝珠」がまだ見つからない。


わたしは余程運が悪いのか?!


心の中で罵りながら、本当に運の問題であるならその方がまだましだとも心のどこかで思っていた。

扉の中が挑戦者によって入れ替えられているのだとしたら、宝珠が見つからないのは偶然ではなく、そう仕向けられているのかもしれなかった。


「――――――――――――」


体の力が抜ける。ふらつきながら閉まった扉の前に着地して、その場に座り込んだ。可能性は低いと分かっていたが確認は必要だ。右の手袋を外し、八度目の傷を付けた。てのひらにぱっと赤い線が走る。


そして。


「っ………!」


分かってはいたのに、傷がすぐに塞がり始めるのを見て打ちのめされる。


「なぜ………」


額を左の手に押し付ける。


この迷宮にもう一度挑むことを目指していた五百年、ずっと命の危険がある場面で突然解呪されることを恐れていた。まさかここまで宝珠が見つからないとは。


これが意図的だとするのなら、なんのために。

一番必要としている魔道具が最後になる魔法でも仕掛けられているのか?


あらゆる資料を集めてレベルゼの人物像を研究して来たのに、その考えが分からない。


残酷で冷酷ではあっても、無意味に人をいたぶってたのしむ性格ではないと思っていたのに。まさか「迷宮の完全制覇目前まで頑張らせてから殺そう」とでも言うのか。


心が折れそうだった。


「―――――――――――――」


その時、ふいにまた胸が温かくなった。


―――――――――リスタ……!


その場所に手を当てると逆立っていた心が和らぎ、少しずつ落ち着きを取り戻して行く。



「……ごめん、待たせて」



あと二つだ。たった二つでいいのだ。必ず帰る。


気持ちを立て直した。


この迷宮から生還するために、五百六十年をかけた。帰って見せるから。必ず。


右を見上げると、取っ手に短い鎖を巻き付けた扉がある。そこが最後――――――――九番目の扉だ。



「やっぱりこれだったのか……」



最初にその扉に鎖の印を付けたのは、方向を見失わないためだけではなかった。

この扉か、今制圧を終えた八番目の扉のどちらかが迷宮の出口に繋がっているのではないかと予測していたからだ。数百年と言う長い年月、古代の魔法と迷宮についてもさんざん研究して来た。入り口の神殿とこの場所は恐らく完全な別空間ではない。


扉と神殿の柱は、コインの表と裏のような重なり合った存在だ。多分出口も重なっている。八番目と九番目の扉は、神殿の階段を挟む位置に立っていた柱に相当している。このどちらかに出口があるのではないかと予想していた。

九番目の扉の向こうに出口があるのなら、推測が正しかったことになる。



だが今、別の可能性が頭をもたげる。



六百年近い人生の中で出口のない迷宮を見たことがなかったし、話に聞いたこともない。だから考えなかった。


だがもしかしたら、この迷宮の出口は全ての「試験」を突破するまでひらかないのではないか。



レベルゼは何を求めている?



底の知れない存在ものに対峙しているようで、ぞくりとした。




ʄ


やっぱりあなたの色を入れてほしかった。


ポケットから取り出したハンカチをしばらく見つめていた。九番目の扉の前で、体力が回復するのを待っていた。


偶然ではないのだとしたら、恐ろしいと思っていたことがもう一つある。


あの場所にまだ出会っていない――――――――――あの日、九人の隊員達と足を踏み入れた場所に。


あれが正規の出口とは思えない。ただこの迷宮から出られる可能性のある、自分が知る唯一の場所。



「…………」


刺繍に唇で触れてから胸に仕舞い、鞄に異常がないことを確認して立ち上がった。



あの時広間に戻らなかった仲間達が命を落としたのは確かだ。


迷宮の周囲の広大な森の中に、彼らの遺体からだは散乱していた。応援が来るまで遺体を回収して回ったのは生還者の中で唯一人無傷だったわたしだ。遺体の半数はそうだったが、ヴァリィの遺体は服以外判別出来ない状態だった。



レベルゼの迷宮から脱出を果たした者は五名。女性の生還者は、いなかった。



ゴウン……



九番目の扉が重く低い音を立てながら開き、白い空間の明度が増した。


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