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44. 光の罠の突破

「ッ……!」


眼前で腕を交差させて頭部を守り、咄嗟に光が一番濃い方へと移動した。一番安全なのは恐らくそこだった。


予想は当たってはいたが、経験した恐怖は強烈だった。


幾つもの光の粒が保護魔法と体を擦り抜けて行く。


かなりの数の光をやり過ごしたが、被弾を完全に防ぐことは出来なかった。


体を倒し、うつぶせに近い姿勢を取っていたにも拘わらず、左膝の辺りに着弾して炎が上がる。


「……!」


火の色と衝撃が生じ、保護魔法ごと体が舞い上がる。景色が何度も激しく回転した。懸命に制動を掛けると、体に強烈な負荷が掛かった。治癒しかけていた肺にまた痛みを感じる。だが最大強度の保護魔法はひび割れさえ起こさずに耐えており、世界は無音だった。


ようやく回転を制しかけた。だが体が止まりかけたその瞬間。再び被弾し、今度は下へと弾き飛ばされた。


凄まじい水飛沫(しぶき)が上がり、数瞬何も見えない。白波が小さくなり、自分が水中にいると理解した時にはどちらが上なのか分からないくらい方向を見失っていた。



これでは魔道具に近付けない……!



保護魔法は耐え続けてはいるが、身を守っているだけでは魔道具に近付けない。突破に時間が掛かると保護魔法の中の空気も尽きてしまう。


水中を進めないか。


そんなことを考えた時、水の中に沢山の光が見えた。


「……!」


けきれない!


反射的に上昇してしまった。水上に無防備に出た瞬間に衝撃に襲われる。


きりがない……!


また被弾していた。こう次々と被弾していては光の歪みを修正する隙がない。


それでもやるしかなかいのだ。


これは「試験」なのだとつくづく感じる。

挑戦者をただ殺したいのであれば四方から狙うだろうに、それはない。光の粒はずっと川下の霧の中から発射され続けている。そして魔道具を手に入れるためにはそこに向かわなければならない。


と、宙で体が制止する一瞬が訪れた。その瞬間を逃さなかった。


「――――――――――――」


川下に向かい、視界のずれを修正する。目に映る光の位置が変わった。すぐそこに迫っていたそれをぎりぎりでけた。


下、右、左。進路を激しく変えながら飛んだ。少しでも距離を詰めたかった。六度の被弾で最初の場所からかなり上流まで押しやられている。


意外な効能だったが、一切の音がないせいで幾らか集中しやすい。だがそれでも、体力を削がれるレベルの異常な集中だった。与えられている時間があまりに短く、修正しなければならない視界の範囲があまりに広い。先刻さっきから何かが気になっているのだが、考えをまとめる余裕もない。



ドンッ!!


「!!」



突然の衝撃と共に再び体が吹き飛ぶ。



やられた……!



保護魔法の中の空気が尽きるか、体力が尽きるか。この攻撃を全てかわし切るのは至難の業だ。しかも目標に近付く程()けるのが困難になる。


ける以外の方法があるのではないか。


吹き飛ばされながら思った。レベルゼがどんなつもりであったのだとしても、その意図を汲んで対応する気など最初からない。


わたしの目的は二つの魔道具を手に入れて生還することだった。


圧力に抗って体を起こし、保護魔法をもう一つ張った。自分の前方から上空までの広大な範囲を覆う保護魔法を。


「…………!」


巨大な盾が光の粒を次々と受けた。


最高強度の盾と最強の魔法使いの攻撃がせめぎ合い、世界が揺れる。

あの小さな光の粒にどうやったらこれだけの破壊力が宿るのか、原理が分からない。

炎の色に空間が染まる。川が生き物のように暴れ、両岸の土が割れた。迷宮のこの区画ごと壊れそうな激しさに魔道具が失われるのではないかと恐怖した。


……!


盾を押し出しながら進むことも考えていたのだが、魔道具を危うくするのならこの選択は採れない。


ただ数秒間被弾を防げたお蔭で、感じていた違和感の正体を掴むことが出来た。


これまで放たれた光の粒のほとんどが爆発していないように思えた。「ほとんど」と言うより、わたしに当たった光しか爆発していない気がする。


幾度も吹き飛ばされて周囲を見るどころではなかったのだが、数百は放たれていた光が全て爆発していたら、直接被弾していなくとも爆風を食らい続けて身動き取れなかっただろう。



挑戦者もくひょうに着弾した時だけ爆発するのか―――――――?

それとも保護魔法に触れた時だけ………?いや、東屋が最初に爆発している。なら爆発は目標に着弾した時―――――――――


「――――――――――――――――」


ふいに気が付く。


わたしは東屋に光が着弾するところを見ていない。東屋を破壊したのは別の魔法かもしれなかった。その直感に息を呑む。


これもレベルゼの罠だったのかもしれない。



……試すべきか?保護魔法を解除して……?



危険な賭けだが、被弾しても爆発しないのなら格段に進みやすくなる。確認する価値はある。


「………」


胸に手を当てた。


気持ちを鎮める。


自分を包む小さな魔法の膜を解除した途端、鼓膜が破れそうな轟音に晒された。だが気持ちは落ち着いたままで、すべきことを考えていた。


呪いのせいで体の一部を失っても再生するが、失った範囲によって再生には相応の時間が掛かる。意識を失うため頭部や胴体の破壊は避けたい。犠牲にするとしたら腕だった。


「――――――――――――」


新鮮な空気を取り込んで、もう一度魔法の膜で自分を包み直した。だが右腕は覆わない。


と、その時弾が途切れて一瞬だけ爆発が止んだ。巨大な盾越しに霧と、その中に瞬く光が見える。視界を修正した。そして広大な範囲で被弾を防ぎ続けていたその盾を解除した。


光が放たれる。自分も光に向かって同時に飛んだ。


「……!」


右腕だけに上手く食らわなければならない。


「―――――――――――――――――――!」


次の瞬間、激痛が走り呻き声が漏れた。


「……ッ……ゥッ……!」


右腕を光が貫通していた。


傷口から血が噴き出す。だが爆発はしなかった。腕も失われてはいない。


「………」


つまり保護魔法に触れなければ爆発しない―――――――――――!


恐怖はあった。だがこのままでは罠を突破出来ない。


躊躇は半瞬だった。空中で魔法の鎧を解除する。胸ポケットだけ、左手で覆った。


攻撃は時間を追うごとに激しさを増している。


可能な限り身をかわしても何度も被弾した。


肩、足、腹――――――――強化魔法を掛けた服を突き破り、光の粒が体を貫き、その度にしびれるような激痛を感じる。だが爆発はしない。だから痛みを無視して加速した。


血で覆われながら、その場所へと辿り着く。


目の前に白い霧が広がった。水の膜の中で光がまたたく。構わずに突っ込んだ。


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