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42. 光の罠

ʄ


巨大な扉がゆっくりと開く。


精神を整え、覚悟を決めてから足を踏み出した。


「!」


一瞬だけ光に包まれたあと、これまでにない展開に迎えられた。


体が戸惑う。


高さも奥行きも小さい、狭い空間だった。だが全てが白い。巨大な広間が突然縮小したかのようで、距離感を掴み直すのに刹那の時間がかかった。


入り口の神殿や夜の神殿に比べてずっとささやかな円柱がすぐそこにあり、やはり円形の床を囲んでいた。壁はないのに、柱と柱の間も白く霞んでいて外が見えない。


ゴウン………


背後で扉が閉まる重い音がして振り返ったがそこに扉はもうなく、あったのは前方と同じ景色だった。見上げると上は丸屋根で、これまで見て来た神殿の最小版と言った様子だ。この規模になると、神殿と言うより東屋と言った方がしっくり来る。


水音……?


さあっ、と、川の流れのような音が聞こえ続けていた。


「……」


まだ何も起きない。慎重に歩を進めた。


東屋の端まで、ほんの五歩の距離だった。


円柱の間を白く埋めているものが霧だと、近寄って気付く。だが霧は建物の中には流れて来ない。そのせいで、それはまるで東屋の白い壁のように見えた。


保護魔法で包んだ手を付き出してみる。


遮る物はなく、右手は呆気なく霧に触れた。


「………」


今度は風を送り込んでみた。


「……!」


どうやら霧が濃いのは東屋のすぐ外側だけらしい。水の粒子は簡単に吹き散り、薄くなった膜越しに向こう側の景色が見えた。



川…………いや、池……?



地面はわずかにあるだけで、建物のほぼ真下がなみなみとした水面みなもだった。ただその水面みなもがあまりに穏やかで、川か池、あるいは湖なのか判断に迷う。水面みなもを挟んだ先には緑が生い茂る岸が見えた。


この東屋が川(べり)に建っているのか小島のような場所に建っているのかは、背後の霧も散らしてそちら側の景色も見てみなければ分からない。


その時、視界の端が鮮やかな色を捉えた。


黄色やピンクや白。


「!」



花だ。ほんの数輪だったが、花だった。



茎や葉はなく、華やかな花冠かかんだけが寄り集まって、いかだのように流れて来る。


残酷な場所で出会った思わぬ可憐な光景に言葉を失う。



流れている………川なのか?



挑戦者に流れがあることを教えているのだろうか。まるで童話のような可愛らしさで、花は東屋の前を通り過ぎて行った。


それ以外、まだ何も起こらない。


「…………」


きびすを返し、東屋の反対側へと歩いた。風を送ると、霧はまた容易たやすく散った。

こちら側もすぐ下が水面みなもだった。少し向こうにやはり対岸が見える。


中洲のような場所にいるのか?


左右を見渡そうと体を乗り出した時、また花が、今度は左側から流れて来た。


「――――――――――――」


これが何を意味しているのかと考えた。


魔道具の気配は今いる場所の右手に感じる。近くはない。ここが川で左手側が上流だとするのなら、ずっと下流の方だ。流れる花の意味はまだ掴めなかったが、魔道具を目指すのなら東屋を出るしかないだろう。


取り敢えず外に出てみようとして、何かが引っ掛かった。


はっとする。



光魔法か!



東屋を挟んで両側を流れて行った花。


多分どちらも全く同じだった。この水音もおかしいのだ。水面みなもはほとんど動いていないようにすら見えるのに、音が大き過ぎる。


歪められている光を調整し、正解の景色を探った。レベルゼは恐らく、挑戦者に秒単位の時間しか与えないだろう。正解を瞬時に探り当てた。


に映る光景が変わる。


「!」


流されている!


東屋自体が流されていた。


光魔法は、光を操ることで物の位置をずらして見せたり二重に見せたりすることが出来る魔法だ。幻影魔法とは異なり、全くの造りものではない。正解の景色はある。


東屋の正面の景色が、今こちら側にも投影されていたのだ。本当のこちら側の景色は穏やかな流れとはかけ離れていた。


向こう岸がない。水の向こうには何もなかった。自分がいる建物は小さな地面ごとそちらに吸い寄せられようとしていた。



落ちる!!



突然、足の下の感触が消えた。

ぐわん、と床が斜めになり、体が持って行かれそうになる。東屋はゆっくりと左回りに回転しながら倒れようとしていた。


なんとか体を宙に留め外に飛び出そうとしたが、目の前に迫ったのは白い柱だった。


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