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40. 限界の迷宮

ʄʄʄ


幻覚。


腹落ちはしなかったが、それが一番もっともらしい結論だった。

無理にでも結論を出さないと、このハンカチをポケットに戻せそうにない。


左手に握ったハンカチを胸に押し当てる。



リスタ―――――――――――――



どう理解すればよいのか分からなかったが、わたしはリスタに救われたのだ。あのままだったら自分がどうなっていたのか想像出来ない。


心がまだ激しく波立っている。



次に進まなければ。



先刻さっきから何度も思っているのだが、空腹感が限界に達していることもあって未だに立てない。


そう言えばまだ確認していなかったと思い出す。


さすがに呪われた直後に解呪されるとは思えなかったが、確認は必ずしておかなければならないだろう。



「――――――――――――――」



理由が出来たので、ようやくハンカチを服の内側のポケットに仕舞い、詰襟のボタンを上まで閉じた。


少し期待してしまっている自分がいたが、数秒経っても抱き締められている感覚は生じない。


何かの奇跡だったのか幻覚だったのか分からないが、おまけくらいしてくれたっていいだろうにと、この世ならざる存在ものに対して愚痴をこぼしてから右の手袋を外した。


「………」


広間の中央を見ると、四つ目の扉を入る前にそこに捨てた筈の血を含む水が消えていて、それがあの時のことを鮮明に思い起こさせた。



§


白大理石で造られた巨大な空間。


自分が目にしているものを受け容れられなかった。


最初の広間―――――――――――――

外には出られなかった。


だが受け容れられないのは転移したことでも外に出られなかったことでもない。


何もないことだ。


空間を埋め尽くしている筈の氷も、その下敷きになった筈の仲間達の遺体も。

全てが何ごともなかったかのように復元されていた。


造りが同じだけの別の場所なのか。


その可能性もある筈だが、「勘」がそれを否定する。


「あああああああ…………」


背後から声が聞こえて、どきりとして振り返った。


後ろに隊員達がおり、自分は一人ではなかった。だが明らかに人数が少ない。


女性三人、男性六人。


顔触れを見て神殿に辿り着けた隊員だけだと気付く。


精神的な限界はうに超えており、皆呆けたようにただ立ち尽くしていた。異常な量の魔力を使った直後で自分も崩れそうだったが、頭のどこかが不思議と冷徹に醒めていて、膝を着くことを許さなかった。


自失している場合ではない。


もう一度あの罠が発動したら、今度は切り抜けられない。前回なんとか氷の重量を支えられたのは最高位が四人いたからだ。


今度はわたししかいない……!


気力を振り絞って声を出す。


「上昇して前進!あの扉を開ける!」


隊員達は一瞬だけはっと我に返って、それから機械のようにわたしの言葉に従った。


その扉を選んだのはただそれが正面にあったからと言うだけだ。扉の区別など最早全く付かない。しばらく前にみんなでくぐった扉がどれなのかさえ、全く分からなかった。


全員で一塊ひとかたまりとなって巨大な空間を中央から端へと飛び、飛びながら魔力で扉を開けた。


ゴウン………


重い音と共に光が口を開ける。入った先に何があるのかは分からない。一度目は地獄を見た。


「……扉を支えながらここで待機!」


最終的にそう命じて宙で止まった。罠の二度目の発動はないかもしれず、もし発動がないのなら扉に迂闊に入る方が危険だと思った。



しばらく経つと、わたし達は床に降りていた。


罠の二度目の発動はなかった。もしかしたら自分達は今、一番安全な場所にいるのかもしれない。


だがここが最初の広間だとしたら、みんなの遺体はどこへ、


胸搔き乱される思いの中で、わたしは大隊長とテイル達に呼び掛け続けていた。


これ以上の底なんてないと思っていたのに。


テイル達と思念を繋げることは出来たが、どれだけ捜しても大隊長の反応はもうなかった。


もう反応が返ってくることはないだろう。


そう結論付けた時、わたし達は数瞬、無言だった。


ぎりぎりで自分を保ち、隊員達に気取られないように表情を押し殺した。それから簡潔な言葉で、奇妙に淡々とわたし達は互いの状況を知らせ合った。


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