32. 迷宮攻略
ʄʄʄ
「!!」
飛び出した勢いで反対側の壁にぶつかりそうになり、壁に魔力をぶつけて反動で勢いを殺した。空中で体が転がる。
最初の広間だ。
体を襲う衝撃に歯を喰いしばって自分が飛び出してきた方向を見やる。
ゴウン……、と重い音を立てて、巨大な扉は自動的に閉まろうとしていた。飛行したままふらふらとその扉の前まで戻って着地する。
ガラン、ガラン……
綴じた扉の前で手にした二つの魔道具を投げると、自分以外の何者も存在しない場所に派手な音が鳴り響いた。
「雷雲を造る杖」と「遠視の水鏡」。
六つ目と七つ目。どの魔道具にも強化魔法が掛けられているようで傷一つ付かない。
肩で激しく息を吐きながら先ず「目印」を探した。
祭壇が消えた後、最初の攻撃が始まる前に扉の取っ手の一つに鎖を巻き付けておいた。
その扉と目の前の扉の位置関係を見て、自分が間違いなく入った扉から出て来たのだと確認する。扉の中が入れ替わる可能性はゼロではなかった。
更に、扉の見分けが確実に付くように、制圧した扉の前にはそこで手に入れた魔道具を置くようにしている。
今制圧を終えたのは三つ目で、左に並ぶ二つの扉の前には確かに、自分が置いた時の姿のまま魔道具が置かれていた。
爆発にも耐える扉と床はどれだけ傷付けてもすぐに再生するため、刻み付けるような印は付けられなかった。しかも扉は開けても自動的に閉まったので、目印に一ヵ所を開いておくようなことも出来なかったのだ。
「………」
扉に異変がないと分かってから右の手袋を外した。
確認しなければならないことがもう一つある。
ヒュン……
空圧で横一閃に傷を付けると、掌がぱっと赤く染まった。だが血が流れたのはほんの数秒のことで、傷口はすぐに塞がった。治癒魔法は使っていない。
「―――――――――――――」
ほっとしたと言うべきなのか。
わたしの体はまだ不死のままだった。
呪いを解くために迷宮に来ているが、ひとたび解呪されればここではいつ死んでもおかしくない。気付かぬ内に解呪されることは、最も恐れていたことの一つだった。
気付けたとしても、もし早い段階で――――――「からくり小箱」を見付けるより前に呪いが解けてしまった場合、「小箱」を手に入れて脱出を果たすまでの時間は文字通り命懸けになる。
息がまだ鎮まらなかったが、取り敢えず空中に水の塊を生成し、右手を包んだ。薄朱く染まった水を広間の中央辺りに飛ばして捨てる。それから手に残った水気を蒸発させて手袋を嵌め直した。
次に進もうと右を見やる。扉の制圧をわたしは時計回りに進めていた。
そこで少し躊躇した。空腹を感じた。
食べなくても死なないくせに、わたしの体は魔法図書館の職員と違って空腹も眠気も覚える。体になんの異変も感じなかったせいで、五百年前、自分が呪われていることにすぐには気付けなかったのだ。
持ち込んだ携帯食を食べるべきか考えて、やめておくことにした。不死の呪いが解けてから脱出に時間が掛かった時、餓死しかねない。食糧は残しておいた方がいいだろう。
「………」
足元の魔道具を見やる。
「遠視の水鏡」―――――――――――――――
食事休憩を取らない代わりにそこに座った。




