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30. 水没の迷宮

ʄʄʄ



バンッ!!!!



空間がびりびりと鳴り、足元で水が爆発的に四散する。


空中で踏みこらえようとしたが、予想を超える反動に体を持って行かれた。


「……!」


吹き飛ばされて水中に突っ込み、激しい水音が立つ。水(がめ)の蓋はすぐに閉じると知っていたのでぞっとしが、意識を失っていないのだから深刻な状況ではないと気を持ち直した。体勢を立て直し、圧力に逆らって上昇する。


水上へと脱して見上げると、円形の空が見えた。


何もない――――――――――――ただ魔法の残骸が金色の粒子となって、ずっと高い場所できらきらと瞬いていた。



壊せた――――――――――――――



大量の水はまだ波打っており、重たい音を立てている。


だが数秒後、水面は音もなく唐突に大理石に戻った。


その床に宙から落ちるように着地する。息が荒い。短距離を全力で走った時のような急激な心拍の上昇。


大量の魔力を瞬間的に使ったせいで消耗していた。不死の体はすぐに回復するが、大きな負荷が掛かった直後はそれなりに疲弊する。


保護魔法で身を包んでいなかったら、弾け飛んだ衝撃で骨や内臓もやられていただろう。だが完全に無傷ではいられなかったようで、耳が少しおかしい。


用意した詰襟の服や背負っている鞄には強化魔法を掛けてあったが、視覚と聴覚の制約を避けるために頭部は覆っていなかった。


肩で息をきながらもう一度空を見上げる。



魔法の破壊。



成功した。



レベルゼの魔法の破壊に。



魔法は本当は、原理さえ分かっていれば、機械を分解するように分解して安全に無効化出来るものだ。だが古代の強大な魔法使い達の魔法は、わたしが知る魔法とは別次元の何かだった。


原理の分からない魔法を無効化するための最終手段が「破壊」だった。


魔力をぶつけてほかの魔法を破壊するという乱暴なやり方で、何が起こるか分からず安全性は保証されない。今も身構えていたのに反動に耐え切れなかった。破壊を実現出来るだけの魔力量も必要で、対象の魔法が強力である程必要な魔力量も大きくなる。


レベルゼの魔法の破壊は、五百年前のわたしには不可能だったろう。



まだ次がある――――――――――――――



五百年前とは違う展開になったが、次の攻撃が停止するとは思えない。まだ激しく打っている心臓を抑えながら来るだろう次に備えた。


上方に目を凝らす。遥かに高い位置で何かが無数にきらめいていた。



ヒュン……



一気に落ちて来た。最初の光球より速い。


針のように細い、大量の氷の矢。


「………!」


蒸気が上に上がらなかった分か、と以前と違う光景を見ながら思う。


あの日降った氷の矢は、重量だけで人が殺せる巨大さだった。最初の爆発で大勢の仲間が倒れていたが、重症者に治癒魔法を掛ける猶予さえレベルゼは挑戦者わたしたちに与えなかった。


氷の重量をなんとか空中に押し留めながら扉の一つに逃げ込んだ時には、わたし達は既に部隊の三分の一を失っていた。


「―――――――――――――」


今回は逃げない。必要がなかった。


矢を受けるように宙に高温の層を生成する。



―――――――――――――ざああああぁぁぁぁ………………



氷が熱の膜を通り、雨となって迷宮に降り注いだ。


あの時降った大量の巨大な氷矢と比べれば、ささやかなものだった。


上を向いたまま雨を受け止める。保護魔法越しだから濡れもしない。


それからしばらく待った。「最初の罠」を退しりぞけたのだと分かるまで。



「――――――――――――――――――――――」



静かだった。静寂の分、耳の中の痛みがじんじんとうるさいくらいに。


三撃目があるならばとっくに仕掛けられていると思える時間が過ぎても何も起きない。


落ちた筈の雨は吸い込まれたかのように消えていて、石の床は輝いていた。



一つ目の罠を突破したのだと思う。



「…………」



胸に手を当て、ポケットごとそれを握り締めた。





リスタが自分を追って図書館を出ていたなんて、この時、思ってもいなかった。


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