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27. 入り口の鍵

ʄʄʄ


ふいに五百六十年前の光景が胸に甦った。


あの時百人近い仲間と共にここに立った。


この迷宮から生きて戻れた人間は、自分を含めてわずか五名。しかし共に生き残ったほかの四人もうの昔に寿命を終えた。


今はわたし一人だ。


九本の柱に囲まれた円形の空間。誰もいない。白い空間は寒々しかった。


血の気が引き、体の中から冷えて行く感覚があった。


正面の突き当りに、柱や床と同じ白大理石の台がある。この場所に置かれている物はそれだけだった。


「………」


記憶のままだ、と思う。



コン、コン………



進むと、靴音は微かに反響した。


白い台には腰程の高さもなかった。厚みもない形状は台とも石碑ともつかない。

つたの浮彫りが施された白い石は、優美で厳かな空気を纏っていた。


これに最も似つかわしい名前を挙げるとするなら、「祭壇」だ。


その目の前に辿り着き、立ち止まる。



自分が脱出したあとに帝国で起こったことは、限定的にしか分からない。


だがレベルゼの魔道具が他国の手に落ちることを恐れて、帝国は迷宮の記録を消したのだと思う。多くの国を従えていたグランタイル帝国は、決して安定していなかった。


最強クラスの魔法使いを根こそぎ失った帝国にレベルゼの迷宮にもう一度挑む力はなく、やがて帝国自体が滅んだことで、この場所は忘れられた。



見降ろすと、「祭壇」の天面には短い言葉が古代の文字で刻まれていた。


強烈な自負心を感じる言葉がたった一行。




『我が名はレベルゼ』




「―――――――――――――――――」




リスタ………行って来る。




ぐっと唇を結び、その「祭壇」に手を置いた。


「祭壇」に一ヵ所、円形の空間を支える柱に二カ所。


そこに隠された魔法の「鍵穴」がある。


魔法の痕跡を、魔法使いは感覚で見分けられる。だが「痕跡を隠す魔法」も存在している。術者が優れていれば、その分だけ魔法の痕跡は見付け難くなる。五百六十年前は「鍵穴」の場所を見付けるだけで三時間を要した。


見付かるべきではなかったと、成す術もなく部隊が壊滅したあの日思った。


レベルゼはわざと手を抜いていると五百年前も思った。「最強の魔法使い」が本気であれば、当時帝国最高位の魔法使いだったわたしでさえ見付けられないくらいに完璧に、魔法の痕跡を隠せた筈だ。


ここで向き合わされたのは「勝負」ではなく「試験」だった。


三カ所の「鍵穴」を見付ける能力を示した上で、その全てにレベルゼが認めるだけの魔力を注がなければ迷宮の入口はひらかない。



なぜ………



なぜ「合格」の基準をこんなに甘くしたのか。


帝国魔法使い達(わたしたち)はこの扉を通過すべきではなかった。


ほとんどが生き延びられないと分かっていてなぜ通した。なんのつもりだったのか。



刻まれた一文の傲慢さに憎悪を覚える。



もう一度お前に挑む。



その場から動くことなく三カ所に魔力を注いだ。正確な位置で魔力を注ぐために移動することももうなかった。



突然世界が暗転する。


足の下でふっと床が消える感覚が生じた。


一瞬の落下。




同じだ。あの時と。


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