表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/34

26. 最強の魔法使いの迷宮

その周囲だけ木がなかった。



広場を見降ろす神殿のような姿。



盛り土の上にたたずむ白大理石の建物。壁はない。九本の柱に支えられた白い丸屋根ドーム



成長が抑制されている――――――――――――



苔と羊歯しだに薄く覆われているだけの地面を見て、二千年以上(ほころ)びることなく保たれた魔法の凄まじさを改めて突き付けられる。


この寒気が気温のせいなのか、自分でも分からなかった。



迷宮の中は創造者の魔法がほぼ永続的に維持される特殊な場所だ。


だが外の世界は違う。


外の世界では予測不能な変化が生じ続ける。誰かが一本の柱を壊したとかそんな些細な、だが予想外の事象に対応出来なかったために魔法の回路が崩れて、街じゅうの機能が停止してしまうこともある。迷宮の外に構築された魔法が二千年もの間、一度の修繕もなく継続するのは普通のことではなかった。



「リスタ――――――――――――――」



微かに震えていた。


左手を胸に当てる。ハンカチの下で心臓が脈を打ち、温かかった。


生きているのだ、と思う。呪われた体でも心臓は動いていて、血が流れている。


この命を捨てたりしない―――――――――わたしは死ぬためにここに来たんじゃない。



ポケット越しにハンカチ(それ)を握り締め、ふぅーっ、と長めに息をいた。


震えが止まる。


顔を上げ、白亜の神殿に向き直った。


足を踏み出す。柔らかな地面は静かに沈み込んだ。冷気に包まれ、頬が冷たくなって行く。



ここに来るのに五百年以上掛かった理由はもう一つある。


本当はそっちの理由の方が大きい。


「永遠の地獄」に落とされるのは恐怖だが、レベルゼがそんな罠を仕掛けている可能性は低いと実は考えている。


絶対にないとまでは言い切れない。


だがレベルゼは魔力が低い者を虫けら程度にしか思っていない人間ではあったが、人や生き物を無意味に苦しめてたのしむ性質は、恐らく持ち合わせていなかった。


だからただ死ぬためなら本当は、さっさとここに来ていればうに叶っていたのかもしれない。


だがどれだけ「終わり」に焦がれても、わたしはそれだけはしなかった。



血を吐きそうに「終わり」を望んでいても、レベルゼの迷宮( こ こ)で死ぬことだけは許せなかったのだ。




これはわたしの意地だ。




白大理石の階段が九段、小さな丘に連なり「神殿」へと続いていた。踏み面の広いその階段をゆっくりと登る。




コン……




広い空間に足音が響く。




五百六十年挑めなかった場所にわたしは遂に立った。




ʄʄʄ


「アルト――――――――?」


足を止めて慌てて周囲を見回した。


行き交う大勢の人達で辺りは騒めいていた。


鉄道の駅から乗合馬車の駅までの道は人通りが多かった。鉄道はウルドエンドまでは続いていなかったのでここから先は徒歩か馬車で進まなければならず、わたしは乗合馬車の駅へ行こうとしていた。


混雑はしているけれど、誰とも体が触れたりしていない、と思い直す。



なのになぜだろう。



今アルトがわたしに触れた気がして―――――――――――――――




でも見回してもそのひとの姿はなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ