23. 運命
声を掛けられるのが数秒遅かったら泣いてしまっていたと思う。零れかけていた涙を無理矢理押し戻した。
開け放したままだった戸口にオーディーさんが立たれていた。
気のせい――――――?
溢れるような朝陽の眩さのせいでそう見えるだけなのか、その目が濡れているように見えた。
「済みません、勝手に入ってしまって……」
「いえ」と応えて下さったその声が、やっぱり掠れている気がした。
唯一人、アルトに長く仕えて来たと言うオーディーさんにもきっと、言葉にしきれない思いが沢山あるのだと思う。
アルトだけがいない場所で数瞬、わたし達は無言だった。
瞳の色や雰囲気が、オーディーさんはどこかアルトに似ていた。
このお屋敷でアルトの秘密を知っていた唯一人の人。
オーディーさんにそれを明かされた時、アルトの傍にそんな方がいてくれてよかったと思った。でも一方で、他の誰も知らないだなんてとも思った。
門番の方も女中の方も、お会いしたこのお屋敷の方達はみんな感じがよかった。アルトとの関係の良さが見えるかのように。
なのにアルトは呪いのことも迷宮のことも、オーディーさん以外の誰にも知らせていないのだ。自分が二度と戻れないかもしれないことさえ、あのひとは誰にも告げずに行ったのだ。
五百年の間、秘密を守るしかなかったアルトはどれだけ孤独だったのだろう。
分かっているつもりで本当には理解出来ていなかったと、小さなその机を見た時に思った。
誰も座っていない二つの席が、なぜか苦しいくらいに胸に迫る。
ずっと独りで立ち続けていたそのひとが、「共に生きたい」と言ってくれたのに。
―――――――――――――行かなくちゃ。
わたしはアルトに、自分の気持ちを伝えていない。
ʄ
「………行かれるのですね」
そう尋ねると、その方は微かに微笑んで頷かれた。
止められないことなのだと思った。
眩い光と緑の中。アルト様がいつも独りでおられた場所。
その場所に立たれていた女性の後ろ姿を見た時、「運命」と言う言葉が胸に浮かんだ。
短くて済みません(><;)
多忙のため、来週は更新が滞りがちになるかもしれません……;




