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22. 魔女の朝

ʄ


鳥の声が聞こえ始めた時、自分は図書館の外にいるのだと改めて実感してどきりとした。魔法図書館の窓の外で鳥が鳴くことはなかったから。


しばらく待っていると空は少しずつ白み始め、やがて早朝特有の真っ白な光が窓の外を染めた。


結局あまり眠れなかった。

考えてみれば魔法図書館へ行く前から、高齢のわたしの睡眠は浅かったと思う。


まだ早過ぎる。汽車も動いていないだろうと思い頑張って横になっていたけれど、目は醒めて行くばかりだった。とうとう耐えきれなくなって、わたしは体を起こしてしまった。


「……」


一晩経っても体はまだぐったりと重かった。でもこれなら動けない程ではない。一応の回復を感じながらベッドサイドに慎重に足を降ろし、屋敷側で用意して下さった布製の室内履きに足を入れた。


もう眠れそうにないと思い、洗面室で顔を洗い、着替えて髪を梳かして身支度を済ませてしまった。


今何時だろう。


まだ早朝なのは分かっている。街はまだ目覚めた気配がない。窓辺に立って外を覗いた。


綺麗……


二階だったから見晴らしがよかった。


玄関はどちらの方向だったかしら。


それが分からなくなるくらいにこのお屋敷は大きい。窓の下に見えたのはまるで公園みたいに広い庭だった。木々の葉が朝陽できらきらと輝いている。


部屋を振り返ると水色と白を基調に整えられた空間は豪奢で、でも気品と落ち着きをあわせ持っていた。三人は寝られるだろう大きなベッドに一人で寝ていたことが信じられないと思う。


部屋も、門番や女中の存在も、平民だったわたしが経験したことのない世界だった。


自分が場違いに思えて苦しくなる。


次第に落ち着かなくなり、わたしは遂に部屋から出てしまった。


まだ誰も起きていないのかしら。


客室の周囲はしんと静まり返っていた。


勝手にうろうろすることを躊躇ためらう。でも昨日きのう通った所を歩くだけなら。


吹き抜けの空間に造られた階段はすぐそこだった。誰かを起こしてしまわないように、足音を忍ばせるようにして階段を一階まで降りた。


絨毯が敷かれた廊下や絵画や小物で飾られた壁面に、吹き抜けに吊るされたシャンデリア。



アルトが暮らしていた場所、とに映る光景を見て思う。



歩くのも精一杯だった昨晩は周りを見る余裕がなかった。


改めて見つめると、廊下を見ても扉を見てもそこにいるアルトの姿が思い浮かんだ。


でも同時に、美術館の展示品のような調度品も嫌でも目に入った。


「―――――――――――――――」


今更(ひる)むなんて。


だけどこの廊下を歩くアルトの横に自分が並んでいる姿を想像出来ない。


アルトを追うことが急に怖くなった。だからと言ってアルトの帰りを屋敷ここで待たせてもらうことはもっと考えられない。


葛藤する内に昨日きのうオーディーさんと話した応接室の前に着いてしまう。そこで行き場を失い、立ち尽くす。


「―――――――――――」


足が動かない。


もうここに立ち止まっていることは出来ないのに。


道を見失い、辺りを見回した。



と。すぐ先の部屋の扉が少しだけ開いているのに気が付いた。わずかな隙間から廊下に光が溢れ出している。



「―――――――――?」


誰か起きている方がいるのかしら。


扉からこぼれる光の強さを不思議に思った。


廊下も暗い訳ではないのに。


数歩だけ進んで、そっとその中を覗いてみた。




「まあ……」




なんて綺麗。




小さな部屋は白い光と木々の緑に満ちていた。壁の二面がガラス張りの部屋を庭の緑が包んでいる。一本足の白い円卓が窓に寄せて置かれていた。


その円卓を挟んで布張りの椅子が二脚置かれている。



どきりとした。



その片方にアルトがいつも座っていたように思えて。その姿がとても孤独そうで。―――――――――――向かいの席には、ずっと誰も座っていなかったように思えて。



「―――――――――――――――――」



「リスタ様………?」


オーディーさんの声が聞こえてはっと振り返った。いつ扉を入ってしまったのか、気付くとわたしは円卓の前に立っていた。


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