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20. 魔法使いと魔法使いの従者

ʄ


アルト様は、生まれてすぐの頃のわたしに会われたことがあると言う。


さすがにそれは記憶にないが、2歳かそこらの物心もつかないような頃にアルト様にお会いしたことであれば、わたしは覚えている。恐らくそれだけあの方の印象が強烈だったのだと思う。


もっともそれが現実の記憶だったと分かったのは、7歳の時。父の書斎でアルト様に正式に引き会わされた時だ。


書斎机の前で静かにたたずむ美しい魔法使いは、の存在が全て霞んでしまう程の存在感を放っていた。


わたし自身は先祖を辿れば一人がアルト様のご生家に辿り着くと言うだけの、世界に何万といる人間の一人に過ぎない。家系には今もぱらぱらと魔法使いが生まれるが、わたしに魔力はなく、感知も出来なかった。にもかかわらず、アルト様を包む目に見えない何かに自分が圧倒されるのを感じた。


「親族の強力な魔法使い」だとその場で紹介された時から、アルト様はわたしの憧れだ。


人目を避けるように行われたその顔合わせに何の意味があるのか、その時には分からなかった。父もアルト様も7歳の子供に迂闊なことを話されなかった。


次にアルト様にお会いした時、わたしは17歳になっていた。


少し怖かった。


最初の記憶から15年近くが経っている筈なのに、アルト様は全く年を取っていないように見えたのだ。


そこで初めて、父から呪いの話を明かされた。


衝撃を受けた。


不老不死になりたいと願う人間はたくさんいる。多くの人にはなかなか理解し辛いことかもしれない。


だがわたしは、世間一般よりは魔法や魔法使いに近く詳しい家に生まれ育った。


アルト様の苦しみをわたしは現実感を持って理解した。


五百年を超える不老不死の呪い、


言葉がない程残酷な話だと思う。


ほんの数滴でも同じ血を引いているせいなのか、他人ひとごととは思えなかった。生れ落ちる時代が違えばアルト様の立場になっていたのは、わたしだったかもしれない。


アルト様にわたしがお仕えすることになったのは、それから更に月日が経ってから。既に妻と出逢い、子供も生まれ、他家で家令として働いていた頃だ。


わたしは世界中に散らばっているアルト様の資産の管理と、その後始末を任されることになった。


賊徒に襲撃された村を守ったり、大きな天災が起きた国を助けたりする度に、アルト様には土地やら屋敷やらが贈られた。ご自分自身の生には何も望まれていないのに人助けはするアルト様を見ていると、どこかでずっともどかしかった。


アルト様が同じ国に十年以上留まることは少ない。


引っ越しが多かったため、妻にも子供達にも負担を掛けてしまったと思う。だが一族の者として、せめてあの方の人生の終わりに寄り添わせて頂きたいと願った。


「最後になる」と宣言されたミラトルへの転居。「同行しなくてもいい」と気遣って頂いたのに、一人付いて来たのはわたしと妻の意志だ。


過ごした月日の長さの分だけ、関係と感情は深く複雑になっている。わたしが今アルト様に抱く気持ちは、単純な憧れだけではない。

尊敬と、家族としての義務感と、同情と。

あの方の人生いのちを見届けて差し上げたいと願うわたしに、妻は理解を示してくれた。



そして最後の場所となる筈だった街に来て十四年。


ミラトルの設備の置き換えを始めたアルト様は、恐らく迷宮に向かうことを躊躇ためらわれていた。



不死と知られる危険を冒してアルト様がミラトル(ここ)に留まり続けたのは、リスタ様のためだったのだろう。


「魔法図書館の魔女」は、ご自分の「終わり」以外何も求めていなかったあの方が、初めて望まれた存在なのだと思う。


この方を危険に晒してはならないと思いながら、行かせないことが正しいことなのか分からなかった。


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