表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/34

19. 魔女と魔法使いの従者

ʄʄʄ


魔法図書館を出てしまわれるとは。


自分の顔色が蒼白になっているのを感じる。


向かいのソファで背を丸めて項垂うなだれている方は、もう座っているのも辛そうだった。



この方が「魔法図書館の魔女」。



図書館に五百年を超えて在籍している職員がいるとアルト様に聞かされ、その方が女性であるらしいと気付いてからも、アルト様がその方に特別な想いを待たれているのかもしれないと気付いてからも、わたしはその女性のことを積極的に調べようとまではしなかった。

ただ気にはしていた。

結果として十四年経つ内には一通りのことを知ることになった。


リスタ様というお名前も。「魔法図書館の魔女」という二つ名も。―――――――――その方が老女であることも。


アルト様もきっと悩まれたのだろう。結局最後まで、ご自分から「魔女」のことは話されなかった。

立ち入られたくないのだと感じて、わたしからもお尋ねしなかった。


ただアルト様は明らかにこの方に出逢ってから変わられた。


ずっと数冊の魔法書しかなかった書棚に本が増え、書棚が埋まって行く程に乏しかった表情に人間らしさを取り戻され、時折、声を上げて笑われるようになった。


そしていつからか、あれ程願い続けていた迷宮への再挑戦をアルト様は迷われるようになったと思う。


アルト様はこの方と共に生きることを望まれているのではないか。


そう気が付いた時、その望みがなんとかして叶わないだろうかと思った。だがその道も決して簡単ではなかった。


魔法図書館を出れば「魔女」は長くは生きられないし、アルト様の呪いが解けたとしても、肉体的な年齢差をくつがえしたいのであれば図書館の内と外でお二人は数十年を待たなければならない―――――――――数十年、若さをどぶに捨てて、アルト様はただ老いる日を待たなければならないのだ。


そんな生き方を、人は出来るものだろうか。


だがそれも無事に呪いを解ければの話だ。



細い方だ、と思う。



ようやくお会いできたその方は、今にも倒れそうに弱っておられて胸が痛くなった。


しばらくの沈黙を過ごしたあと、わたしはどうにか声を絞り出した。



「――――――――アルト様は、ウルドエンド国に向かわれました」

「ウルドエンドのどこですか?」



はっと顔を上げられたその方の、その言葉に驚く。



まさか追うおつもりなのか。



ウルドエンドは大陸のほぼ東端に位置している。往路だけで数週間はかかる国だ。


確かに普通であれば、距離が長ければその方が、後発の者が追い付ける可能性は高いだろう。

だがアルト様は普通とは違う。


「もし追うおつもりでしたら」

「アルトを止めたいのです」


無茶です、と言い掛けて言葉を呑んだ。



なんというをされるのだろう。魂の叫びのような言葉は胸を打った。



正解のない話ではある。アルト様が迷宮から無事に戻られる確率は五分だ。確実さを求めるのならアルト様をお止めした方が確実に、リスタ様の寿命までお二人は共に過ごせるだろう。


しかしそれももう難しい。


「向かわれた地域までしか。アルト様は正確な場所を明かされていないのです」

「分かることだけでも……分かることだけでも教えて下さい……!」

「――――――――――――――」



生きようとされているのだ、この方も。アルト様と。



知ってはいたものの、今夜実際に老女の姿を前にした時、微かな動揺はあった。アルト様が人並外れて美しいお姿をされている分、余計に。


だがこの方がアルト様の隣におられる姿を不自然だとは感じない。



アルト様の望みに気が付いてからわたしは、アルト様が魔法図書館の職員になられるのも一つの選択肢ではないかと密かに思ってはいた。一つの方法だとは思いながら、だが忸怩じくじたる思いが付きまとい、その選択を完全に肯定することは出来なかった。



呪われた生を、「生きている気がしない」と言われる魔法図書館の職員として続けてアルト様はお幸せだろうかと。



だからリスタ様が図書館を出られたことを非難出来なかった。むしろ今、逆の感情が湧いている。



五百年の生を終わらせてここまで来られた女性に、わたしは感動していた。



長い期間ではないだろうと考えると胸掻きむしられる思いがする。それでも二人で外の世界で生きられる方が遥かに幸せだろうと思える。



――――――――――だがそれでも、この方がアルト様を追うのは……



五百年振りに外に出たばかりの方が、老いた体で大陸の端まで行こうと言うのは無謀だと感じる。この話を知ればアルト様も決して賛成されないだろう。


「どうかこの家に留まって頂けませんか」


追うのは無謀だとお話ししてそう申し上げたが、リスタ様はうなずいて下さらなかった。



「少なくとも鉄道を使わなければアルト様には追い付けません」



鉄道が動いている時間でなかったことは幸運であったのか不幸であったのか。その現実はリスタ様を説得する役には立った。



「そのご様子でこの時間から出発されるのは無茶です。ともかく今夜はここにお泊まり下さい。さすがにアルト様も今日明日でウルドエンドには到着されません」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ