第十八話:儘ならない恋心の行く末
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佐田福太郎という人物は霊力はあるが身体能力は一般人とそう変わらない。そんな人間が雷を直撃したらひとたまりもない。衝撃の余波で身体中が吹き飛びそうになりそのまま昏倒した。
「ふう、終わった」
糀は男が気を失っていることに確認をしていると、自分を呼ぶ声に糀は振り向くと朝日は心配そうに伺っていた。
「糀、大丈夫?」
心配そうに声をかけてくる朝日の姿に笑みが溢れた。
「ああ、大丈夫だ」
ふっと笑う表情に朝日は固まり、足を止めた。それに糀は不思議そうに歩み寄った。じっと朝日は糀の顔を見つめられると、それにくすぐったそうに恥ずかしそうに笑った。
「本当に糀なのかなって、思って」
「そうだな、この顔で会うのは初めてだな。まさか自分の本当の首がここにあるなんて思わなかった」
「そうだよね、まさかこんなところで見つかるなんて…」
朝日はうなづきながら、真澄と合歓も初めて見る糀の本当の顔にまじまじと見てしまう。あまり人の顔を凝視するのも失礼な気がするが、初めて見る本当の顔に少し動揺している。
糀は視線を動かすと、あるものが目に入った。
「ちょっと待ってくれ」
そう言い残してどこかへと向かった先には誰かが横たわっていた。糀は膝を折って、眠る彼女の顔を見つめると優しく横抱きにした。
「彼女はどこに運べばいい?」
慣れたような挙動に三人は少し驚いた。その中で一番反応が早かったのは合歓だった。
「そうですね、お願いしたいところですが…その顔で出ていったらパニックになる思います、まだロビーに警察もいると思いますので私もあの男を捕縛しておかないといけませんし…」
椿は病院に連れていくことになり、この事態を引き起こした芦屋柘榴は気絶しているため念の為病院に行くように合歓は手配すると朝日の護衛のために姉の香散見を呼ぶことにした。
糀は顔を隠しながらひとまず朝日の家に帰ることを藤次郎に伝えた。その数分後、陰陽局のものたちは駆けつけ拘束していた佐田福太郎の身柄を引き渡した。
「私も同行いたします、この方達は逃げ遅れたものたちです」
合歓は身分証を提示すると陰陽局の警備員に逃げ遅れた客人を誤魔化し朝日と真澄を託した。
「お願いします」
「了解しました」
『姉さんがくるまでここでお待ちください』
『うん、気をつけてね』
合歓は朝日に念話で言い残して陰陽局の者たちと立ち去っていった。椿が担架で連れて行かれるのを心配そうに糀は影から見守った。
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少し時間を遡る。一方、朝日たちが戦いを繰り広げていた時に花月たちはロビーに避難していた。
少し前はロビーはぎゅうぎゅうだったが、混乱状態を収めるためにスタッフたちは帰省を促したのだ。もうオークションも終わったため異論を唱えるものも少なく、危険な会場に居続ける客はまずいない。残っているのは帰る車を待っている者たちと陰陽局関係者のスタッフぐらいである。
「あの警備の人、大丈夫だったかな?」
花月のポツリとした一言に桃華は答えた。
「警備の人は大丈夫だったみたいだよ、背中に強い衝撃が受けたみたいだから精密検査が必要みたいだけど」
花月の心配に応えたのは人混みをかき分けてやってきた土御門光彦だった。いきなり現れた彼に花月たちは驚く。
「光彦さん!」
「災難だったね、君たちも無事でよかったよ」
「光彦さんも無事でよかったです」
花月は声をかけると光彦は嬉しそうに笑った。ゴタゴタがあって今日はもうやめて後日にしてしまおうかと思ったが、言うの決めていたのにこのまま家に帰ってモヤモヤとしたままで年を越したくないと思った花月は思い切る。
「あの、光彦さん、お話があります」
「うん、どうしたの?」
じっと光彦に見つめられると花月は緊張するのだ。そんな花月を見かねた百合絵は声をかけようとしたが桃華は横に首を振った。
「少し待ってあげてください」
百合絵に話しかけている桃華だが、桃華の目線は花月に注がれている。自分よりも心配で声をかけたいはずなのに。百合絵は待つことにした。
「わかったわ」
〇〇
「あ、あのお返事のことなのですが」
「うん…」
「色々と考えたのですが、あなたとお付き合いすることはできません」
花月はようやく自分の思いを言い切ることができた。しかしその後の光彦の返事が返ってこないことに花月はふと彼の顔を見た。今にも泣きそうな表情に花月は胸が押しつぶされそうだった。
「あ、あの…」
大丈夫ですか?と花月は言いかけるが、自分のせいで苦しんでいるのに、大丈夫などと無神経なことは言えなかった。じっと彼の言葉を待っていると彼が口を開いた。
「君を…」
「え」
「それでも君を好きでもいいだろうか、一目惚れだったんだ、そう簡単に諦められない」
「えっと、あの、私は…」
花月はどうすればいいのかわからなかった。光彦の視線から逃れるように目を伏せた。
『もう私はどうしたらいいの…っ』
その時にである。なぜか夢で見たあの姉弟のシーンが脳裏に浮かんだ。その弟が光彦と重なった。何故かは分からない。けどこの場からすぐに離れないといけない気がした。
いきなりの方向転換した花月に桃華たちは驚いた。
「花月!?」
急に走ろうとするのでヒールのある靴を履いていることを忘れていた花月は転びそうになる。顔面に衝撃がくると思い花月は目を瞑った。しかし衝撃が来ることはなかった。
「おっと、大丈夫ですか?」
そこには自分の体を支えている少年がいた。真っ黒な黒髪に、黒い瞳、まるで朝日ちゃんのようだと思った。じっと花月は見ていると少年は恥ずかしそうに他白く。
「あ、あの、僕の顔に何かついていますか」
恥ずかしそうにする少年に花月は申し訳なく思いながらも少し安心した。
「すみません、私の友達に似ていたので、じっと見てしまって」
「そうだったんですね」
「はい、でもその子は女の子だから、そんなことあるはずがないですよね」
花月はおかしそうに笑った。しかし少年はなんとも言えない表情をしていたのだが花月は気づかなかった。
「花月さん…」
その声に花月はびくりと肩を揺らした。話はまだ終わっていないことに安らいでいた気持ちが急降下していった。
「びっくりしました、いきなり走り出したので」
花月は後ろを振り返るとそこには光彦がいた。
「み、光彦さん」
咄嗟に逃げてしまったことに花月は罰が悪そうに目線を泳がしていると、それを助けに入ったのが先ほどの少年だった。
「あのもしかして困っていますか?」
「え?」
いきなり少年に話しかけられて花月は驚いた。突然見知らぬ少年が現れたことに光彦は彼女が転びそうになったことに感謝を述べる。
「君のおかげで彼女が怪我をしなくて済んだよ、ありがとう」
光彦のお礼の言葉に少年は口を開いた。
「いえ、それよりも…失礼ですが、会話を聞こえてしまったのですが、彼女が困っているのがわかりませんか?」
〇〇
桃華たちはいきなり走り出した花月に驚いた。
「え、どうしたの!? 花月ちゃん!?」
向こうの方へと駆けていく花月に菊理と百合絵は驚いた。
『花月!?』
桃華は聞き耳を立てながら、花月との話を聞いていたのだ。あまりこういうことは気が引けてしまうが、他にいい提案がなかったのだ。逃げたというより、光彦に対して桃華は腹を立てていた。
はっきりとお付き合いできないと言っているのにどれだけ勇気がいるのか、花月の勇気を蔑ろにしたことに対してである。
「花月をちょっと追いかけていくわ」
「え、私もいく!」
桃華の返事に菊理も即答した。その表情が頼もしく、うなづいた。
「わかった、一緒に行こう」
「うん」
花月は去った方向に桃華と菊理、百合絵は追いかけていった。その先でまさか人だかりができているとは思わずに。
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土御門光彦は生まれつきの天才だった。霊力は土御門で随一ずば抜けていて、次男の健三郎よりも遥かに凌いでいた。
ルックスもよく女性たちは黄色い悲鳴も絶えることはなかった。けれど光彦にとって、それはささいなことでしかなかった。
どうして自分を見つめて赤らめているのか、恋をする気持ちなんて理解できなかった。彼女が自分の前に現れるまでは。
初めて一目見た瞬間に心惹かれた。一目惚れというのはその概念を僕は知ってしまった。だからそんな思い人と他の異性と話し合っていたら冷静ではいられなかった。普通に少年に話しかけたつもりが思った以上に思った以上に低い声が出てしまった。
「君のおかげで彼女が怪我をしなくて済んだよ、ありがとう」
「いえ、それよりも…失礼ですが、会話を聞こえてしまったのですが、彼女が困っているのがわかりませんか?」
光彦に問われた少年は淡々と応えた。自分に対して意見を言うものが少なからずいたにはいたが、けれど光彦は初めてこれほどまでに不愉快な気持ちを抱いたことはなかった。
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桃華たちは花月に追いつくと、何故か見知らぬ少年と土御門光彦が睨み合っているのに驚愕した。どうしてこうなっているのかと花月のそばまで寄り話を聞き出した。
「花月、これどうなっているの?」
「桃華ちゃん、私もよくわからないの…あの人に転びそうになったのを助けてもらったんだけど…」
花月自身も上手く説明できずにいた。どうして赤の他人なのに少年が自分を庇ってくれたのか。それに百合絵は推測である言葉をつぶやいた。
「もしかして、その子も花月ちゃんのことを好きになったりしてとか…」
「百合絵さん、まさかそんなことあるはず…」
花月は苦笑しながら百合絵に返事をするが何故か周りは静かだった。どうして静かなのかと視線を泳がすと少年がいた。
どうして沈黙しているのかわかった。少年の顔がリンゴのように真っ赤に染まっていたからだ。光彦と対峙した時の強気な姿勢は何処へやらである。
「ふへ、あ、これは別になんでもなくて、その、あの…失礼しました!」
花月と一瞬目が合い、少年は脱兎の如く走り去っていった。人混みの中にをぶつかることなく駆け抜けていいくのを花月たちは呆然と見送ることしかできなかった。
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「うーんと、まあ、こうゆうことってあるもんなのね、それにしてもやるわね、花月ちゃん」
状況が把握できずに誰もが話せない中、百合絵は開口一番に口を開けた。いきなり話しかけられた花月は戸惑う。
「ふへ、えと、あの…」
しどろもどろにする花月に百合絵は苦笑して、光彦に話しかけた。
「光彦様、少し宜しいでしょうか?」
「はい…」
百合絵に話しかけられた光彦は少年が去っていった方向を視線からようやく外して百合絵の方に視線を向けた。
「私が言うのもさしでがましいのはわかっています。花月さんにお時間をいただけないでしょうか?」
百合絵の問いに光彦は応えた。
「それはあなたに関係ないのでは」
もっともであるが、その言葉に桃華は黙っていることはできなかった。
「関係なくないわ、妹の友達が困っているのに」
菊理はそれを横で聞いて目頭が熱くなり泣きそうになった。それは百合絵も同じ気持ちである。
「姉さん…師匠…」
涙声になる菊理に百合絵はギョッとして駆け寄った。菊理は百合絵に涙を吹かれながら号泣した。
「ちょっと何て顔をしているのよ、もう」
「だって」
百合絵は光彦に向かい、話を進めた。
「光彦様、花月さんはまだ学生です。もう少し猶予を与えていただけないでしょうか」
百合絵の切実な声に花月は胸打たれて同じように礼をした。同じように桃華と菊理からも礼をされていれば周りから注目を浴びる。
「私の方からもお願いします」
周囲が静まる中、肩をすくめた光彦は息を吐いた。
「君たちに完敗だよ…顔をあげて」
その声に一同は顔をあげると、光彦の悲しそうに眉を下げる表情に女性たちはときめいた同時に胸が苦しくなった。どこか遠くを見つめ、最後は花月に視線を送った。
「全く儘ならないね…僕はここで失礼するよ、それでは、良いお年を」
「良いお年を」
光彦は最後に挨拶をして立ち去りることで緊張と不安で張り詰めていた緊張の糸が切れたように肩を落とした。
「は〜、緊張したね、やっぱり美青年って迫力があるわね」
茶化して笑いで和ましてくれる百合絵に花月はまずお礼を述べた。
「ありがとうございます、百合絵さん、先程は…」
「ふふ、いいのよ、困っているときはお互い様だから」
百合絵の優しさに花月は泣きそうになる。その表情に桃華は手を差し伸べた。
「あんたまで泣き癖がついちゃうと私が大変じゃない」
「と、桃華ちゃん、あの、ごめん 逃げ出しちゃって…」
しどろもどろになっている花月に桃華は優しく頬をつねられて少し驚くと、桃華は首を傾げて花月に欲しいのは謝罪ではないと告げた。
「謝るのは禁止、そうじゃないでしょ?」
「…うん、うん、ありがとう」
桃華は何を言わんとしているのを気づいた花月はお礼を述べるとに桃華は満足したように笑った。
「よし、今日は帰りましょうか」
「ねえ、あなたたち、もしよかったら今年は私の家で年を越さない? 何か予定とかあるかな?」
百合絵の突然の提案に花月と桃華は目を合わせて尋ねた。
「特には…桃華ちゃんは」
「私も特にないけど」
特に断る理由もなかったので、百合絵の提案に快く了承した。
「はい、それじゃ、お言葉に甘えて」
「ええ、花月ちゃん、お家にお泊まりに来てくれるの?師匠も」
「うん、菊理ちゃんの家でお泊まり初めてだね」
いまだに状況が飲み込めていない菊理に百合絵はおかしそうに笑いながら手を伸ばした。いきなりの話の流れについていけない菊理は初めての友達のお泊まりに来る展開に胸のドキドキが収まらなかった。
「ほら、家に帰るわよ」
「う、うん!」
残すところ後1話となりました。
第九部の最後の投稿は28日となります。




