第十九話:『 』というものを今、知ってしまったのかもしれない…。【第九部:完】
小さい頃から時折、不思議な夢を見ることがあった。その中で私は少年たちが話をしているある会話が気になった。
黒髪の少年は友人の少年からある告白をされた。それは幼馴染みの少女のことを恋愛として好きだということを。
友人の恋愛に対して黒髪の少年は羨望への気持ちを抱いていた。誰かを好きになること、愛することはできるのに恋愛感情を持つことができなかった。
それは鬼になっても変わることはなかった。
〇〇
椿は目を覚ますとそこには自分の部屋の天井でなかった。天井やベットや壁などは白で統一されている空間に病室と推察する。
『どうして私は病室に…?』
自分がなぜここにいるのかと思い出そうとしたその時にノックがする音がして、椿は咄嗟に返答してしまった。
「はい、どうぞ」
返事が聞こえた瞬間、扉をガラリと開けられた。そしてその人物の顔を見て椿は驚いて声を出すことができなかった。
「よ、元気そうだな 体調は大丈夫か?」
そこにはあのオークションで落札されたはずの物が現れたからだ。今、現在は首と胴体が繋がっているが、不思議と恐怖感はなかった。それよりも、
「あ…」
言葉にならない。言葉に出そうとするほど涙がポロポロと溢れてきた。椿の涙に彼はギョッと目を見開き慌てた。
「お、おい、どうした、大丈夫か!?」
彼は駆け寄り、オロオロと身振り手振りする大きな体がおかしくて笑いそうになるのを堪えた。椿はむくりと起きあがろうとすると彼はそれを見てすぐに椿の体を優しく支えた。
「起き上がれるか?」
気遣う言葉が耳元で聞こえることに心が温かくなる。それを聞いた瞬間にもう止められなかった。椿は彼を引き寄せて抱きしめた。
小さい頃からとある大妖怪の核の成分を薄めた点滴を摂取してきたことにより、私の体は徐々に変化していった。それは肉体だけではなく、体の内側にも変化が起きていた。
彼の見ていた他愛ない日常から突如訪れた血への渇望と恐怖、親との別れと友からの拒絶、故郷から逃げるように奔走の末に女性たちを賊から救おうと一度は死ぬ決意をした。
だがそれは起きなかった。まん丸とした青い瞳が爛々と輝き皆が恐れるなかで綺麗だと思った。
そして酒呑童子に瀕死のところ助けられ、配下になったことで縄張りは強くなった。警戒心が強いが冷静沈着な金童子、力が弱いが気持ちを和ませてくれる鬼丸と過ごす日々が何よりも大切で愛おしかった。
それが一夜にして跡形もなく無くなってしまった。彼の夢を見るたびに椿は泣いた。牢に捉えられた絶望と無力感、茨木童子が渡辺綱に託した最期の願い。
「ずっと、ずっと待っていた…童子様」
かつての呼び方をするものはもうこの世にはいないと思っていた糀は目を見開き、椿の体を一層強くかき抱いた。
「…遅くなってごめん」
「待たせすぎですよ、馬鹿」
糀の謝罪に椿は泣きながら笑っているとドアをノックする音がした。普段の椿であれば返事をしていたかもしれないが、返事をする余裕もなくガバリと開けられた。
「糀、何かいるものとかある…」
ノックをした黒髪の少女の手元には果物のカゴがあった。目と目があった瞬間に二人が抱き合っているのを見て口をあんぐりと開けていた。そして明らかに入るタイミングを間違えた少女は頭を下げた。
「す、すみません、お邪魔しました!!」
慌てて扉をしめた少女はバタバタと立ち去っていく。突然の出来事に椿は何が何やらと茫然とした。
「あ、あの子は一体?」
「あははは、しまらねえな」
糀が笑い出すのを見て、椿は知り合いなのかと聞いた。
「ああ、俺を助けてくれた、命の恩人だ」
「それなら童子様の恩人だったら私の恩人ね…恥ずかしいところを見られちゃったね」
顔を赤らめる椿に糀はあることを思い出して口を開いた。
「そうだ、これから毎日お見舞いにくるから」
「え、私どこも怪我とかしていないし、大丈夫…」
椿のいいかける言葉に糀は困ったように口を開いた。
「実はな…あれから三日経っているんだ」
「え…」
合歓に気絶させられ、椿が起きたのは1月3日のことだった。その間にいろんなことが起きた。柘榴は病院に搬送された後に検査を受けて、特に異常なかった。けれど事件を起こした容疑者として取り調べをされ、芦屋家の当主は強制的に事情聴取され、芦屋家が行っていた非合法な実験が発覚して陰陽局預かりとなった。
平安時代から続いてきた名家の芦屋家は一転して没落してしまった。それを聞いて椿は立ち上がる気力もなくなった。
「私は何のために生きればいいの…」
今まで芦屋家のためにしか生きてこなかった少女が初めて出した本音だった。それに糀は椿の両頬を掴んだ。
「お前はお前のために生きればいい!!お前はもう頑張らなくていいんだ!!」
糀の言葉に真剣な表情に椿は目頭が熱くなり子供のように泣きだすと、涙が止まらなかった。しばらくして泣き終わると、
「罪に問われるのだったら、芦屋家の所業に加担していた私も罪に問われるべきよ」
椿が何とか気力を振り絞って立ちあがろうとするのを糀が止めた。
「実はお前のことは俺預かりになったんだ」
「…どういうこと…?」
病院に搬送された椿を心配で糀はつきっきりで看病をしていたのだ。その間に糀は志郎に直談判をして椿のことを自分に任せてくれないかと頼み込んだ。朝日の後押しもありひとまず糀は椿の監視役になったのだった。
それを聞いた椿はどうして彼がここにいるのかと、勝手に勘違いをしてしまったことに恥ずかしくなった。
「わかったわ、ほとぼりが覚めるまでは大人しくしているわ」
そう言いながら椿は糀から視線を逸らした。それに糀は不思議そうに首を傾げた。
〇〇
それから糀はお見舞いという項目で病院に毎日通った。高身長でイケメンの男性がお見舞いにくれば女性たちが騒がないわけがない。
「ふふ、今日もイケメンの彼氏が来るかもしれないわね」
看護師の何気ない一言に椿は真面目に答えたのが始まりだった。
「あの人は彼氏じゃありませんよ」
それを聞いた若い看護師が同僚のものたちに話し、それが病院中で噂になっていてしまった。その噂を耳にした椿はどこか遠いところの話のようだと耳にしていた。
『童子様は昔から人気者だね、私には関係ない遠い話だ…』
ため息をつきながら散歩をしていると病院の窓から庭があるところが見えた。そこで糀の姿が見えたので下に降りて声をかけようとしたしたその時だった。
「あの!」
糀に声をかけたのが早かったのは自分ではなく、若い女性だった。
「こんなところまでお呼びしてすみません、最近病院でお見かけして、あなたのことが気になってしまって、あの、私と付き合ってください!!」
いきなりの告白に咄嗟に椿は隠れてしまった。後ろの物陰から声が聞こえた。女性の友人たちのようで、告白している女性の方にエールを送ろうと小声で言いあっている。けれどそれは彼の一声であっという間に終わった。
「悪いが俺は付き合うことはできない」
女性は悲しそうに眉を下げて、口を開いた。
「…そうですか、好きな人がいるんですか?」
「ああ」
その後の会話は椿は耳に入ってこず、そのまま病室に帰らずに屋上へと向かっていった。
〇〇
そうか、童子様…好きな人がいるんだ。別におかしいことではないはずなのにただ茫然と頭が働かない。
それを聞いた瞬間に胸がモヤモヤとして苦しくなった。その時に小さい時に見た黒髪の少年と友人の少年の話を思い出した。
『ああ、そうかーーダン…私、恋というものを今、知ってしまったのもしれない…』
少女の顔は空に広がる青とは対照的に赤く染まっていて、初めての感情に戸惑いしばらくの間動くことができなかった。
ひとまず9月中に終わらせることができてよかったです(・_・;
最初の下書きでは違う終わり方だったのですが、投稿をしながらクライマックスをどうやって持っていくのがいいのかな〜と考えながらの結果、この二人はまだこの形で締めくくるのがいいかなと思いました。
今年の2月から続けた投稿も今年で最後、ここまで読んでくださり誠にありがとうございました!!
今後の投稿などの日程は後日活動報告の方に記載いたします。




