第十五話:オークションの最後の目玉
陰陽局の交流会ではあるが、志郎は捉えている鬼族の見張りがあるので来ることはできない。なので責任者として来た管理官の壷井桐枝は壇上に上がり来客たちに挨拶をした。
「皆様、毎年行われる年末の交流会に来ていただき誠にありがとうございます。さて今回行われるイベントはオークションとなっております。今からスタッフが札をお配りしますので、今しばらくお待ちください」
壺井はそういうと、入り口から次々とスタッフが出てきて箱を持っていた。箱の中には札付きの棒が入っている。
参加するもは次々と取っていき、朝日と真澄はどうするのかと思案するが、合歓が取りに向かった。それに二人は驚いた。取りに行った合歓に二人は話しかける。
「合歓さん、オークションに参加するの?」
「はい、何かいいものがあれば落札しようと思いまして、資金もたんまりありますので」
合歓の瞳はキラキラと輝いていた。朝日と真澄は合歓の意外な一面に驚いたが、オークションに興味や関心が今までなかった二人にとって何が出るのかワクワクとしていた。
壺井は挨拶の言葉を言い終えると下り、スーツを着たいかにもな男性が壇上に現れた。
「今回オークションを務める司会の新垣と申します。以後お見知り置きを」
まるで役者のような語り口調で女性たちが面白そうに笑っていた。それに釣られて朝日も少し笑ってしまった。
「それでは、最初の一番手は…」
次々と落札されていく品々に朝日は面白そうに見ていたが、真澄は面白くなさそうである。
『楽しくない?』
念話で語りかけてきた朝日に真澄は少し驚いた。
『いえ、楽しいですよ。ただ出てくるものが別に珍しくないといいますか…』
真澄の言葉に朝日はうなづいた。真澄は16歳のなりをしているが数百年は生きている。出品されたものが見慣れたものほどつまらないものはないだろう。朝日は合歓の方を見ると真剣な面持ちだった。
『朝日様、真澄姉さん』
「は、はい」
名前を呼ばれて思わなかったので念話じゃなく声を出してしまった。それに朝日は慌てて手で覆い隠す。一瞬だけ数人が朝日に注目したがすぐに目線は前の方へと戻った。
『すみません、何かあったんですか?』
『もうオークションが始まって1時間近く経って12品目となりますがもしかすると最後かもしれません』
合歓の言葉の通りにその大きな箱と共にやってきた。しかし、その箱と共にやって来た着物姿の少女に朝日や花月たちは驚く。
「いよいよ最後の出品、このオークションの目玉となります。出品者は芦屋家のご令嬢。今のお気持ちを聞いてもよろしいでしょうか」
マイクを向けられた柘榴は微笑みながら口を開いた。
「封印されていたのですが、私たちもどうしようか手をこまねいていたものなんです。ですが、ようやくそれと見合うものが完成したんです。今回はそれを公表したくてこの場をお借りした次第です」
司会は柘榴の話にうなづきながら話を進めた。
『えと、そのような品をオークションに出しても問題ありませんか?』
「ええ、家にあっても仕様がありませんし、多くの人に見てもらった方がいいかと思いまして」
柘榴はおもしろそうに笑っているが、観客側から見ていた椿はそれどころじゃなかった。
『そんなものを父と母は許可をしているの…??』
椿は中身のものを知らされていなかった。まさかあんなにも大きなものだということも知らなかったのだ。オークションに興味がなかった椿は途端に緊張感を走らせた。
「ではご覧ください、芦屋家の研鑽が詰まった最高傑作を」
その声と共に付き添いの男性は箱を開けた。そこには人の形をした首があった。人々はそれに気づいた瞬間に声をあげた。常人では悲鳴をあげていたかもしれないが、観客たちは興奮気味に高揚としていた。
「おお、これはすごい」
「まるで本物のようね」
「きゃあ、イケメン」
特に女性たちは顔を見て黄色い悲鳴をあげていた。それに気分を良くした柘榴は声を上げた。
「皆さん、首だけじゃ物足りないですよね 先日体の方も完成しましたの、こちらも加えてぜひご鑑賞ください」
司会の新垣は柘榴の出し物である首を見てまじまじと凝視した。いろんな出品を見てきた彼もまた生首を見るのは初めてだった。
「これは最後のオークションの出し物にふさわしいですね、これは人間の生首とかじゃないですよね」
「いえ、これは鬼の生首です。大昔に退治された妖怪らしく、芦屋家の蔵に保管されていたものですが、ずっと蔵に閉じ込めているのは可哀想と私は思いましたの、だったら、愛でてくれる人に見てもらった方がいいと思いましてオークションに参加しました」
司会は柘榴の話が終わり、競りを始めるために口を開いた。
「それでは、始めましょう。まずは一千万円から」
〇〇
朝日と真澄は生首を見て目を見開いた。
『あれ、本物では…真澄』
『はい、あれは本物です。死んでもなお強い妖気を持っています。それをオークションにかけるなんて』
静かに憤る真澄に朝日は同意する。朝日は合歓に話しかけようとした時に合歓は札をあげた。
「ああ、そちらの女性の方も手を挙げた、それでは次は5000万…」
『合歓さん…』
『あれは私が落札します、あれは人に背負えるものではありません』
合歓は闘志をみなぎらながら、いよいよ額は一億へと上がってしまう。流石に億となるとほとんどのものがふだを上げるのをやめた。そして1000万ずつ上がり、一人、また一人と減っていった。
『合歓さん、お金大丈夫なのかな?』
朝日の心配と冷や汗が止まらなかったが真澄は平静だった。
『流石に兆となると志郎さんにお借りすると思いますが』
真澄の独り言のように話すつぶやきに朝日は普段の金銭感覚が狂いそうになり唖然とした。
〇〇
立川慶吾は普段はぼっとしていることが多いが、仕事になると切り替えが早く、よそ見をすることはなかった。しかし事態は急変する。その原因はあの少女が出した出品の中身だった。
あれは、あの首は、彼の…!
立川はどうして彼の首がここにオークションに賭けられているのかわからなかった。
けれどオークションにかけられるべきではないと直談判しても、不審者と思われて煙たがられて追い出される始末になるだろう。
そうなると警察や依頼してきた主催の陰陽局にも迷惑がかかってしまう。ただどうすればいいのかと立川は思わず足立を呼んでいた。
『先輩…』
『どうした、立川?』
無線で思わず足立を呼んでしまったことに自分でも驚くが、このまま黙っていていいのかと思い、、先輩の足立に無線で話し掛ける。
『あの最後の品、あれは本物だと思います』
『ああ、あれはあまり直視したくないな、見ているだけで寒気がする』
足立の姿はここから見えないが、眉間を皺に寄せて肩をすくめている様子が見えるようで、その言葉に立川は共感した。
『オークションっていうのは本物だからこそ価値があるんじゃないのか?』
もっともな言葉を言われた立川は足立に何も言い返せなかった。
『そう、ですね』
なぜか言葉少なげになっている後輩に足立は気になった。
『お前気になっているのはそれじゃないな』
立川は鋭いところはあるが霊感はからっしきない反面、妖気が濃いところでも大丈夫なくらいである。足立は違和感を感じたのは、あれが本物だという立川の言葉に気になった。
『う、どうしてわかったんですか?』
『お前が普段言わないだろう、そういえばどうしてわかったんだ、あの首が本物だということを』
足立にそう指摘されて改めて考えると、自分でもどうしてあれが本物だと思ったのか分からない。思ったことを足立に伝えるしかなかった。
『…分からないんです、ただあの首は剥製とかではない、本物だと…』
『…それは本当か』
『僕もまさかと思いましたがなぜかあれを知っているんです、僕は見たことがないはずなのに、知っているんです…すみません、仕事中に変な話をしてしまって、すぐに仕事に切り替えます』
足立は立川の話を聞いて、とても仕事どころではなかったが、そうゆうわけにもいかない。オークションが無事に終わるまでに周囲に異変がないか警戒をするしかなかった。
〇〇
時間は刻々と迫っていき、一人、また一人と札を下ろしていった。とうとう、最後の二人になった時に2億の声が聞こえた。
そして3億の9000万となり、一人の男性が札を上げるのをやめた。
『よろしいですか、会場の皆さん よろしいですね?』
司会は会場にいる来場者に声をかけるが意義を唱える者はいなかった。
「それでは、3億9000万で落札となります、ありがとうございました」
司会は拍手をすると、観客たちも同じように拍手をした。
「女性の方こちらにどうぞ」
皆が拍手をする中で一人だけ拍手をしないものがいた。それは女性と最後まで競っていた男性だった。
〇〇
何を偶然なのか、いや、これは必然だろう。まさか数百年ごしにかの大妖怪の首を拝むことになるとは思わなかった。
そして首には体がついている。蘆屋道満はこの体でいることは不自由ではなかったが、術を使うときは体に負荷を感じていた。
霊力があり、自分の術に耐えることができる体を見つけることは現代になればなるほど難しくなっていった。
しかし、目の前にそんな器があれば喉から手が出るほど欲しくなるの当然のことだった。佐田はすぐに札をあげて参加した。
「おお、お前もやるのか」
友人である宮地に声をかけられて佐田はうなづいた。
「ああ、あんなの滅多にないからな」
「そうだな、お面とかはあるがあそこまで形が残っているのは珍しいもんな、よし、俺も参加しよう」
「はは、お手柔らかに頼むよ」
佐田は軽口でいなしながらも、もし友人が手に入れてしまった時はダミーにすり替えようと考えた。蘆屋道満は残虐で冷酷な男だが、一度気にいると切り捨てることはなかった。
友人は5000万円まで頑張ったがふだをおろして諦めた。肩をすくめてため息をつく彼に口パクで頑張れと言われたのがわかった。
そして2億に差し掛かった時にほとんどのものがふだを上げて残るは自分と女性の一騎打ちとなった。1000万円ずつ上がっていき、とうとう佐多福太郎の全財産まで上がってしまった。
蘆屋道満はそこで札を下げるしかなかった。女性が壇上に上がっていくのが見え、会場は客たちの拍手に包まれる。
拍手が雑音にしか聞こえなかった。宮地は友人に飲み物を取りに行こうと人混みの中に消えていった。
蘆屋道満は今まで隠れて生きていた。しかしあの体を手に入れられれば窮屈な体と生活ができると。
縛られることが嫌いだった。それよりもあの体を手に入れてもう一度彼女に会いたいと、自分に会ってくれると思ったのだ。
そう思うと、自然と足が速くなっていく。そしてその足は拍手されている壇上の階段へと向かっていた。
次話の投稿は22日にいたします。




