第十四話:迫り来るカウントダウン
その場を離れた佐田と宮地は話を続けた。
「それにしても驚いたな」
「何がだ」
「お前が女性に声をかけることだよ。オークション会場に行っても女性とは話すどころか、オークションが始まるまでロビーとかで待っていたじゃないか」
宮地は佐田の過去話に思い出すふりをしてうなづいた。今の佐田としての意識は眠っており、佐田を演じながら蘆屋道満はうなづいて答えた。
「ああ、ちょっと知り合いに似ていたから声をかけたんだけど違ったようだ」
「まあ、そういうこともあるか…それにあの女性、どこかで見たことがあるな…」
「彼女を知っているのか?」
「うん?ああ…そうだ! どこかで見たことがあると思ったら芦屋椿ちゃんだ!大きくなっていて気が付かなかった」
宮地は女性のことを思い出したことに声を上げると、それに対し佐田は目を見開いていた。
「ーー今、なんて」
「うん、芦屋椿ちゃん?」
宮地は佐田の驚いた表情にどうしたのかと首を傾げ、先ほどいった人物の名前をゆっくりと言葉を紡いだ。
「芦屋、彼女は芦屋というのか?」
いきなり食いつてきた佐田に宮地が驚いて困惑する。
「あ、ああ。彼女の名前は芦屋椿ちゃん。五年前に家にある蔵の片付けを使用人がしていたら、何かの物音がしたんだ。最初は動物の仕業かと思ったら、これが違ってね、出たんだよ」
お化けのようなポーシングに佐田はうなづいた。それに友人の男は不思議そうに首を傾げた。
「お前、お面は大丈夫だが、お化けや幽霊はダメじゃなかったか?」
「…ああ、最近はあまり怖くなくなったんだ、逆に今は興味があるくらいだよ」
「そうか? まあ、そうゆうこともあるか」
「陰陽局にお祓いを依頼したら彼女が対応してくれたんだ」
「そうだったのか…」
佐田と友人の男は趣味が一緒というだけで関係が深いというわけではない。佐田が少し変わったところで追求されることもなかった。
〇〇
それよりも佐田福太郎に憑依した蘆屋道満はそれどころではなかった。
『芦屋椿』
蘆屋道満にとって「椿」には特別な意味が込められていた。茨木童子の瞳の色から由来されている。この世にあんな美しいものがあるのかと意味を込めて彼に「椿の君」とそう名付けた。
自分が一目惚れした鬼が芦屋家の子孫として、彼に似た容姿で、椿という名で女性として生まれた。これがどんな言葉が言い当てられるのかと考えた時にぴたりと嵌った。
『運命』
やはり君と私は結ばれる運命で結ばれているのだとそう確信した。
〇〇
一方花月、桃華、菊理、百合絵は会場のすみにいると一際高い声の女性たちの声を耳にした。
「きゃああ、、誰、あの人 芸能人」
「アイドルかな?」
「かっこいい」
若い女性たちが何を騒いでいるのかと、その中に覚えのありすぎる顔を見つけた。その中心にいる人物と目があった。花月はその瞬間にしまったと思ったが、もうすでに遅い。
土御門光彦は花月の姿が視界に入った瞬間に花のように笑った。彼に注目していた女性たちはそんな表情を見せるなんていったいどんな人物かとこちらの方を一斉に向いてきた。
『ひいぃ!?』
妖怪に追いかけられて怖い思いをしたことは何度かあったが、これがこれで迫力があると花月は感じた。
「こんばんは、来てくれたんだね 花月さん、すごく綺麗だよ」
「あ、ありがとうございます」
とろけるような笑顔と甘い声に話しかけられる少女の姿に周りの女性たちの羨望と注目の的である。
『何、あの子』
『光彦様とお知り合いの方かしら?』
『羨ましい、もしかして彼女とかではありませんよね』
『ええ、まさか!?』
女性たちのコソコソと話す声に花月は生きた心地がしなかったがなんとか声を上げた。
「あの、土御門さん…後で大事な話があります」
「分かりました、イベントが終わったら話をしましょう」
花月の真剣な目に、光彦は目を見開きうなづいた。そういって桃華たちに挨拶をしてその場をさった。
〇〇
そんな花月たちの様子を見守っていたものたちがいた。朝日と真澄と合歓である。そのままでは流石にまずいので変装することになった。
真澄は普段着ないような洋服で、合歓は動きやすいようにパンツスタイルである。朝日はというと会場には朝日の女装を知っているものが少なからずいるのであえて変装を解くことになった。
もちろん、これは志郎に相談済みである。ひさしぶりの変装を解いた朝日は清々しい気持ちになった。少し落ち着いたのをジャケットに白のブラウスとズボンを履いた。その姿にいつものメガネを外した。
「どこかおかしいところはないかな?」
「バッチリです」
朝日の不安に真澄は取り払うように強調した。それに不安は無くなった。
「そっか、よかった」
そして、朝日たちは花月たちが来て光彦と邂逅を見守っていたのだった。特にトラブルすることなく終わったことに朝日たちはほっとした。まだ話は終わってないらしいが緊張に張り詰めていると特に感が鋭い桃華に怪しまれかねない。
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
真澄と合歓に断りを入れてその場を後にした。手洗い場は会場の外にあった。お手洗いから帰ろうとした入り口付近で一人の男性とぶつかった。
「すみません」
「いえ」
男性は朝日にぶつかったことに自分の不注意を謝る。それほど衝撃がなかったので謝罪する必要はないと相手のことを見た瞬間に朝日は凍りつく。
「あれ、あなたどこかで」
『この人は確か…』
朝日とぶつかったのは刑事の立川慶吾だった。
『なんでこんなところに!?』
朝日はパニックで体が思うように動かなくなった。それを立川は足を止めてしまったことに謝った。
「すみません、知っている人に似ていまして、私の気のせいだったようで、失礼しました」
「…いえ」
朝日はなんとか笑みを絶やさずに誤魔化し彼の横を通りすぎた。そして真澄と合歓の元まで帰り着いた。
「朝日様、おかえりに…」
真澄と合歓は朝日の表情を見た瞬間に何かを察した。
「何かありました」
どうされましたかではなく、もうすでに過去形になっていることに朝日は息を吐きながら答えた。
「この会場に知り合いの刑事がいる」
「え、警察が」
真澄が手で口元をかざしながら驚きをあらわにした。会場に警備のものならまだしも警察がいる理由が分からなかった。
「なぜでしょうか、何か事件が?」
「わからないけど、警察が来ているってことは何か良くないことが起きるかもしれない」
「…少し探ってみましょうか」
心配そうにいう朝日に、合歓は思案して口を開いた。それに朝日は少し考えてどうしようかと迷ったが、
「うん、お願い、でも無理はしないでね」
「はい、かしこまりました」
合歓は設定上親子としての設定なので、子供にお辞儀をすると不審に思われるので口頭だけにして足早に会場を後にした。
〇〇
合歓は朝日の護衛を任されているが、人が多くくるところは何かとトラブルが起きやすい。それも重ねて合歓は会場の裏方の方に潜入した。
会場の裏に入るためにはもちろん陰陽局の許可証が必要になるが陰陽局には父がいるため作ることは造作もなかった。
流石にパーティーの格好だと呼び止められるので、合歓は作業服の格好に着替えた。会場の裏にある室内には所狭しにオークションに出される物品が置かれていた。
そして一際大きい箱があった。それは大きな布で覆い隠されていた。普段は気にしないが、合歓はそれが無性に気になり近づこうとしたその時にだった。
「何をしていますの?」
「!」
箱に気を取られていたとはいえ、人が近くにいたことに合歓は心の中で自分を叱咤した。
「私はオークションの準備をしている、作業員の假屋と申します」
合歓は許可証を少女に提示した。
「ふ〜ん、陰陽局の許可証ね…作業員でもあまり近づかないように」
きつめの口調でいう少女に合歓はお辞儀をした。
「申し訳ありません、気をつけます」
「気をつけなさい」
威厳高にいう姿が妙にあっている。合歓は最近ハマっている悪役令嬢みたいだと思った。
『あの少女は確か…』
他にも警備員はいるのでここで立ち止まっているわけにはいかない。あの箱の中身はわからなかったが、箱を持ってきた出品者はわかった。
そして出品者の顔を合歓は記憶していた。彼女の名は。
〇〇
合歓は情報を得て早々に朝日に連絡をして帰ってきた。
「お疲れ様です、合歓さん」
「はい、ただいま帰りました」
朝日と真澄の顔を見て合歓は笑みを見せたが、これから話すことに対して気持ちを切り替えた。
『朝日様と真澄姉さん、話したいことがあります』
念話になったことによほど重要なことだと二人は察した。
『会場の裏方にはオークションで出品される品々があったのですが、その中に一際大きい箱があったんです』
『大きい箱?』
『はい、それに近づこうとしたその時にある少女に呼び止められました…誰だったと思いますか?』
朝日と真澄は目を目を合わせて、そしてまた合歓の方を見た。
『芦屋柘榴…芦屋ってあの蘆屋道満の子孫の?』
『はい、その通りです。彼女は芦屋家当主の次女ですね』
芦屋というとつい最近、芦屋家直属の検非違使が陰陽局に来て不可解なところもあり怪しいと睨んでいる家である。
花月を連れてきたのが土御門だと思われているが、芦屋だということはまだ知らない状態。
『その大きな箱に何かやばいものが入っていることは確信しています。箱には呪符が貼り付けられていました』
呪符がつけられていたということは封印されていたものだろう。そんなものを出品するなと朝日は思ったが、オークションの開始時間は刻一刻と迫っていた。
次話の投稿は20日にいたします。




