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第十三話:突然の再会に戸惑う二人とお邪魔虫

〇〇


 芦屋椿は普段交流会に来ることはなかった。しかし今年は妹の柘榴の護衛ということもあり一緒に行くことになったのだ。


 マーメイドドレスを着た椿は年齢は18だが女性だと思われてもおかしくない。背も高くすらっとしており、ドレスの裾からは長い足が見え、ウエストはしまっている。ボリュームのあるバストは男女問わず魅力的だった。


 衆目に晒されることは小さい頃から慣れているため、動揺することも恥ずかしがることもなかった。会場に入って少しした頃に一休みしようと芦屋家の使用人と交代した時だった。


 後ろから誰かに追いかけられているのに気づいた。人混みだが自分の背後にいることがすぐにわかった。そして声をかけられた。


「あの、すみません」


 陰陽師関係のものが多い会場で芦屋の者として出席している以上無視するわけには行かないと椿は仕方なく振り返った。


 見たことがない男性だった。背は同じくらいだろうか。中肉中背で顔立ちは三十代後半といったところだろうか。特徴というものはなかったが自分を見る目がどこか異質なものだと感じた。


「はい、なんでしょう?」


 椿に返事をされた男性は嬉しそうに口を開いた。


「すみません、私の知り合いに似ていて声をかけてしまったんです」


 申し訳なさそうにいう男性に椿はその理由に納得した。知り合いに似ているのだったら呼び止めてもおかしくないだろうと椿は思った。


「そうだったんですね、私はあなたと知り合いではないので、それでは失礼いたします」


 椿は丁重に断ろうとしたその時だった。


「ちょっと待ってくれ…っ」


 男が焦ると共にぐいっと肩を引っ張られた。椿はヒールの高いハイヒールを履いているためバランスを崩しやすい。案の定、男性の方に倒れ掛かり、ぶつかりそうになり椿は思わず目を瞑った。


 しかしその衝撃は訪れなかった。椿は恐る恐る目を開けると自分が誰かに体を引き寄せられていることに気づいた。こんなに接近して気づかないとは、引き寄せたものの顔を見ようとした瞬間だった。


「大丈夫か…?」


 低く通る声だった。そしてその声の持ち主を椿は知っていた。椿は驚いて目を開ける表情に男は…糀は椿の驚いた表情に少し笑った。


「どうして、ここに…」


「ちょっと、バイトでな」


〇〇


 糀は会場に行くことになったのはつい先日のことだった。花月たちの護衛も兼ねて朝日ちは変装して護衛に行くことになったのだが、当然誰が朝日の護衛をするかということで手を一番先に挙げたのが糀だった。


 この前の自分の失態を挽回するチャンスが欲しいと頑なに譲らない糀に藤次郎、香散見、合歓、真澄も困った。


「糀も覚悟していることだし、僕が責任を取るから」


 朝日様、それはペットを飼うときのセリフですっと真澄は言いそうになったがそういう空気ではないので言い止まった。朝日の後押しに負けて朝日の護衛には真澄、糀、合歓となった。聖子とあやめはまだ妖力を制御するために訓練中なので除外された。


 朝日と真澄は藤次郎のおかげで紛れることができ糀は会場のスタッフになった。朝日と真澄は若すぎるので、合歓の子供という設定である。それを聞いた香散見はいいなと羨ましそうな目で見つめられた。


 姉が浮かれているのを他所に合歓は一つ心配があった。それは糀がスタッフの仕事をできるかだった。


「糀はやる時はやる男だよ」


「そうですか…?」


 合歓は糀と過ごしたことがあまりない。糀がよく失敗して父を怒らせていることのようが強く記憶に残っていたからである。しかし、それを合歓は杞憂に終わった。


 会場のスタッフの格好は上に着るウエストコート(バーテンダーが着るようなベスト)黒ズボンを履いた糀はスタッフの仕事を完璧にこなしていた。その姿に会場でみた合歓は驚いた。


「ねえ、あの人かっこよくない」


「そうね背が高いし、体ががっちりしているし」


 合歓の聴覚は人並みハズレており、女性たちが糀について黄色い悲鳴をあげているのがわかった。


 合歓は糀のことをあまり知らない。知らないのと知ろうともしないは大きな違いがある。それに合歓は素直に反省した。糀は大丈夫だと納得して合歓は朝日と真澄の護衛に集中することにした。


〇〇


 糀は接客をしながら会場に異変がないか見渡していたら、やたらと主に女性の方から声をかけられる。


「あのラインを交換しませんか?」


「後で一緒にディナーに行きませんか」


 それらの誘いに対し糀はキッパリと誘いを断る。


「今、仕事中ですので」


 キリッとした視線にはっきりと言われた女性たちは無理に誘うことができず、仕事に専念している男らしさに女性たちはさらにメロメロになっていることを糀は気づいていない。


 ふと周囲を見回した時だった。知っている女性の香りがした。何百人もいる中で糀は瞬間にあの時にあった女の子がいると思った。


『まさか、あの子がいるのか…?』


 どんどんと匂いの元を辿っていき、そして見つけた。その女の子はあの時と違って化粧をしていて、大人のような出で立ちをしていた。


 しかしその少女は男性と話をしていた。知り合いかと思い邪魔することはできないと糀は少し離れて話が終わるのを待って彼女に話しかけるつもりだった。


 しかし事態は一変する。その男性は背を向けた彼女の腕を無理やりに引っ張ったのだ。彼女の顔が歪んだ瞬間に体が勝手に動いていた。ぐいっと彼女の体を自分が引き寄せて安否を尋ねた。


「大丈夫か?」


 尋ねるが彼女は自分の顔をじっと見つめて目が見開いた。子供のように驚く表情に糀は可愛いと思った。


「…どうしてここに?」


 彼女は驚いて糀に疑問をぶつけた。それもそうだろう。散歩の途中で出会っただけの知り合いが会場で遭遇する確率なんていったいどれだけ難しいのか。


「ちょっとバイトでね」


 そういうと、彼女は驚きながら微笑んだ。


「そっか、バイト…こんなところにもあるんですね」


「ああ、大丈夫だったか?」


「ええ、ちょっとよろけてしまって…助かりました」


 椿はお礼を言うと糀は男の方を見た。そして睨み殺すかのようにじっと見られていたことにようやく気づいたフリをした。


「申し訳ありません、彼女の腕を思わず引っ張ってしまって」


 申し訳なさそうにいっているが言葉が棒読みでまるで誠意がなかった。それと鋭い視線が糀に対して向けられていた。


〇〇



 初めて一目惚れをした妖とよく似た女性と言葉を交わしていた。その幸福な時間はあっという間に終わりそうにな佐田は焦って彼女の腕を引っ張ってしまった。


 咄嗟の行動に自分でも驚きながら、こちらに来るであろうと彼女の体を受け止めようとしたがそれはなかった。彼女の体は向こうのほうへと引き寄せられたからだ。


 突然の横入りに佐田は興を削がれた。そして二人は目と目が合い何やら話しあっていた。


 知り合いだったのだろうかと少し待つことにしたが数分経っても二人は離れようとせず、流石に佐田は邪魔をした男に苛立ちの視線を送った。すると男と目があった。


「申し訳ありません、彼女の腕を思わず引っ張ってしまって」


 糀を見た後に佐田は申し訳なさそうに彼女の方を見た。


「お怪我はありませんか?」


「はい、大丈夫です」


 佐田の心配そうな声に椿は答えた。


「それはよかった、何かお詫びできないでしょうか?」


 しつこく話してくる佐田に椿は辟易した。そばで聞いていた糀はなんなんだこいつという顔をしている。


「全然大丈夫ですので」


「ですが…」


 糀は埒が開かないと話を切り上げる。


「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので」


 糀が椿を庇うように立つと佐田は眉間に皺を寄せた。


「君には関係ない、彼女のいったいなんなんだ?」


「俺は…」


「福さん〜」


 糀が答えようとしたようとした時になんとも間延びした声が聞こえてきた。そこにやってきたのは佐田の友人の宮地だった。


「ここにいたのか、さっさと一人で歩いて行くなよ…お知り合いでもいたのかい?」


 宮地は不思議そうに対面している友人と糀を見ていた。佐田の視線がチラリと椿の方を見つめた。


「ああ、ちょっと似ている人がいてね。でもどうやら違ったみたいだ」


「そうだったのか、お前が欲しがっていたものがオークションに出るらしいんだ」


「ああ、わかった」


 佐田は最後に会釈をして立ち去っていった。椿はようやく視線が逸れたことにほっとした。それを糀は気づいた。


「やっと行ったな、何か飲むか」


「いや、今日は妹と来ていて彼女の付き添いできているから」


 心配そうに見てくる糀の表情に椿は嬉しそうに目を細めた。


「あの男に会ったことがあるのか?」


「…いや、ないな、私は会ったことがある人は覚えているから、あの宮地さんという人は見た覚えがあるが」


「そうなのか?」


「ああ、まあ、もう5年も前のことだから」


「それなすごいな、僕なんて明日になったら忘れているのに」


 すぐに答えれる椿に驚いたように彼女の記憶力を褒めると、それを堂々と言う糀は椿はおかしそうに笑った。


「ふふ、そうかな」


「うん」


「それじゃ、お仕事頑張って」


 糀に激励をして、椿は立ち去った。先ほどの男と出会った時の嫌悪感は無くなっていた。

次話の投稿は18日となります。

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