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第十二話:立川、かの鬼に似た女性とすれ違う/とある天涯孤独な資産家の不幸

〇〇


 立川と足立は交流会の警備として配属されたのは会場内の警備だった。人で溢れかえる場内に立川は目が回りそうだったが、なんとか慣れていき一休みしようとしたその時だった。


 黒髪の女性とすれ違った。マーメイドドレスで背の高く男性たちがチラチラと彼女を遠目で見ているのがわかった。


 自分もそのうちの一人になっているが立川は彼女を初めて見たとは思えずに凝視してしまう。姿が人混みに消えてしまうと、立川は話しかけようとするが、


「お兄さん、かっこいいですね」


「今日は何時までお仕事なんですか?」


 他の女性たちから声をかけられたことで、女性から視線を逸らしてしまう。その女性は人混みの中に消えてしまった。


「すみません、仕事中ですので」


 会場の警備を担当する者として客人を無碍にすることはできないので丁重にナンパのお断りをして、その場を少し離れた。立川の異変に足立は気がついた。


「どうした?」


「あの、背の高い女性がそっちの方を通りませんでしたか?」


「背の高い女性?」


 交流会は立食パーティーの形式である。パーティーといえばドレスにハイヒール。自分の身長を高く見せるためにヒールの高い靴を履く女性は数多くいた。


 その中の一人を探すのは至難の技だろうと立川も諦めようとしたが、足立が話しかけてきた。


「何か気になることでもあるのか?」


「え?」


 てっきり仕事に集中しろと怒られると思ったがまさかそんな言葉をかけてくれると思いもしなかったので立川は返答に戸惑う。


「お前は仕事中によそ見とかしないだろう、その女性を見て何か感じたことがあったんだろう?」


「は、はい」


 足立の言葉に立川はすぐにうなづいた。


「実は夢の中で見た人?と似ていたんです」


「その女性が似ていたと?」


「はい、でも夢の中で見た人は人間ではありませんでしたし…私の勘違いだといいんですけど」


 言葉尻が元気がなく自信なく話す立川に足立は考える仕草をしてフォローした。


「直感ってのは時に重要だ。その女性の外見はどんな感じだ?」


「えっと、マーメイドドレスを着た女性です。背は僕より少し低めでしょうか」


 立川の身長は176センチある。となると160後半から絞った方がいいだろうと推察する。


「俺も警備しながら捜索にあたる」


 信じてくれるんですかっと言おうと思ったが、信用してくれることに対して疑いの言葉をかけるべきではないと言うのを止めた。


「よろしくお願いします」


 そう言って二人は別れ、配置に戻った。一つだけ言い忘れていたことがあった。それは夢の中で見たものは鬼で男だったと言うことだ。


 そんなことあるわけないと思いながら立川は落ち着かなかった。この後女性を探そうとするが300人を超える来客者の中で見つけることはできなかった。






「オークション会場はこちらでやっていると聞いたのですが」


「はい、こちらです」


 一人の資産家が受付の案内人に挨拶をした。男はオークションで出される珍しい出品を求めてやってきた。その男は後にこの会場を混沌に陥れることなどこの会場にいる誰もが思いもしなかった。


〇〇


 彼の名は佐田福太郎。資産家の家に生まれ、何不自由ない生活を送る。趣味として骨董品やら古いものを集めることが好きだった。


 その中でも特に好きなのがお面だった。天狗か、般若など収集していた。二十代のある日、蒐集家の友人からお前が好きそうなお面を見つけたと言われ友人の家に向かった。


 そしてそのお面を見た瞬間に心奪われた。お前に譲るというと、お金もなしに受け取れないと手切手を渡して感謝を伝え家に持ち帰った。


 そしてお面をもらった日の夜、不思議な夢を見た。一人の男が暗闇の中にポツリと立っている。その男は昔の人が着るような着物を着ていた。その男は振り返ると目と目があった。




「お前はちょうどいい器だ」




 なんのことだと思い話し掛けようとするが、言葉が出なかった。まるで口を閉ざされたように動かない。次の瞬間何か顔面を押し付けられたような感触があった。その息苦しさにもがくがどうすることもできない。


『く、苦しい 誰か…っ』


 叫ぼうとするが、一戸建てに一人暮らしをしている。そして人混みが苦手な佐田は町外れの家でひっそりと住んでいたので誰も気づきもしない。しばらくして佐田はぴたりと止まり動かなくなった。


 そしてその翌朝、彼は起きた。その表情はまるでお面のようで人間味はなかった。男は起き上がり洗面台に向かい自分の顔を見た。



「久しぶりの人間の体だ、大切に使わないと」



 男は不気味に笑い、自分の顔に笑い返した。男の名は芦屋道満。かつて稀代の大陰陽師、安倍晴明と競い合った陰陽師がいた。


 しかし術比べの戦いに敗れ隠れた。そんなある日、源頼光からあるものを持ち込まれた。それが鬼の片腕だった。


 強い妖気を持つ物体に芦屋は片腕の持ち主に会いたいと思った。そして捉えられた彼に会いに行った。初めてだった。こんなに惹かれたのは。


 毎日彼に会いに行った。捉えられた彼はいつも無口で何も言わなかったが一目見ているだけで幸せだった。けれどその幸せは長くは続かなかった。


 何が起こったのかわからない。


 目の前で渡辺綱の刀を奪おうとして殺された。彼が死んでしまった。それからもうどうでも良くなった。蘆屋家がどうなろうが、生きることに対してもどうでも…。


 『もう一度彼に会いたい』


 彼が残していった核を使い、その想いだけで研究をするが、蘆屋道満はもう一度彼に会うことはなかった。その後蘆屋家から姿を消し、彼が最後に研究したのはお面のつくも神に彼の血を利用したらどうなるかという実験だった。


 しかし、この時蘆屋道満の体に異変が起きてしまう。その時の道満の齢は80を超えていた。寿命だった。とうとう体がもたなくなり、心筋梗塞で倒れそのまま亡くなった。


 体が死しても尚、蘆屋道満の思念体は生きていた。そしてその思念体は近くにあったお面へと取り憑いた。


 お面に取り憑いた道満の情念はやがて妖へと変貌を遂げてしまった。お面に取り憑いたものに寄生して、精気を吸い生きながらえたのだ。


 佐田福太郎と成り変わっても友人関係を壊すことはなかったのは佐多が独り身で生涯孤独だったからだ。蘆屋道満にとってはまさにうってつけの逸材だった。


 それと現代でも陰陽局が実在することを知り、騒ぎを起こせば嗅ぎつけてくるだろう、昔と違いSNSが普及した社会は怨霊と化した蘆屋道満にとって生きにくい社会だった。


 十年の月日が経ったある日、友人から珍しいものが出るらしいからイベントに来ないかと言われ誘われた。


 なるべく陰陽の世界から離れて生活を送っていた。珍しい掘り出し物があると言うことで年末に都内のビルで行われる交流会へと向かうとそこには人ごみに溢れていた。


「福さん!」


 福太郎の愛称を呼ぶ声が聞こえ、佐田は振り返った。


「よく来てくれたな」


 友人はビルに多額の出資をしており今日行われるオークションの出品者の一人だった。名を宮地という。


「古いものに目がない私が来ないわけないだろう」


 宮地は彼の腰を小突いて笑った。その気やすさが佐田にとっては心地のいいものだった。当時の蘆屋道満にそんなことできたのは源頼光ぐらいである。


「あはは、悪い悪い、今日は掘り出し物が多くて浮かれていたな」


 その時だった。視界の端に映ったものに目を動かした。一人の人物が目に入った。佐田は友人の声が聞こえなくなり、彼女しか目に入らなくなった。そう思ったらじっとはしていられなかった。


「すまない、後で聞くから」


 後ろから何かを叫んでいるがそんなことどうでもよかった。佐田は一目を憚らず駆け足になり、その女性を見つけて声をかけた。


「あの、すみません」


 佐田の声に声をかけられた女性は振り返った。


「はい…?」

次話の投稿は16日にいたします。

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