第十一話:花月、柘榴と対面する
「ほ、ほんとでも強制とかじゃないから無理ではないからねっ」
花月は菊理に交流会に行くことを伝えると、彼女は吃りながらも懸命に友人を気遣う言葉に嬉しくなる。
「うんうん、全然無理じゃないよ、交流会ってそんなのがあるんだね、楽しみにしているね」
何回か言葉を交わし、通話を切った。花月との会話を終えた菊理は花月の返事を聞いて脱力感に襲われた。
『あ〜、やっぱりそうなるよね』
菊理は畳の上に寝転がり、ゴロゴロと体を回転させた。感情の吐き出し方がわからず、返事を聞いた以上待ち構えている柘榴に花月が出席することを伝えなければならない。
菊理は色々と考え込むが今の自分ではどうすることもできないとわかっている。ならば、今の自分に何ができるか、花月と交流会に出席して無事に交流会を終えることである。自分にそう誓いを立て、菊理は立ち上がり猛然と家の固定電話がある場所に向かった。
〇〇
柘榴の家に電話をするとまず電話に出たのは使用人の早瀬と呼ばれるものだった。菊理は早瀬に苦手意識を持っているが電話をする前に何度も練習した通りに言葉を告げた。
「土御門菊理と申します、柘榴さんにお伝えしてほしいことがあるのですが」
菊理は要件だけ言って電話を切るつもりだったのだが、そうはいかなかった。即座に早瀬が反応して菊理の退路を断つ。
「菊理様ですね、柘榴様がお待ちしておりますので、少々お待ちいただけないでしょうか」
「あ…はい」
断る隙も与えない早瀬は柘榴に菊理から電話があったことを室内にある子機で連絡すると、
「ありがとう、早瀬さん」
柘榴は早瀬に礼を言うと恭しくお辞儀をして退室していった。扉の外に行ったのを確認して手元にある子機に向け口を開いた。
「もしもし、ごきげんよう、菊理さん」
「ご、ご機嫌よう…です芦屋さん」
「あら、私のことは名前で呼んでくれてもよろしくてよ」
好意で言ってくれることはわかっていたが、普段の菊理だったら、恥ずかしい思いながらも言っていただろう。
けれど相手があの芦屋家の本家のご令嬢であれば話は別だが。彼女に立ってのお願いは、お願いではなく命令に等しい。
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて、柘榴さんは…」
「ええ、それで構いませんよ」
満足そうに柘榴が返事したことに菊理はほっとしながらも心中穏やかではなかった。
「それでご用件はなんですの?」
菊理が連絡してきた理由は心当たりがあるはずなのにもったいぶる言い方に緊張を募らせる。
「はい、私の友人も交流会に出席することになりましたので」
「それは本当ですの?」
暗に嘘であったら承知はしないという言葉が隠れていることに菊理は気づいていたが、なんとか言葉を振り絞った。
「はい、本当です」
菊理の念押しする言葉に柘榴は嬉しそうに言葉を出す。
「それは楽しみだわ」
一言、二言、言葉を交わして電話が終わった。途端に脱力感が襲いかかり菊理は一仕事を終えたような気分になった。
柘榴は電話を切った後、独り言を呟いた。
「ふふ、ようやく会えるわね。せっかく会えるんですもの、もてなしを考えないと」
柘榴は無邪気に笑いながらも瞳の奥は全然笑っていなかった。そして準備や日常に追われているうちに大晦日当日になる。
〇〇
待ち合わせはどうするかと花月たちは数日前に連絡をすると前日に菊理の家にお泊まりすることになり、着るものとかをどうすればいいのかと相談した所、菊理の姉のお古を貸してもらうことになった。
新しいものを買うよりも出費が嵩張らない方が倹約家の花月にとってはありがたかった。メイクなどは百合絵から教えてもらい、ドレスを着用していく。
「可愛いドレスですね」
フリルのついた花柄のドレスで膝下くらいの長さである。
「ふふ、そうでしょ セールの時に買っておいてよかったわ、花月ちゃん…」
「はい?」
「今回、迷惑をかけてしまってごめんなさい、私たちが分家でなければ断ることもできたのに…」
申し訳なさそうに言う百合絵に花月は目を細めた。
「迷惑じゃありません…菊理ちゃんは私の友達で困っていたら何かしてあげたいって思うのは普通じゃありませんか?」
「…」
百合絵は言葉を失った。口ではどんなに言い繕ってもそれを実行するものがどれだけいるのだろうか。
花月が菊理の友達でよかったと心から思った。
「ありがとう…花月ちゃん」
「いえいえ」
二人笑い合っているとそこに桃華がやってきた。
「準備は終わった?」
桃華はスーツとズボンを履いていた。彼女にもドレスを着ないかと百合絵は聞いたが、ドレスが動きが鈍くなる理由で丁重に断った。それに菊理と花月は聞いていて桃華の性格がわかっていたので苦笑した。
百合絵の運転で交流会が開催されるビルに向かった。場内は都内の高層ビルで、下から見上げると天井が見えないぐらい高い。
「た、高すぎませんか?」
「200メートル近くあるわよ」
「2、200!? 東京タワーって確か333メートルでしたよね」
あまりの高さに呆然としながら、花月たちは遅れないように百合絵の後をついていった。
会場の入り口には出席の受付があり、それが終わると会場の中に入っていった。会場は扉が開かれるといろんな人の声が広がった。あまりの人の多さに眩暈がしそうになったが、花月は一人ではない。
「さて、いきましょうか お待ちしているから…」
百合絵の緊張気味の声に花月、菊理、桃華はうなづいた。こんなに人が多いが百合絵は迷うことなく歩いていくと人だかりができているところがあった。
その人だかりの中心に二人の少女がいた。一人は背が高く、モデルのような体型ですらっとしている。少女というよりも女性に見えるが、マーメイドドレスを着ていた。
もう一方はまるでお姫様のようだが、着物姿で挨拶をしていた。百合絵は列の順番に並び、私たちの番がきた。着物姿の少女は花月たちを、いや花月を見て微笑んだ。
〇〇
着物姿の少女は手を挙げて声をかけてきた。
「あら菊理さんと百合絵さん、こんにちは この前以来でしょうか」
「こんにちは、柘榴さん。この前以来ですね」
百合絵は会釈しながら挨拶をした。それに倣い菊理、花月、桃華も礼をした。百合絵はもう一人いる背の高い女性?の方に礼をすると返礼された。椿という名前ということを花月たちは初めて知った。
凛とした背格好といい、隣にいる美少女とは対照的である。二人が姉妹だということを初めて知る。
椿に興味を惹かれているとじっと見られていたことに花月はようやく気づいた。その視線は柘榴からのものだった。
「こんにちは、あなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
その笑顔を向けられたら男性たちは魅了されることに間違い無いだろう、同性である花月もどきりとした。
「は、はい、私は平野花月と申します」
名前を言った瞬間に一瞬だけ、彼女に睨まれたような錯覚を覚えた。
「ああ、あなたがあの人の…」
花月の方へ歩み寄ろうとした時だった。彼女の前に今までじっとしていた桃華が前へと躍り出る。目の前に現れた少女に柘榴は首を傾げる。
「あなたは?」
「私は烏丸桃華と申します。花月と菊理とは友達です」
「友達…そう、親しい間柄ってことね、私も親しくなりたいんだけど、特に花月さんと」
柘榴は笑みを絶やさずにいうセリフに百合絵と菊理はゾッとした。彼女の本性を垣間見たことがない人から見るとなんて事のないセリフだろうが。
「一瞬でも殺気を飛ばしたような人に私の友人に近づかせることはできないわ」
桃華の隠さない言葉に柘榴は笑っていた目を細めた。
「殺気だなんてとんでもないわ、ふふ、ごめんなさい、あの人の思い人にちょっとヤキモチを焼いてしまったみたい」
あくまでヤキモチだという柘榴の言葉の濁し方に緊張が張り詰める。本人は笑っているが睨まれた方が気分がいいものではない。
「あの」
その時に声を発したのは花月だった。
「私、あなたにいいたいことがあったんです、ここで話をしてもよろしいですか?」
周りには人はいる状態では話をしてもいいかと花月は確認する。
「そうですね、少しお二人で話をしましょうか?」
「それなら大丈夫です、姉さん」
柘榴はそばにいる椿を呼ぶと、椿は術を唱えた、途端に周りの空気が無くなったことに花月たちは驚く。驚く様子に椿は冷静に口を開いた。
「これで盗聴、読唇される恐れはありません」
鮮やかな術捌きに百合絵、菊理、桃華は見惚れた。花月は椿にお礼を述べて息を整えて、自分の思いを吐き出した。
「お気遣いありがとうございます。…私、あの人のことを恋愛感情を持っていません、そして付き合いたい気持ちなんてこれっぽちもありませんので安心してください」
花月からの表明に柘榴は目を細めた。
「…それは本当ですの? 」
花月の直接述べても信じられない様子に花月はあることを告げた。
「はい、今日来たのは彼も出席すると菊理ちゃんから聞きましたので、彼に断りをするためにきました」
それを聞いた柘榴は少し驚いたように目を見開いた。その驚く様子は年相応で花月は可愛らしく感じた。
「菊理さん、それは本当ですの?」
まさか自分に来るとは思ってなかったので、菊理は吃ってしまった。菊理自身も柘榴と同じように驚いていたからである。
「え、あ、その、今初めて聞きました…」
菊理の動揺した様子に、柘榴は少し視線を泳がせて花月の方に目を向けた。
「そう、そうだったの…ひとまずはあなたを信じますわ」
手を伸ばしてきた柘榴に花月は彼女の手を握り返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
次話の投稿は14日にいたします。




