第八話:母からの不器用な愛
それから、手紙を書き終えた暁光が戻ってきて部屋に戻ってきて首なし男の話になり、定信はいよいよかと固唾を呑んで正座をした。それを見た暁光は苦笑をしながら口を開いた。
「さてと、こいつの出自がわかったということで首がどこにあるのかってことだが、陰陽寮にある文献には記録されてないらしいな、もしくは…」
「暁光殿…?」
「いや、悪いなんでもない、俺のことは暁光でいいぞ」
何かを言いかけたが暁光は途中で言葉を止めて首を振った。それが何なのか気になったが、突然の要求に吹っ飛んでしまった。
「そんなわけにはいきませんよ!? 呼び捨てなんて畏れ多い」
「そうか? まあ、呼びたかったら呼んでくれ」
「はい…」
多分一生呼ぶことはないとないだろうが、それで納得したのかそれ以上暁光は何も言わなかった。話が戻り、首なし男の首の所在の話題になった。
「僕の家には彼を見つけて困っていたら助けてあげてほしいと言っているぐらいしか残っていませんでした」
「そうか…情報が少なすぎるな」
二人は持っている情報を出し合うがこれといったものもなく、話が暗礁に乗りかけたその時に暁光はあることを閃いた。
「こいつの首を作るってのはどうかな?」
思わぬすぎる提案に定信は変な声が出てしまう。定信の知識ではそれはできることなのかと思いもよらなかったことだったからだ。
「え、く、首って作れるんですか?」
「ああ、式神って知っているか?」
「つくも神が長い年月をかけて使っていた道具が妖怪になるっていう…後は陰陽師が召喚したりするものじゃないでしょうか?」
暁光のそばにいる少女も式神と彼女はそう言っていたことを定信は思い出す。
「おお、よく知っているな」
妖怪のことを調べているうちにいろんな知識を蓄えていた。定信は褒められたことに嬉しそうに笑った。
「それの応用っていう形だが、俺が念じて作っていけばいけるんじゃないかと思ってる」
「…そんなことが可能なんですか?」
不安げな定信に暁光はうなづいた。
「まずはやってみないと始まらない」
本当であればこんなこと彼には関係ないはずなのに、手伝ってくれる彼に対し胸が熱くなった。
「やってみましょう」
その日は帰ることになり、定信は一人で帰れると言ったのだがまた絡まれてはいけないと真澄を付き添いに三浦家へと送られた。時間は夕方前で頼定が玄関に待ち構えていた。
「お帰り、定信」
「ただいま、戻りました 頼定兄上」
頼定は笑顔で出迎えると定信の後ろを見て、周囲に目線を動かすがそこには影も形もない。誰を探しいるのかすぐにわかりそれに苦笑した。
「真澄さんは家の前まで送っていただいて帰られました」
そう言うと、分かりやすくショックを受けてトボトボと自分の自室に戻っていった。定信は哀愁ある後ろ姿に申し訳ないと思いながら、母がいる元へと歩いていった。使用人に聞くと、母は夕餉の支度をしているらしく台所にいるらしい。少し顔を出していこうと思った。
台所に向かうにつれていい匂いが立ち込めていた。魚の焼けた香ばしい匂いと味噌汁の匂い、釜で炊かれた米の芳しさに腹の虫が鳴った。
「定信、ただいま戻りました」
「お帰りなさい、定信 夕餉を作っていますのでまた後で話をしましょう」
「はい、後で返事の文をお渡したいので」
会話はそこで終わり、しばらくして夕餉を食べ終わり、ご馳走になり自室に戻った母の元へと向かった。
母の自室はあまり煌びやかなものは置かれていない。質素だが、上品な家具が多く愛用している。
「さて、文を預かりましょうか」
そう言われると懐に大事にしまっていた文を母に手渡した。
「はい」
自分の任務は完了したと、腰をあげようとしたが、手紙を読み終わるまで母に止められた。山茶花は暁光がしたためた文を見て目を細める様子に少し心配になった。
『アキさんは一体文に何を書いたんだ?』
文を読み終えた母は一息ついて口を開いた。
「あなたから見て暁光殿はどういう御仁ですか?」
いきなり問われた質問にどう言うことだと思った定信だったが、彼と過ごした時間は短いが思ったことを率直に話をした。
「最初は怪しい人だと思いましたが、とても人柄に優れた方だと思います」
暁光のことを語る定信の嬉しそうな表情を見て山茶花はわずかに目を見開いた。
「…そうですか、分かりました。暁光殿の所に行かれる時は一言使用人か誰かに告げて行ってきなさい」
「はい、分かりました」
その言葉を最後に会話は終わり、暁光が母に何を書いたのか分からず仕舞いでモヤモヤとした気持ちになりながら部屋を後にした。
〇〇
山茶花は定信が退室した後も暁光の手紙の中身を見てそっと目を伏せた。そのいつもは冷静で厳しい瞳から母への慈愛が込められていた。
「よき先生と巡り会えましたね、定信」
文に書かれていたのは定信が妖怪を見えていたとこと、そしてその力の使い方を教えてもいいかということが書かれていた。
山茶花は知っていたのだ、見えないものがこの世にいることを。それは幼少の頃に見えないものが見えていた。だが大人になるにつれて見えなくなってしまい今は気配でいるか分かるぐらいである。
そしてその力を強く受け継いだのが三男の定信だった。小さい頃に見えないものを見えるといい、最初は子供の狂言かと思った。しかし、日にちが経つに連れてそれは異様なものを見る瞳へと変貌してしまっていた。
『定継様、頼定様は優秀な方なのに、三男の定信様はなんだか気味が悪いわ』
『私なんて肩に妖怪のっているなんて言われたもの』
『いや〜怖いわね、本当に見えるんだったら』
使用人たちの立ち話を聞いた山茶花は定信は家の中で孤立してしまうことを恐れた。そうならないために定信を呼び出した。
「母上、どうされました?」
「最近、使用人の間で噂になっているのです、定信が変なことを言うと」
それに定信は首を横に振った。話の途中で立ち上がるのは行儀の悪いことだと教えられた定信はなんとか踏みとどまり声を震わせながら口を開いた。
「僕は嘘をついていませんっ、本当のことで…」
「この世にそんなものはいません」
嘘をついてしまった。
今でも思い出す、あの子の泣きそうになりながら口元を噛み締めて、感情を抑えるかのように小さな拳を握ったことを……。
それから定信は決して見えることを言わなくなった。使用人たちは徐々に定信への恐怖心が薄れていき普通に接するようになった。そしてしばらくしてあの子が一人満月の日には出かけていることを知り見て見ぬふりをした。
自分は平凡な人間だと卑下しているがあの子の力は徐々に強くなっている、それに山茶花はどうしたものかと日々悩んでいた。陰陽寮に診てもらうことも考えた、けれどそれが噂になりこの子の将来に翳りができることを考えしまうことが恐ろしかった。
そんな時に妖怪を見えることができ、あの子の悩みに共感できるものが現れたらどれだけあの子の心が救われるのか、二つ返事で翌日の朝に定信が出かけるときに暁光に返しの文を手渡した。最後の締め括った言葉にこう書かれていた。
「息子をどうかよろしくお願いいたします」と…。
次話を投稿する日がなかなか決められずに申し訳ありませんっ(・_・;
次話の投稿は8日に投稿いたします。




