第七話:素直じゃない在昌
男たちはそそくさとその場を離れ、定信は在昌の後を慌ててついていった。しばらく歩いていくと、木々の生い茂っている場所に辿り着くと、茂みから出てきたのはポツンとした人家だった。
何も知らない定信は躊躇するが、在昌は進んで歩いていき人家の扉の前までたどり着いた。
庭を見るとよく手入れされていることがわかり、誰かが住んでいるのかわかった。真澄はこちらでお待ちくださいといい、奥の方へと消えていった。
すると一人の男が出てきた。背は在昌より少し低く、顔つきは女性が見惚れるような男前である。
「おお、これは久しぶりのご来客だ」
大袈裟にいう男に在昌は眉間に皺を寄せて、その怠惰な様子に在昌は腕を組みながら苦言を呈する。
「私は客人ではない! 自分の式神をうろつかせるな、絡まれていたぞ」
在昌の憤慨する声に男は目を見開き、真澄と定信の姿を交互に見てホッとする表情になんだかくすぐったい気持ちに定信はなった。
「そうだったのですか…助けていただいてありがとうございます」
砕けた物言いから一転、丁寧にお辞儀をする彼に在昌は他白く姿に定信は意外そうに見つめた。
「は、話はそれだけだ!」
「後でお礼に行くから…」
「来なくていい!!」
恥ずかしそうにそっぽを向き、足早に立ち去っていく姿を定信と男は見送った。男は自分の式である少女にお礼を述べた。
「真澄、彼を出迎えてくれてありがとう、大丈夫だった?」
気遣う声に真澄は嬉しそうに目を細めてうなづいた。
「はい、大丈夫です。暁光様…在昌様が庇ってくれましたので」
「そっか…僕も行きたかったけど、彼から目を離せなかったからね」
彼…?と僕たち以外にも他に客人がいるのかと考えていると暁光は定信に入るように促した。
「さあ、入って、入って」
「は、はい お邪魔します」
定信はまずは暁光に挨拶をして、草履を脱いだ。真澄はお茶を準備しに台所に向かった。庭園は立派なもので離れとは思えないぐらいである。庭園が見える広間には高価そうな卓台と座布団があった。
「さて会うのは一昨日ぶりだな」
「え?」
思わぬ彼の言葉に驚いて声を上げた。驚きの声に彼は一瞬目を見開き、吹き出したように笑った。
「ああ、そうか、お面をしていたな、俺も」
水干の袖に手を突っ込み、それを表に出した。何を出したかと思えばそれはこの前見た目元しか隠せない特徴のあるお面だった。
「それって!?」
暁光はお面を翳して口元に笑みを浮かべてニヤリと笑った。
「これでわかったか?」
「えええええ、ア、アキさん!?」
そこには一昨日出会ったばかりのアキのお面があった。だから初めて会った気がしなかったのかと定信は納得した。
「びっくりしたか?」
「は、はい、すごくびっくりしました」
びっくりしすぎて定信はうまく言葉が出なかった。それにアキは驚かせたことに満足したようにご満悦に笑った。
「ふはは、それはよかった、俺の名は賀茂暁光という、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします…賀茂家の方に会える日がくるなんて…」
定信は陰陽師のことは知らないが、首なし妖怪のことを調べているうちに、妖怪に関わった人間も調べたりなどしたことがある。その中で陰陽師の有名な家系の大家として必ず出てくる名字である。
「そうなんだな、まあ、俺は当主の養子なんだがな、さっきここまで君を案内してくれたのが当主のご子息だ」
「ええ!?」
通りであの田中という陰陽師たちが一目置いているわけだ。もう何をどこから驚けばいいのか思考が追いつかない定信であった。
「さてと、自己紹介は終わったことだし、お前にここまできてもらったのは彼に会わせるためだ、入っていいぞ」
なんだと思い、じっと待つと襖を開ける音がした。そしてそこには見知った人影がいた。その人影に首はなかった。常人であれば卒倒していただろうが、定信は嬉しさで満面の笑みだった。
「よかった…無事で」
泣きそうになる定信に暁光は微笑んだ。
「助けるって言ったんだから当然だろ?」
「すみません、思いっきり疑っていました」
正直に話す定信に暁光は笑った。
「まあ、お互い初対面だったし、いきなりだったもんな、どうして首がないのか気になっていたが…」
暁光が考える仕草に定信は意を決して口を開いた。
「それは私が説明してもよろしいでしょうか」
「敬語はいい、タメ口でいいからな。お前と俺は師弟関係でもなんでもないからな」
照れくさそうにいう暁光に定信はこくりとうなづいた。
「う、うん、わかった」
そして定信は話をした。定信が知る全てのことを、三浦家、渡辺綱が祖先にいることを、そして彼が残した謎の遺言のことを。
「渡辺綱が関係がある鬼といえば酒呑童子と茨木童子だが、茨木童子は片腕がないから、酒呑童子しかいないが…この首なしが酒呑童子なのか?」
暁光は定信に聞こうとしてギョッとした。自分の考えを述べただけなのに彼の瞳からポロポロと溢れていたからだ。
「あ、すみません。こういう話、家で話をすることができなくて、子供の頃に話をしたら気味悪がられて…」
その時だった。ぐいっと腕を引っ張られ、暁光の胸に引き寄せられた。突然の挙動に抵抗することなく体が固まってしまった。
どうしたと思い彼の顔を見た瞬間に、
「大変だったな…」
ずっと言えなかった。妖怪を見えることを言って家族に嫌われたくなくて、だから僕の初めてだった。僕のことを理解してくれた人。
「うう、うわぁあぁあぁあ」
我慢していた感情が彼の優しい声に決壊した。暁光は定信が泣き止むまで抱き寄せて背中を優しくさすってくれた。そして少ししてようやく落ち着いてきた。
「…すみません、年甲斐もなく…泣いてしまって」
「はは、そうゆう時ももあるさ」
「暁光様、お茶の準備ができ…」
唐突に入ってきたのは真澄だった。お茶を持ってくると行ったきり、いなかったので、彼女は自分たちを見て固まっていた。どうして動かないのだろうと定信は彼女を不思議そうに見ていると、口を開いた。
「お、お二人はどのような状態でしょうか?」
そう言われた定信はハッとする。自分がどうゆう態勢でいるのかを。暁光は体格は細いが、背が高く筋肉もあることに引き寄せられた瞬間に鍛えられていることはわかった。
自分も武道をしている身としては羨ましい限り、じゃなくて、悔しいかな、自分の体がすっぽりとおさまっていることである。それは見るものによれば、誤解を受けてしまう態勢であることに気づきすぐさま離れた。
「す、すみません、これは僕が泣いちゃって…彼が慰めてくれて!? その、あの」
定信は説明しようとするがすればするほど吃ってしまう。動揺していれば余計に怪しくなってしまうのだがそれどころではなかった。その様子に暁光は可笑しそうに笑った。
「落ち着け、定信…ちょっと昔話をしたら泣いちまってな」
「…そうだったのですか、昔話を…暁光様はお優しいですね」
何か思うところがあったのか、この人にも共感するところがと定信は思った。真澄の褒め言葉に暁光はしたり顔をする。
「俺はいつでも優しいだろう」
真澄の先ほどの表情を定信は見て、何か既視感を感じた。何を言わなくても深い信頼関係で結ばれているような感じが父と母を思わせた。それで気付いたのは真澄の態度だった。母はいつも冷静沈着だが、父が侍女を褒めると動揺することがあるのだ。
『もしかして、真澄さんって』
暁光に向ける先ほどの動揺といい、喉元まで出かけた言葉だったが、やぶさかかと思いその言葉を飲み込んだ。
「暁光様、これを…定信様からのお母上の文です」
唐突に真澄が懐から出してきたのは一通の手紙だった。それはここに来る前に母から真澄に手渡されたものであることを思い出した。定信はそれに何が書かれているのか気になった。
「定信の母上から俺に?」
どうして自分に手紙をと暁光はよくわからなかったが、文を開くと達筆の文字で書かれていた。読み込んでいくとそこに書かれていたのは…。
「そうか…少し文を書いて来るからお茶でも飲んで待っていてくれ」
「はい」
暁光はそういうと文を持っていて奥の方へと消えていった。真澄はお茶だけではと思い、何か用意できないかと思案した。
「暁光様が返事を書いてくるまでお待ちください、定信様は冷たくて甘いものはお好きですか?」
「はい、好きですが」
「分かりました、こちらで少々お待ちください」
そう言って真澄も退室した。一人ポツンといや正確には首なし男と二人っきりになり少しでも気持ちを落ち着かせようと真澄が入れてくれたお茶をずずっと少しずつ飲んだ。
次話投稿日はまた後日記載いたしますm(_ _)m




