第六話:黒髪の美少女の正体は式神!?
〇〇
「さてとこれからのことなんだが…」
定信の屋敷では預かることはできないし、このお寺に長居することもできない。ならば消去法としてアキの住まいしかなくなったのだ。
夜明けになったので後ろ髪に引かれる思いの定信だったが、一度帰ることにした。そんな定信の表情を読み取ってくれたのかアキの方から話しかけてくれた。
「今日は、ゆっくり休め。明後日の朝に使いの者をお前のところに向かわせる」
定信はそれに大人しくうなづいた。会って間もないのに、どうして信じることができるのか不思議な人だと思いながら、彼と首無し男を見送った。そして明後日の朝にいつものように稽古場で修練をしているとバタバタと足音が聞こえた。
バタンと開ける音に定信は見ると開けたのは次男の頼定だった。定信の修練に付き合っていた長男の定継は次男の行動に眉間に皺を寄せて苦言を吐いた。
「頼定、道場に入るときは静かに…」
「ああ、すみません、兄上!?」
頼定は自分の失態を素直に謝り、そして定信の方を見ながら猛然とこちらに向かってきた。両手でガシリと肩を掴まれた定信は驚く。
「定信、お前あんな美少女とどこで知り合ったんだ!?」
真剣な顔つきでいきなり何を言い出すのかと定信は困惑する。
「え、び、美少女??」
一体誰のことなのか定信は心当たりがなかった。埒が明かないと頼定は定継に断りを入れて一緒に玄関へと向かった。
「お、お待たせしました!」
頼定が吃りながらその人に向かい声をかけるとその人は振り向いた。定信は女慣れしている次兄がどうしてこんなにも緊張しているのがよくわかった。
射干玉の黒髪にくりっとした大きな黒い瞳、華奢な体は白い着物を纏っていて神秘的な雰囲気があり、その美少女と定信は目があった。
「こちらがあなたがお呼びになった私の弟の定信と言います」
「呼んでいただきありがとうございます、頼定様」
美少女から微笑みながらお礼を言われた頼定は赤面しながら口を開いた。定信もその姿に見惚れた。
「いえ、とんでもない」
「あの、あなたは一体」
「ご紹介が遅れました、私は暁光様の使いのものとしてやって参りました真澄と申します、今日はこれからお時間はありますでしょうか?」
その言葉に定信は昨日のことを突然思い出して声を上げた。
「ああ、使いのものってあなたが…!」
使いのものは男性ではなく同じくらいの少女だと思ってなかった定信は驚きを隠せない。
「えっ…と、今は稽古場で」
定信は先ほどまで稽古場で兄と鍛錬をしていたところだと伝えようとすると隣にいた頼定は口を慌てて声を上げた。
「今、こいつちょうど稽古が終わったところなんですよ、ちょうどいい、行ってくればいいんじゃないか」
「何を言っている、今、稽古を中断して…」
それに後から追ってきた生真面目な長兄の継定は異議を唱えようとするが、頼定に邪魔をされる。
「今日は私が汗を流しましょう、久しぶりに稽古場で」
「お前がか…まあ、いいだろ」
話がまとまりそうになったことに頼定は心中ほくそ笑みにしていた時に呆気なく終わりが訪れた。それは頼定いや、兄弟にとって最も大きな壁であった。
「何を玄関先で話をされているのですか…?」
奥から足音なくやってきたのは兄弟の産みの母である三浦山茶花その人である。後ろに侍女が控えていた。まずは軽快な頼定が口を開いて出迎えた。
「母上、どうやら、定信に来客が来られてもてなしていたのです」
「定信に来客が?」
じっと山茶花は定信を見つめて、次に来訪してきた黒髪の少女を見つめた瞬間に目を細めた。
「あなたはどこの家の出なのですか?」
山茶花の視線に臆することなく一礼し少女は答えた。
「私は陰陽寮に在籍する陰陽師、賀茂暁光様の使いの者でございます」
「陰陽寮の…賀茂の方ですか?」
思案する山茶花に定継と頼定は不思議に思いながら、少女はまた日を改めた方がいいかと提案すると首を横に振った。
「少々お時間をいただけませんか?」
〇〇
「何!?それは誠か?」
その後、城にお勤めに行っていた主人の三浦有定が帰ってきて、定信の来客のことを知った。事の真相を知ろうと家の留守をしていた妻である山茶花のもとに向かった。
「山茶花、今、帰ったぞ」
「お帰りなさい、あなた。お勤めご苦労様です」
「うむ、今日も無事に終わることができて何よりだ。それで、従者から聞いたのだがあの話は誠か?」
まるで少年のように目を輝かせる様子の夫の姿は頼定にそっくりである。そういうところに似てしまったのか性格もまた。
「あいつも春が来たのだな」
有定は腕を組みながら気持ちよく思い違いをしている様子に山茶花は容赦なくバッサリと切り捨てた。
「あの少女は定信の思い人ではありませんよ…もしもあの子があの少女に焦がれても叶うことはないでしょう」
淡々と言い切る妻の山茶花に、これ以上何も言わない方がいいと察した有定は追求することはなかった。
帰りは夕方までには帰るようにと山茶花は一筆、使いのものである少女へと渡し、頼定は主に少女の方へ熱い視線を向けて見送られた。定信はなんだか話の流れについていけず放心していると目の前の少女が口を開いた。
「ご家族は仲がいいのですね」
「はあ、喧嘩という喧嘩はまだ一度も見たことないですね、一方的に継兄上が怒っているというか…」
赤の他人に家族の事情を定信は思わずぼやいてしまい、定信は後で気づいたが、遅かった。少女が目を瞬かせて微笑んだ。
「ふふ、仲がいいのですね」
それ以上に言うのもなんがか気恥ずかしくなり、穴があったら入りたい気持ちになり、定信は声を上げた。
「あ、あの身支度を整えてきますので」
「はい、お待ちしています」
たおやかな笑顔と共にお辞儀をした。急いで身支度を整えていたため、どこに向かうの聞くのを忘れていた。
「あ、あの」
「はい?」
定信の声に反応する真澄は見れば見るほど可愛くて、そして美しい少女である。慣れるには少し時間がかかるだろうと思った。
「その、どこに向かわれているんでしょうか?」
「はい、今から行くのは陰陽寮という呼ばれる場所です」
「陰陽寮、陰陽寮ってあの妖怪を退治する専門のですか?」
定信は驚きで声を上げた。
「はい、その通りです」
「あそこって許可がないと入れないですよね」
不安そうに聞く定信に真澄はクスリと笑った。決してバカにしたような笑みではなく、可愛らしいものを見る目である。
「大丈夫です。私の主は陰陽局に在籍されている陰陽師ですので」
「な、なるほど」
そういえばここに来る前に説明していたではないかと定信は思い出すが、いろんなことがありすぎてすでに忘れていた。
「主人がお待ちですので行きましょう」
「は、はい」
真澄の言う通りに定信は歩いて行った。陰陽局の門前につくと二人の門番がいた。一人の門番が真澄に気づいた。
「真澄さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です、客人をお迎えに行って参りました、こちらが主人の客の三浦定信様です。身体検査をしたいのですが、よろしいでしょうか」
「へ、身体検査?」
馴染みのない言葉に定信は目を白黒とされる。
「はい、危ないものを持ち込まれていたらいけませんので、私が身体検査を」
真澄が丁寧に説明すると、何をされるのかわかった定信は強く拒否した。
「い、いえ、この方達にやっていただきます!」
定信は慌てた様子にいうと門番は何を思ったのか生温かい目で見られたことに気恥ずかしくなった。流石に同じぐらいの少女に体をじっと見られることは思春期の男児として落ち着かないので門番にお願いすると真澄は大人しくうなづいた。身体検査が終わり、門を通るとそこは別世界である。
「うわ〜」
見事なまでに綺麗に整えられている庭先に荘厳な屋敷があった。自分の屋敷も由緒正しい家柄でそこそこ広さのある武家屋敷だが比べようがないぐらい広かった。
「それでは、参りましょう」
これは彼女が先導していなければ迷いそうになると、見失わないようについていった。少しして歩いていくと向こう側から人がやってきた人たちがいて声をかけられた。
「これは、これは暁光殿の式ではありませんか、ご機嫌麗しゅう」
言葉は上品だが棘のあることを初対面の定信はすぐに気づいた。
「これは小泉様、ご機嫌よう」
真澄は毒舌に意を介さず、しなりとお辞儀した。何も言い返してこない真澄に目を不愉快そうに細めて口元は片方だけ上がっていた。それを見た定信はあまりいい人ではないと直感した。
「こんなところで何をしているのですか? 主人を放っておいて」
嫌味たらしく言い放つ言葉に真澄は淡々と答えた。
「主人のご命令で客人をお迎えするようにとのことでしたので」
そう言われると自然と定信の方に視線が集まる。
「へえ、君が暁光殿の?」
値踏みするような視線に定信は心の中で絶叫する。初対面の知らない男性たちから凝視されるのは気が引けてしまう。
『ヒィィィ』
「そこで何をしている」
そんな時に忽然と現れたのは低めの男性の声だった。背は長兄と同じくらいで背が高い。男たちもざわついたが静かになった。
「在昌様!」
彼の存在に気づいた男はすかさずお辞儀をした。どうやら位が上のようで真澄もお辞儀をしている。
「はい、暁光殿の式が主人と離れているので、迷子になっていたのかと心配しておりました」
あまりにも嘘くさい言い訳に定信は何言っているんだろいう表情になりそうになったが来客であることを弁えてグッと堪えた。
「そうか、では私がこのものたちを案内しよう。構わないだろうか?」
「も、もちろん」
聞いているのに有無を言わせない笑みに男たちは刻々とうなづいた。そして小泉という陰陽師を筆頭に足早に去っていったのだった。
次話は9月2日に投稿いたします。




