第五話:定信、念願の瞬間
「とうとう追い詰めたぞ」
息を切らしながら在昌はその言葉を告げたのは目の前は袋小路で行き止まりとなった首なし妖怪。在昌以外にも他には五人の陰陽師たちもやっとのことで追い詰めた妖怪を息を荒げながら逃がさまいと構えていた。
「観念しな…」
首無し妖怪の背後は背丈以上に高い壁で、少し飛んでも壁にぶつかってしまう恐れがある。首無し妖怪の脚力でも助走をつけずに飛ぶことは難しかった。しかし後方に下がることしかできずにジリジリと距離を詰められていたその時だった。
「こんなに月が綺麗だって言うのに無粋なことをする輩ががいるもんだな」
どこからか声が聞こえてきた陰陽師たちは驚き動揺する。こんな明かりもない夜更けに出歩く酔狂なものはほとんどいないからだ。しかし、一人だけ反応が違った。それは在昌ただ一人だった。在昌はどこからか聞いた声に周囲を見回したその時だった。
「在昌様、あそこに誰かいます!?」
同僚の一人が指を刺した方向を見ると壁の上に誰か立っていた。壁は自分の2倍以上の高さがあるのにその人物は器用に立っていた。陰陽師は邪魔をしてきた人物に声を上げた。
「何者だ!」
「はは、何者と言われても名乗る名前もない」
その人物の顔にはお面がつけられていて、在昌はそのお面を内側を射抜くように見つめた。
「この妖怪の仲間か!?」
「仲間ではないがそいつを退治させられたら困るんでね、お前たちと戦う気はないし、俺に譲ってくれねえか」
いきなり現れてきて何を言い出すかと思えば、退治されたら困る、戦う気はないなどを初対面の者を誰が信じるだろうか、それを聞いた陰陽師は吹き出すように失笑した。
「フハハ、何を言っているんだ、こいつは、在昌様、どうされますか?」
隣にいる同僚に呼びかけるが返事はなかった。無口ではあるが問い掛ければ返事をするはずのにと不思議に思った。
「…様、在昌様!」
仲間の陰陽師が近くで話をしているのに耳を傾けようとしない。在昌はそれどころではなかったからだ。目の前にいる乱入者に心当たりがありすぎていつもの素早い機転などを鈍くさせた。
『なぜ、ここに』
どうしてここにいると異議を唱えようと声を上げようとした時だった。お面を被った男は在昌のわずかな異変に気づき指差してこう呟いた。
「縛」
その瞬間に在昌の口が閉じられてしまった。
「うゔ!!?」
在昌の異変に仲間が一斉に駆けつけて、集まった。そのせいで仲間たちの視線はお面の男から外されてしまった。
「在昌様、どうされました!?」
『お前たち、何をしている、奴から目を逸らすな』
と言いたいが、口を閉ざされているのでわからない。そして在昌は仕方なく指を指してようやくその意図に気づいた。いつの間にかお面を被った男が首なし妖怪を背負っていたのだ。
「さてと、それじゃこいつはもらっていくわ、あ、それは俺たちがいなくなったら外れるから、安心しろ、じゃあな」
それとは在昌の口のことを指しているのが在昌に伝わった。最後にそう言い残し去っていった。そして数秒後、彼がいなくなった後に術が解けた。
「くそっ…あいつ、一体どういうつもりだ!?」
在昌はやりようのない怒りをどこにぶつければいいか分からなかった。お面を被った正体に在昌は気づいていた。しかしそれを言うのを男は気づき在昌の口を封じたのだ。仲間の一人が聞きにくそうに在昌に声をかけた。
「あ、在昌様、あの者は知り合いなのですか?」
「あんな奴、知り合いでもなんでもない!!?」
激昂する在昌に仲間はそれ以上追求するのをやめた。半ば八つ当たりされた陰陽師の肩を仲間の一人が労い話を進めた。
「…では、どうしましょうか、件の妖怪がいなくなったということですが…」
質問に逡巡すると在昌は眉間にシワを寄せながらも苦虫を噛み潰したような表情をしながら嫌そうに応えた。
「あの者は確かに嫌な奴だが人間に害を加えるようなことはしません」
在昌の言葉にやはりお知り合いなのですか?と指摘すれば墓穴を掘りかねないので、淡々と話を切り替えた。
「そうなのですか? わかりました。屋敷の主殿には退治したことにいたしましょう」
仲間の一人が冷静に告げると特に異論を唱えるものはおらず、他のものは撤収するように告げる中で在昌は心の中でこう思っていた。
『帰ってきたら一発殴る』
〇〇
一方在昌たちを翻弄し、見事首なし妖怪を助け出したアキの背筋に悪寒が走った。
「おおっと、寒いな、風邪でも引いたかな」
すると肩に振動がきて何かと思えば、首なし妖怪がアキの背中をさすっていた。それに少し目を見開いて礼を述べた。
「ありがとな、もうすぐ着くからな。お前に会いたいって人がいるんだ、ちょっと会ってくれないか?」
首はないのだが初めて会ったばかりのアキに嫌がることはなく大人しく背負わされていた。口はないので言葉はわからないが、体が拒まないのにアキは肯定したと受け取り夜空を駆け、待ち侘びている定信のもとに向かった。
〇〇
定信は追いかけようとしたが小妖怪に呼び止められた。お寺にいるように言われたのだ。お寺の住職は彼と懇意にしているらしくよく離れを借りているらしい。
もうすぐ夜が明けが来る頃、庭先で物音が聞こえた。緊張と不安で一睡もできなかった定信は耳をすませた。彼の声だと思い庭先に躍り出た。
「戻られましたか?」
定信は開口一番に聞いて彼以外に誰かがいた。彼が背負っていたものを定信は凝視する。
「あ、あのこの人が…?」
人と呼んでいいのか、戸惑いながら喋る定信にアキはうなづいた。
「ああ、そうだ、お前が言っていた首なし男だ」
定信はアキに言われて、目を見開き鳥肌が立つ。お面を外した。話したいことはいっぱいあったはずなのに思った以上に喋ることもできない。
「あなたがあの…伝説の、私…あなたにずっと会いたかったんです、あの握手していただけないでしょうか」
手を差し伸べる定信にアキは首なし男に話しかける。
「手を繋ぎたいって、繋がせてやってくれないか?」
優しく語りかけるアキに定信は胸が熱くなった。それに応えるかのように首なし妖怪は手を差し出してくれた。定信はそれに感激し恐る恐る手を握った。
大きな手だった。けれど温かみのあることに定信はほっとした。そして堪えていた涙がほろほろと溢れてきた。
「よかった、本当によかった…」
涙ながらに言う定信にアキは嬉しそうに目を細めた。すると片方の腕で首なし男は驚きの行動をした。
それは泣いている定信の頭を撫でたのだ。定信は予想外のことに驚き、硬直したがあまりにも優しい撫で方に涙がまた溢れてしまいそれは夜明けまで続いた。
次話は31日に投稿いたします。




