第三話:少年定信、アキさんとの初めての出会い
小妖怪と会話をしていくと、ある小鬼がポツリと話し始めた。
「そういえば、最近出るらしいな」
体は2〜3歳ぐらいの子供の背丈くらいしかないがギザギザの歯に大きなギョロリとした目はやはり妖怪だとわかる。最初に見た時はドキドキして喋りかけることもできなかったが今は気軽に話すことができるまでになった。
「出るって…?」
「首がない男が最近ここら辺を徘徊しているって」
「それは本当か!?」
定信はそれにすぐ飛びついた。あまりの飛びつき様に周囲の小妖怪たちは目をまん丸となりいきなりの挙動に驚いていた。
「お、おう、本当だとも」
「それはどこに?」
長年探し求めていたものが近くにあるということに定信は感情を抑えることができなかった。いきなりの距離をつめてくる定信に小鬼はたじろきながら口を開いた。
「なんだ、あれを探しているのか?」
「そいつを見たのが貴族の屋敷の近くで見たって言うんだけど、次どこに現れるか分からねえぞ?」
「その妖怪を紹介してくれないかな?お礼をするから」
わずかな望みがあるのなら、それを逃したくなかった定信はそれに縋りついた。そんなことを知る由もない小鬼は不思議そうに定信を見ながらあるものを思い出した。
「お礼? それじゃ人間が食べているあれが食べてみたい、甘くてとろっとして、透明なやつ」
それがなんなのか定信はすぐにわかった。偶然にも同じものが好物だったからである。それに力強くうなづいた。
「水飴ですか。用意しましょう」
翌日になり、修行の合間に水飴を買いに行き、その日の修行は力が入り、長兄に褒められ、次兄からは何か良いことがあったのかと指摘されたが笑いながら誤魔化すと、お前も年頃だからな、好きな女子でもできたのかと突かれた。
修行している弟にちょっかいをかける頼定に定継は邪魔をするなと叱りつけると、頼定は慣れたように口を開いた。
「良いじゃないですか、減るもんじゃないし、そうだ、今度、定継兄上は見合いをするんですよね、どういう人か知っているのですか?」
「そ、そんなこと今は関係ないだろ」
「いや、関係大有りですよ、定継兄上の妻になる女性はいずれは父の後を継ぎ、三浦家の主を支える奥方でなければ」
「う、そうだな」
口下手で口数が少ない定継は次兄に口で勝った試しがない。無口で無愛想だが言葉で上手く丸め込まれてしまうのは実直で真面目で素直だからこそ頼定や定信もわかっている。
「それじゃ、定信、話の続きを…」
「ずいぶんと楽しそうなお話をされているのですね」
するりと入ってきたのは女性の声だった。夢中になって話し込んでいた定継と頼定は声の持ち主に心当たりがありすぎて振り返るのが怖かった。
「よし、休憩も終わったことですし、しゅ、修行の再開をしましょう 兄上」
「え、あ、ああ、そうだな」
いつもは流暢に話す弁舌の頼定の口元が引き攣っており、定継の表情は少し青白くなっていた。どうしてそうなっているのか後方にいる女性が原因となっていた。
「それなら私もお付き合いしましょう」
女性は中に入る時に一礼し、壁にかけられている木刀を選んで手に取った。それに頼定は慌てて口を開いた。
「は、母上はゆっくりとされては」
「最近、筋肉が衰えてきてやはり毎日の運動って大切ですね」
三浦山茶花、三浦家に嫁いだとある武家の次女で、剣術の腕前で大の男性を勝ってしまうほどの手腕を持ち、その手腕でまだ三浦家の長子であった三浦有定の心を射止めてしまう。
結婚を申し込んだところ山茶花と試合をすることになり、その時の有定の剣術の腕前に惚れて正室になる。その後4人の男児を産む母親になっても腕前は鈍ることはなかった。
「さてまずはどちらから相手をしてもらいましょうか?」
母が持つ木刀を振り下ろす瞬間に風を切るブンとした音がした。それを見た定継と頼定は大人しく母と共に汗を流すことになったのだった。
定信は一回だけ相手をしてもらって、それ以降は主に集中的に母の相手をされたのは頼定であり、ヘロヘロになるまで勝負をして、「ここまでにいたしましょう」といい颯爽と去っていった。
その後、定継と頼定は話す気力もなくなり今日の修行はお開きとなったのだった。お風呂に入り、夕ご飯を食べて寝る支度をした。それはいつものことなのだが、今日は満月である。
次の満月の時に小妖怪と約束をしていた知り合いに会う約束をしており、表情を抑えられず次兄に怪しまれるほど楽しみだったのだ。小妖怪と待ち合わせしていると後方から声が聞こえた。
「お〜い、サダ」
サダとは自分のあだ名である。名前には自分を縛る言霊になると本に書いてあったので、偽名を名乗っている。
「あ、小鬼」
「おう、きたか、こいつが俺の知り合いの首なし妖怪をみたっていうーーアキだ!!」
小妖怪の溜めた紹介にサダこと定信は目の前にいる現れた人影を見て驚愕した。妖怪の知り合いは妖怪だと思っていたからだ。けれど目の前にいる彼は人型、いや自分と同じ人間だった。
そして自分と同じようにお面をつけていた。自分は顔の全体が見えないが、彼は目元だけが見えない作りをしていて口元だけは見えた。
「アキだ、よろしく頼む」
こちらを興味深そうに見つめる視線と目が合い、定信は瞬間にお面の中が冷や汗まみれである。
「サダと言います、よ、よろしくお願いします」
思わずぺこりと挨拶する定信。アキと名乗る男性から手を差し出されたので無視するわけにはいかない。
「へえ、サダさんは人間のような手をしているんですね」
人型の妖怪、いや人間のアキは定信の手を見てニヤニヤと笑っていた。あまり視線を合わせないように定信は言い募る。
「そ、そうですね、妖怪ですけど、人間に近いのかもし、しれません」
その言葉にアキという男性は口を閉ざし、次に面白そうにニカリと笑い口を開いた。
「そうだな、俺も似たようなものだし…そろそろ時間だし、行ってみるか」
「は、はい お願いします」
少し引っかかる言葉があったが、定信は相手の気を悪くしないように定信はうなづきアキを先導に定信は追って行く。彼らが向かいたどり着いたのはあるお寺だった。
「よし、ここらへんで待ってみるか」
「は、はい あ、小鬼さん、お礼の品をどうぞ」
懐に忍ばせてあった水飴の亀を取り出すと小鬼はそれを見て目を輝かせてバンザイしながら両手を伸ばした。
「こんなにいいのか、ありがとう、サダ!!」
子供のようにはしゃぐ小鬼に定信は嬉しそうに笑った。
「よかったな、小鬼」
アキは小鬼が嬉しそうに笑っているのを見て目を細めた。定信はその表情を見て、アキという人は危険な人ではないと思った。
「ありがとな、サダさんって言ったか…どうして首なし男を探しているのか聞いてもいいか」
アキを紹介した小鬼は風のようにどこかへと消えていった。ここにいるのは自分と彼しかいない。定信は先祖のことを初対面の赤の他人に話してもいいのかと躊躇した。けれどこんな遭遇二度とないかもしれないと葛藤する。
「それは…っ」
話しかけようとしたその時である。先ほどの小鬼が亀を持ち上げながら慌てて戻ってきた。
「アキ、大変だ!!? 首なし妖怪を見つけたんだが人間から追われているぞ!!」
「!」
いきなりの展開に定信は目を白黒とさせた。一体どういうことだと小鬼に聞こうとした。
「え、どういう」
「どっちの方角だ!?」
小鬼が指を刺そうとした瞬間にアキは駆け出していた。あまりの速さに呆然となったが、首なし妖怪のことを思い出して、次々と疑問を浮かび上がる中で彼の後ろを必死に追っていった。
『人間に追いかけられている、どういうことだ…??』
タイトルが長かったので少し修正しました(・_・;
次話は27日に投稿いたします。




