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第一話:ダンとアズサ、友の訃報を知る


 それから蘆屋は狂ったように研究に没頭した。そしてその後しばらくして、突然姿を消し彼を見たものは誰もいなかった。


 蘆屋家のことは風の噂で聞いていたが、渡辺は彼に対してなんの義理もないので心配することはなかったが、蘆屋道満が彼に対する執着ぶりに共感を覚えたことになんとも言い難い気持ちになる。


 あの変人と同族と思われるのは心外なので口外したことはないが…。それから渡辺は翌日にある家に向かっていた。


 彼を殺す前に託されたものだった。それをある家に渡して欲しいとのことで渡辺は了承した。


 いつものような服装ではなく、平民の格好をして出向いたのは目立たないようにするためのものとこれから赴くところへの配慮だった。辿り着くとそこには源家とは比較にはならないが、中々に立派な門構えがあった。


「ごめんください」


 大きな声をあげると使用人のような女性が小走りで出てきた。中肉中背で頭には布巾をかぶっている。


「はい、どなたでしょうか?」


「私は渡辺と申します、ここにダン殿という方はいらっしゃいますか?」


「はい、ダン様はここの家主でありますが、どのようなご用件でしょうか?」


「ご主人の…ご友人から手紙を預かっておりましてこれをお渡し願いたいと」


「かしこまりました。届けてくださりありがとうございます。確認して参りますのでこちらでお待ちいただけないでしょうか?」


 場所によっては簡単に家に入れる無用心なところもあるが、部外者のものを簡単に家の中に入れない、使用人の教育が行き届いているのだと感じた。


「はい、お構いなく」


〇〇


「ダン様 少しよろしいでしょうか」


 使用人のイネから声をかけられ返事をした。ダンはその時、縁側で奥方のカヤと一緒にお茶をしていた。


「おお、どうした?」


「あら、どうしたの?」


「はい、先ほど男性の方がお見えになりまして、この手紙を預かったのですが」


 イネは手紙をダンに差し出した。


「手紙?」


 ダンは早速手紙の中を開けるとそれを見た瞬間に腰を上げてイネに声を上げた。主人の突然の挙動にイネは驚く。


「イネ! これを届けた御仁は帰らせていないか!?」


「は、はい 玄関にいらっしゃいますっ」


「わかった!」


 それがわかる瞬間に玄関の方に向かうとアズサとイネは呆気に取られて見ていた。一体何を見たのだろうと落ちていた手紙を拾った。


 あまり人にあてた手紙を見ていないから、こっそりとアズサは目を細めた瞬間に何かに気づいた。


「これは…!?」


「奥様!?」


 イネは奥方の異変に気づいてふらつく彼女を支えた。アズサの急変にイネは動揺して声を上げた。


「どうかされましたか!? 誰か、誰か近くにいませんかっ?」


 すると近くで作業していたイネの夫であるキリオが嫁の切迫する声を耳にして慌てて駆けつけた。


「どうした、イネ!?」


「奥様が倒れてしまって!!?」


「こりゃ、大変だ、すぐにお医者様に」


 キリオが立ちあがろうとすると、ぐいっと引かれて振り向くと袖をアズサが引っ張っていた。


「大丈夫よ…これはお医者さまでは治せないから」


 そう言ってアズサの瞳から大粒の涙が悲しげに溢れた。涙を流しながら初恋の人に思いを馳せると涙が止まらなかった。



『いばらくん…あなたはもうこの世にはいないのね…』



〇〇


 廊下の奥からバタバタと聞こえてきた。誰かが猛然と走ってくるのが見えた。走ってきたのは一人の年配の男性だった。


「あなたがあの手紙を!?」


「はい」


「あいつはどこにいる!? あんな手紙を書くなんて、何かあったんだろう!?」


「死にました…いえ、私が止めをさしたんです」


 渡辺の言葉にダンは呆然として、半笑いで一蹴した。ダンは口走りながら渡辺の言葉を完全に否定する。


「死んだ…はは、何を言ってあいつはそんな簡単にくたばるやつじゃない!?あいつは村で一番力が強くて、足が早くて誰もよりも優しくて…っ あいつが死ぬはずがないだろうっ」


〇〇


 大声を聞いた奥にいたものたちがゾロゾロと出てきた。ダンが人の胸ぐらを掴んでいるのが見えて娘の夫である義理の息子のヤヒコは仰天する。


「お義父さん、何をしているんですか!?」


 ヤヒコはダンを男性から急いで引き離そうとするが、思った以上に力強く引き剥がすことができない。


 もう還暦を超えているのにどこにそんな力があるのかと四苦八苦する。無理やり剥がそうとした反動で高齢のダンを転倒させるわけにはいかないと試行錯誤している中、胸ぐらを掴まれて彼は口を開いた。


「私が、私が殺しました 彼を」


「!!?」


 ダンは口を開けようとしたが、渡辺の目を見て、その瞬間に胸ぐらから手を引いてゆっくりと口を開いた。


「そうか、あいつは…最期は、いや」


 ダンは友人の最期を聞こうとしたが、詮無いことなど、首を振り、離そうとするが渡辺は力強く握った。それにダンは少し驚いていると渡辺が口を開いた。


「彼は最期は笑っていました…そしてあなたのことを、自分が来るのを待っていると思うから、自分が亡くなったことを伝えてほしいと…」


 渡辺からの話を聞いたダンはゆっくりと口を開いた。


「そうか、そうか…もう待たなくていいのか…もう…待つことができないのかっ…」


 ダンは崩れ落ちながら涙をこぼしながら時折嗚咽を漏らしながら呟いた。ヤヒコは泣き崩れるダンにオロオロとしながら、渡辺はただ立ち尽くす彼に何もいうことができなかった。ただどこか遠くを見据える姿にヤヒコは声をかけることも憚られた。

お待たせいたしましたm(_ _)m

次話は23日に投稿いたします。

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