第三十三話:真相
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しばらく経ち頼光は捉えた鬼がどうしているのか気になり、というとは建前であまりにも暇なので見にいくことになった。それと共に向かったのは渡辺だった。
蘆屋家は屋敷は豪華な造りとは言えないが貴族の依頼も受けているので蓄えもある。数名の使用人もいた。
「道満様、源頼光様と渡辺綱様がお見えになりました」
使用人の声に道満は応じる。
「ああ、どうぞお入りください」
使用人は御簾を開けると頼光と渡辺は入って行った。
「こんばんわ、将軍殿、渡辺殿」
「やあ、道満どのってもう飲んでいるんだね」
御簾を開けた瞬間に部屋中に酒の匂いが充満していた。ぶわりと濃厚な香りに鼻が刺激され渡辺は眉間に皺を寄せた。
「ああ、酒でも飲んでいないとやってられなくてね、私が『椿の君』と何度呼んでも答えてくれなくて…」
『椿の君』
蘆屋道満が鬼をとらえたらしい。
その鬼を檻に閉じ込めて名前をつけているそうだ。
鬼の赤い瞳から因んで椿の君と。
「巷では君が妖に魅入られたのではないかと噂になっている」
「そんなことどうだっていいよっ」
投げやりにお猪口に入れた酒を入れてかっくらう。蘆屋がため息をつく姿に頼光と渡辺は意外そうな表情をした。
「へえ〜、そんなに困らせているんなら、そんなの拷問するなり言うことを聞くように調教すればいいでしょ」
腰に手を当てた頼光の言葉に蘆屋は目を見開き声を荒げた。
「そんな乱暴なことできるわけないだろ!!あんな素材でしかも生きているんだ、今度いつ巡り会うかわからないだろう!?」
蘆屋の研究者としてのポリシーを傷つけたのか、頼光はなんだか面倒くさくなりそれ以上何も言わなかった。
「それもそうだね、僕たちがきたのは彼がどうなっているのか知りたくてね」
「行っても無駄だと思うけど…そんなに見に行きたいのなら案内しよう」
悄然とする芦屋は重い腰を上げて、鬼は離れになる檻の中に捉えられているとのことだった。
扉を開け、中に入ると大きな檻が配置されていた。暗くなりすぎないようにろうそくの明かりが灯されている。その淡い光が人影を照らしている。しかしその人影は微動だにすることはなかった。
頼光はしゃがみこみ、檻の中を覗き込むと彼がいた。
「ふ〜ん、確かにいるね、あの時はあの鬼と戦うの必死だったからね」
頼光の声に反応したのか、ぴくりと動いた気がした。しかしその一瞬だけで、頼光が何を話そうと同じ反応だった。
「もう、あれ死んでいるんじゃない、あんなのとまた戦って勝っても嬉しくないよ」
頼光はため息をつきながら残念そうに述べた。別れ際に渡辺は蘆屋にたまに見にきてもいいかというと投げやりな態度にいつでもきても構わないと言われて許可をもらった。それをそばで聞いていた頼光は二人になった時に話しかけた。
「随分とご執心だね、渡辺、あの鬼に対して」
その指摘に渡辺は少し驚いたように目を見開いた。
「そうでしょうか…確かにあんなに強い鬼が今までいなかったので」
「まあ、それも一理あるね」
頼光はそれ以上追求することなく話を終えた。数日後、昼頃渡辺はいばらに会いに行った。芦屋には来ることは伝えているので使用人は渡辺に向かい丁寧に出迎えた。
昼過ぎなので部屋の中は明るく、彼がどこにいるかもわかった。この前と同じような格好で壁にもたれかかっており、視線もどこか無気力で生気がなかった。渡辺は息を整えて檻の中にいるいばらにあることを伝えるために口を開いた。
「お前の主人、酒呑童子は生きている…」
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いばらは今日も朝から男に話仕掛けられたが反応はしなかった。男は嬉しそうに手を振って戻っていく。
そんな日常を過ごしていくのだろうと思っていた。昼頃に違う男が現れた。その男は自分の片腕を切った男だ。その男は今、何を言った。
「お前の主人、酒呑童子は生きている」
久しぶりに耳の中に言葉が入り、いばらは目線を上げた。
「…生きている? 童子様が…?」
その時にいばらと渡辺は目が合わせた。まだ生気はないが目に力が入ったことはわかった。驚きと戸惑いに満ちた瞳で困惑している。
「どういうことだ、だってあの男は全滅したって…」
いばらは記憶を思い出しながら呟いた。
「そうだ、そのように思わせるのがある人と私の計画だった」
「計画…?」
渡辺はある人…安倍晴明と会った時のことを思い出す。討伐の任が下される前に渡辺は安倍晴明と密談を交わしていた。
「占いではどちらかが死ぬ運命となっている、しかしそれを変えることができる人物が一人だけいてな…」
「それが私ですか」
渡辺は晴明からの言葉に驚いた。まさか敵だった相手を救う羽目になるとも思わなかったからである。
「でも、私は妖怪を退治する側です」
「なら、ここに来る必要はなかった、けど現にここにきてしまった、何かあなたにとって突き動かすものがあったのではないですか?」
「突き動かすもの…」
渡辺はいばらのことを思い出す。それに晴明は目を細めて笑った。
「まずやることは彼の擬態を作ることですね」
「擬態?」
「偽の肉体です、妖怪を退治する時にあなた方は首をはねますよね」
晴明は手を首に当てる説明に渡辺がうなづいた。
「ええ、あらゆる生き物の急所ですから」
「首を切られる前提で考えていきましょう」
「ですが首を切られたら…」
「それが普通の生き物であればの話です」
にわかに信じがたい話しだが、酒呑童子とあいま見える可能性が高いのは自分か頼光様だろうと予測する。そうなると一番強いものと戦うのは頼光様になり、首を切るのは彼だろうと。
そして酒呑童子は私と晴明様が思い描いていた通りに首を刎ねられてしまいました。その後頼光様は力を使い果たしたのか倒れましたが。その後私は、晴明様から頂いた擬態を術で発動して、本物の体を隠しました。そして屋敷の中にいた碓井、卜部、坂田、藤原、大江山に潜入し、蘆屋の式神である犬鬼灯がきた時に、
「渡辺、何を焼いているのですか?」
パチパチとした火花が燃え上がる、その中に人影があったことに坂田がは気になり不思議そうに伺ってきたのでそれに渡辺は答えた。
「ああ、後始末ですよ、そのままにしていると復活する恐れがあるので、頼光様が倒れているので私が…」
「何、頼光様が!?」
「お怪我を!?」
「早くいえ渡辺!!」
そう言うや否や、崇拝している主人が倒れていることことを聞いた四天王は慌てて主人の元に向かっていった。犬鬼灯は我が目を疑いながらこちらを見ていた。
「本当に酒呑童子は死んだのですか…?」
「ええ、確認されますか、首もありますし…」
「…いえ、十分ですよ、我が主人が求めていた鬼は…」
「ええ、捉えました、一度、京の都に帰り次第連れていきますので」
「そうですか、我が主人は大層お喜びになるでしょう、それでは…」
犬鬼灯はその言葉を最後に風のように去っていった。何も怪しむことはなく酒呑童子の「カラダ」は焼かれ、首は厳重に封印され、討伐は終わりを迎えた。
「それが本当の真相です」
渡辺が話し終わり、いばらの方に視線を向けると驚いた。いばらの瞳から大粒の涙が溢れていたからだ。
次回は8日に投稿いたします。




