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第三十二話:椿の君

〇〇


「お〜い」


 誰か呼ぶ声が聞こえる。そして米の炊かれるいい匂いにmいばらはふと目を開けるとそれは小さい頃に暮らしていた見慣れた家の天井だった。自分の手のひらを見ると紅葉のような手があった。


「いばら、いばら 起きなさい」


 横を見ると、竈門の前で料理をしている母のヤエがいた。いばらの顔を見て不思議そうに見ながら口を開いた。


「ふふ、早く起きてご飯を食べなさい。ダンくんと遊ぶ約束をしているんじゃないの?」


 母の指摘にいばらは意識をはっきりとなり、約束していたことを思い出して急いで立ち上がった。


「あ、そうだった、今日森に探検に行くんだった」


 ヤエは笹の葉に包んだ握り飯をいばらに差し出すと、お礼を述べた。


「お母さん、ありがとう 行ってきます」


「ええ、気をつけるのよ」


 外に出ると家の外でダンが待ち構えていた。目と目があいいばらは手を合わして待たせたことを詫びた。


「ごめん、お待たせ」


「おう、いくぞ」


「うん」


 出かけようとすると、父のイサクは仕事をしていて、いばらは声をかけるとイサクは手を振った。


「気をつけて行ってこいよ」


「は〜い! 行ってきます 父さん」


 いばらとダンは川釣りに向かった。手頃な岩に座り腰をかけた。川のせせらぎ、風のさやけさが耳に心地よい。


 ずっと、ずっとこんな日々が続くと思っていた。


 けれどそれはあっけなく終わってしまった。


 いばらとダンは魚を捌こうとした瞬間に血が飛び散った。血飛沫がいばらとダンの顔にかかった。


「うわ、ごめん いばら」


 いばらは驚いて目を瞑っていたので目に入らずに済んだ。大丈夫だということをダンの顔を見た。


「うん、大丈夫…」


 ダンが驚いた表情でこちらを見ていた。いばらはその表情にどうしたのだと聞こうとする前にダンが口を開いた。


「なんだよ、その目の色は」


「え、目の色って」


 何を言っているのといばらは、水面に映る自分を確認した。水面には目の赤い自分が映っていた。


「何、これ、目が赤い、どうして、なんで」


「お前、人間じゃなかったのか」


「ダン、僕は…っ」


 怪訝な目で見られるダンにいばらは何とか弁明しようと近づこうとした時にダンは堰を切ったように声を上げた。


「来るな、化け物!?」


 ダンが叫んだ拒絶にいばらの足は鉛でできたかのように重くなっていく。そうだ、私は人間ではない。自分の体が子供から大人になっていく。そしていばらは目を覚ました。


〇〇


 目を開けるとそこはいばらがかつて住んでいた家の中ではなかった。


『そうだ、あの家はもうないんだった…』


 いばらは昔のことを思い出した。懐かしい夢を見た気がした。あれからダンとはもう会っていない…元気だろうか。また一緒に酒が飲みたかったな…。


「ああ、起きたようだね」


 急に知らない男の声にいばらは驚くが、声のした方へと目を向けようとすが急激に痛みが襲ってきて動かすことができなかった。


「…誰だ」


「ああ、無理に動かない方がいいよ。君を捉えた時は満身創痍の状態だったから頼光たちには腹が立ったけど、生きていて本当に良かったよ」


「何を言って…」


 その時にジャラリとした音を耳にした。そして自分を見下ろすと首、手首、足首に鉄でできた枷がはめられていた。


「これはなんだ」


「ああ、それはせっかく捕まえたのに逃げられないためにね」


 男は手を合わせがら、なんでもないように話す様子に理解できなかった。いばらはどうしてこんなところにいるんだと、そして何があったのかを思い出した。


『捕まえた…何を言っているんだ。この男は…どうしてこんなところに』


 山伏に扮した男たちが大江山にきたこと、その男たちは山伏でもなく自分たちを退治するためにきたものだったということを。


『そして奴らに負けてしまった』


 そして囚われているという事実に他のものがどうなったのか、いばらは黙っていることができなかった。


「私以外にも妖怪がいたはずだ」


 嫌な予感がした。ドクドクと心臓の音がやけにうるさく感じた。男はまた手を合わせて答えた。


「ああ、いたようだけど君以外は全滅したよ」


 なんでもないことのように言う男は平然と言い放った。


『全滅』


 言葉の通り、それはいばら以外は生き残らなかったということだ。それから男は何かを言っていてが何も頭に入ってこなかった。


『全滅…』


 仲間の名前と顔が浮かんでいく。


 金童子と鬼丸。


 …童子様。


『みんな死んでしまった…私はまた一人になってしまった…』



「そんなことより私は君と話がしたいんだよ」


 男は何度か話しかけても話す気力がなかった。いばらが何も反応してこなくなったのがつまらなくなったのかしばらくして部屋を出て行った。いばらは虚空を眺めながら思った。


『どうして私は生きているんだ…』


 そう思いながら、ただ無気力に檻の中で過ごす日々を送った。そして男は檻の中に閉じ込めた鬼をいつしか赤い瞳から『椿の君』とそう呼ぶようになった。

見直していたらまた一話多くなりました(・_・;

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