第二十九話:神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)
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離れたのが分かり周囲を確認して結界を張り、頼光たちは円の形になって話をした。隣にいる渡辺に頼光は話しかけた。
「渡辺、あの鬼は…」
好奇心を隠せない頼光は渡辺の表情を見た瞬間に表情が物語っていた、それが答えだった。頼光は何も言わなかった。渡辺は何か聞かれる思っていたが話すのをやめたことにひっそりと安堵した。その後に口を開いたのは卜部だった。
「あの鬼、案内をした鬼もかなり強い、私たちが奇襲したとして倒せるかどうか…」
それを聞いた碓井は渋面を作る。
「難しいでしょう、後ろを見せて歩くなどよほど自分の力に自信があるのでしょうし、隙がありません」
「私も同感です」
同意するように卜部はうなづくと、二人のあまりに弱気な態度に坂田は立ち上がり憤慨する。
「そんな弱気でどうする!? 我ら四天王がっ」
いくら結界を張っていたとしても外に聞こえる恐れがあるので渡辺はヒヤリとして興奮している坂田を落ち着かせた。
「まあ、そのためにこれを使う時が来たようだね、鬼を殺す毒「神便鬼毒」だ。これを酒に混ぜる」
見計らうかのように頼光は懐から取り出したのは白い粉だった。討伐前に芦屋道満は頼光の屋敷に赴き、祈祷と帰り際にある手包みを残していた。
『人間には効かないが、妖怪には効くようになっている』
一体それをどうやって立証したのか、渡辺は気になったが知りたくなかった。それを見た藤原保昌は目を見開き異議を唱えた。
「ちょっと待ってくれ、まだ噂が本当かわからないじゃないか!?」
「保昌殿、我々と彼らではそもそも身体能力の高さが違う、何か策を講じなければ戦うことすらできないだろう…それともあなたは帝の勅命に逆らうのですか?」
「それは…っ」
そうなれば関白である藤原道長に仕える武人であってもタダではすまないだろう、一族の命運が自分の言葉一つで潰されることになりかねないのだ。それでも言い難い違和感に口に出さずにはいられなかった。その時だった、扉をトントンと叩く音が聞こえた。
「どうされたのですか?」
それは子供の声だった。保昌はどうしてこんなところに俄然ない子供がいるのだと不思議に思った。
「君は?」
「私はこの大江山の縄張りに連れこられた一人です。実はあなた様に見て欲しいものがあるのです」
保昌は子供に連れられたのは離れの裏にある山道だった。少し歩いていくと岩壁があり、その壁に人が入れるほどの穴があった。一人では危険なので渡辺と保昌を連れて向かった。
洞窟の中にはどこまでも暗く湿っぽかった。その中を子供は灯りをつけた燭台を持ちながら歩いていく。その明かりを頼りに歩いていくと開けた空間が見えた。
月明かりが見えて保昌はホッとしながら徐々に近づいていくと開けた空間に何かの物体があった。何があるのだと目を細めるとそれが何なのかわかり硬直した。
「何なんだ、これは…」
そこには多くの亡骸が山となって積み重なっていた。
「これが噂の真実でございます、あの者たちは人間を攫い食い物にしてきたのです、そして俺のおっかあとおっとうも…」
「なんて、酷いことを…」
「次は私が食べられる番です。だからあなた達だけでも逃げて…」
自分の心配よりも他心を心配する健気な言葉に胸を打たれた保昌は先ほどは恐怖で慄いていたが、それを振り払うかのように首を振り自分を奮い立たせた。
「何を言っているんだ、私たちがあの悪い奴らを退治する! だからもう君は」
「私は、僕は食べられないんですか…」
子供はくしゃりと顔を歪め、瞳から大粒の涙が溢れた。
「ああ、君は死ぬことはないんだ、私は間違っていた…妖怪は悪でしかないと」
保昌は子供を元気づけるように抱擁した、その時にある変化に渡辺は気がついた。保昌の瞳は真っ直ぐで輝いていたのが印象的だった、その瞳が赤く濁っていたのだ。
そして子供の瞳も同じように禍々しい赤色を放っていた。あの鬼とは同じ赤色のはずなのに嫌に濁っていた。
これは幻術か…。積み重なった人間の山の正体を看破したところで、この子供を倒したところで、未来は変えられない。渡辺はこれからこの山で起きるであろう惨劇をただ静かに終わってほしいと心から願った。
そしてその日の夜、宴の席を催された。広間には今までどこにいたのか、妖怪がわんさかおり、頼光たちはそれを見て驚いた。
「これはすごい数ですね」
それに応えたのは宴の席を案内した副将の金童子であった。
「皆様のような方は久しぶりだったので、はしゃいでいるのですよ。どうぞおくつろぎください」
「それではお言葉に甘えて」
頼光たちは姿勢を崩しながらも警戒心を解かなかった。するとドタバタと周りの妖怪たちが騒がしくなった。
「童子様が来られる」
「茨木様も来るらしい」
訝しむように周りを伺ってると、金童子から入らないように注意された奥の大きな扉が重々しく開かれた。
「おお、集まっているな」
扉から出てきたのは昨日の鬼と、もう一人の鬼に頼光たちは驚愕した。
『赤い髪、青い瞳』
そして近くにいるだけでもわかる圧倒的な存在感に、碓井、卜部、坂田、渡辺は呑まれそうになる。渡辺は一目見てあれには勝てないと思った。
今すぐに逃げなければと思い萎縮していると、頼光が目に入った。笑っていた頼光はまるでお気に入りのおもちゃを見つけたように俄然ない子供のように喜んでいた。
その表情を見て渡辺は少し落ち着いた。そして頼光が渡辺を見てギラギラと目を輝かせた。盗み聞きされる恐れがあるので話すことができないが、だけど何を言っているのかわかった。
『あいつと戦いたい』
頼光は幼い頃から筋金入りの戦闘狂であった。強いものを挑んでは相手を完膚なきまでに叩きのめす。今日この宴の席が、儚いものになると渡辺は目を伏せた。
〇〇
「お前らがこの山に修行に来た山伏か」
酒呑童子はじっと頼光たちを見つめた。それに碓井と卜部と坂田は緊張する。それにいばらは童子に指摘した。
「童子様、あまりじっと見たら緊張しますよ」
「それもそうだな」
「ああ、そうでした」
声を上げたのは一番肝が座っている頼光だった。それに皆が注目する。かごから取り出されたのは瓢箪だった。
「麓の里のものから酒をいただいたのを忘れていました。これは申し訳ありません。どなたか盃を持っていただけないでしょうか?」
「分かりました」
金童子はすぐに盃を用意した。そして瓢箪から酒を注いでいった。彼は瓢箪から薫る酒の匂いに笑みをこぼした。
「これは、里の長のお酒ですね。それではいただきましょう。酒呑童子、いばら」
酒呑童子、いばら、金童子は頼光と同じタイミングで盃を飲み干した。
「これは美味い」
芳醇な香りに童子たちは舌鼓をうつ。頼光たちはそれを美味そうに飲み干した。そして縁もたけなわになった頃、広間では妖怪たちが酔っ払って寝ていた。
そして酒呑童子といばら、金童子はそれぞれの部屋に帰っていった。頼光たちを案内された部屋に戻っていき夜が過ぎていく。
次話は30日…に投稿できたら投稿致します。
次話は新しく書き加えたいところができてしまいまして、少し投稿が遅れるかもしれません。




