第二十四話:片腕の行方
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私の名前は鬼丸。小妖怪としてこの世に生まれ、弱肉強食の中を生きていた。しかし強者にあっけなく喰われそうになった時に助けてくれたのが大江山の酒呑童子だった。
命の恩人である彼のために何かできないかと、直談判したところ俺の仲間にならないかと言われ喜んで仲間になった。
それから数十年の時が経ち、新たな仲間が入った。黒髪に赤い瞳を持った鬼の男だった。彼は酒呑童子の眷属になり、話すのは苦手だが、人柄もよくみんなから好かれており自分も彼のことが好きになった。
二人はいつでも仲良しで一緒にいれば誰よりも強かった。けれどある日を境に二人は離れてしまった。にわかには信じがたかったが酒呑童子が茨木童子の手を突っぱねたという話を聞いてただの間違いであって欲しかった。
それから二人は一緒にいることが少なくなってしまった。茨木童子はいつも夜どこかへと消えていく。鬼丸はどこへ行くのかと気になり後をついて行った。
途中で見失い、そろそろと帰ろうとした時に彼の茨木童子の今まで聞いたことのない絶叫が聞こえた。急いで向かった先、見たのはあの人の腕が片方なくなっていた。
茨木童子が負けたのか、あの刀を持った人間に。止めを刺そうとしたその時に、近くにいた別の人間が叫んだ。
「ぎゃあああ」
男の叫び声に刀を持った男は注意を取られ、あの人から視線を外した。その隙を狙い、あの人は逃げ出した。どこへ向かったのかを確認して、慌てて大江山の棲家に戻った鬼丸は童子の元に向かった。
「伝えなきゃ、あの人が茨木様が危ないと、童子様に!?」
大江山に帰ると知り合いの小妖怪の仲間がいて、鬼丸に気づいて手を振ったがそんな余裕はなかった。
「おお、帰ってきたか、鬼丸」
「すまない、また後でっ!」
「ええ!?」
後で謝ろうと思いながら一目散に奥の部屋に向かい声を上げた。大きな扉に自分の小さな拳を叩きつけたが如何せん自分では大した音は出せなかった。だが必死で声を上げて騒いでいると後ろから声をかけられた。
「童子様!…童子様!!」
「こんな夜更けにどうされたのです、童子様は寝ていますよ」
「あ、犬神様」
最近側近の候補の一人として名が上がっていた彼に気づき、これで一安心だと鬼丸はホッとした。
「童子様にどうしてもお伝えしたいことがあるんです!」
「童子様にですか、わかりました。私がお伝えしましょう」
鬼丸は周囲を確認して、それに犬神は訝しんだ。誰かに聞かれるとまずい話なのかと逡巡するがその後の話を聞いて納得した。耳打ちされた話はいばらが腕を斬られたことで、信じられない話に犬神は驚いたように目を見開く。
「それは本当ですか…」
「はいっ、だから童子様に一刻も早く…っ」
犬神は焦る鬼丸に肩を掴んで止めた。
「わかりました、私からお伝えしておきます。あなたはゆっくり休んでいてください」
「…はい」
自分ができることはここまでなのかと鬼丸は落ち込んでいると、声をかけられた。鬼丸はその声が誰なのかすぐにわかり振り返った。
「そこで何をしているんですか?」
「金童子様!」
「何があったんですか?」
駆け寄ってくる鬼丸を金童子は優しく受け止めた。犬神に任せたばかりだが自分の言葉で言わないと口を開いた。
「実は茨木様が大変なんです。人間に腕を斬られてしまって血がいっぱい出て、そのままどこかにいなくなってしまって」
その時閉じていた重厚な扉がようやく開いた。
「今、なんと言った…?」
扉が開くと同時に背筋がゾッとするような声音が空間を支配する。それは長年連れ添った副将の金童子も汗を浮かべ、声をかけることも躊躇うほどである。
「ど、童子様」
「答えろ、あいつはどうしたと…」
悍ましいほどの殺気に鬼丸は震え上がり気を失いようになった。それに金童子はこのままではいけないと彼に声をあげた。
「今、すべきことはいばらを助けに行くことでしょうが!?」
金童子の一喝に童子の殺気が霧散していく。
「…そうだな、悪い驚かせてしまって」
童子が正気に戻ったことに鬼丸は副将の裾をぎゅっと握り刻々とうなづいた。その様子に犬神は童子の殺気に怯えながらもいばらに対し怒りの感情を向けていた。
『ほら見たことか、人間と仲良くなるからこうなるんだ』
〇〇
一方、片腕を持って帰った渡辺綱は屋敷に帰ることにした。頼光の元に向かうと御簾の外に四天王の一人、坂田金時が警護していた。
「坂田殿、ただいま戻りました」
「おお、ご苦労であった。渡辺殿」
御簾の中から誰かの話し声が聞こえた。頼光は貴族としては普通だが、戦いの場になると好戦的になり性格が変わる。容姿もいいことから貴族の姫からは大層人気があった。夜も遅いので、渡辺は坂田に聞いた。
「こんな夜更けに来客ですか?」
「おお、蘆屋殿がきている」
「蘆屋って…」
名前を聞いた瞬間に嫌な予感がしてすぐに下がろうと思ったが、それと同時に降ろしていた御簾が引き上げられていく。
「話し声がすると思ったら渡辺か、おかえり」
下がるのが一歩遅かったと後悔しながら主君に挨拶を述べた。そこには寝巻き姿の頼光がいた。そして奥の方にもう一人いた。
「こんばんわ、渡辺殿」
性別は男ではあるが女性のように話す声と目つきが渡辺は苦手だった。しかし主君の前で無礼な態度をとるわけにはいかないと渡辺は膝を折った。
「来客は蘆屋殿でしたか、こんばんわ」
一礼すると、蘆屋と呼ばれた男と目があった。
「ふふ、相変わらずいい男ですね、渡辺殿は最近会えなくて寂しかったのですよ」
上から下へと舐めるような視線に渡辺は背筋がぞくりとした。 口元を引き攣りそうになりながら心にもないことを述べた。
「そうだったのですか、それは申し訳ありません(棒読み)」
「ふふ、毎晩来ちゃおうかしら。私に酒を注いでくれるかしら」
「蘆屋殿、それは困る」
彼を止めたのは主君の頼光だった。その瞬間に渡辺は頼光を神のように思えたが、しかしそれはほんの一瞬だった。
「渡辺は僕の下僕なんだから」
はっきりとした物言いだが、渡辺に対しての思いやりはかけらもなかった。渡辺はため息をつきながらグッと堪えた。
『ええ、わかってましたけども…』
「それよりさ、渡辺、なんか面白いものを持ってきているじゃん、それ何?」
頼光は目の前で憂いている従者よりも、従者が持っている箱へと興味が移っていた。
「はい、そのことで頼光様にご報告がありまして…」
ちらっと渡辺は蘆屋の方に視線を移した。それに頼光は何を言いたいのかすぐにわかった。
「彼は大丈夫、来客だが協力者でもある。話していいよ」
「はい、頼光様、先ほどある鬼と遭遇したのですが、その鬼から切り落としたものです」
渡辺は箱の蓋を開けた。するとブワリと凄まじい妖気を纏っていた。それに頼光と蘆屋は目を見開く。
「ねえ、その鬼ってもう死んだの?」
爛々と目を輝かせる表情に自分も戦いたいと言っていることが伝わってきて、渡辺は淡々と報告をした。
「いえ、取り逃がしました、かなり強い鬼でしたので」
「そう、次は僕が行くからね。渡辺」
有無も言わせない空気に渡辺はうなづくしかなかった。そんな空気に何も感じていないのか常人ではないものが一人いた。蘆屋道満は口元に笑みを浮かべて奇天烈な言葉を放った。
「これ少しお借りして、いえ、いただくことはできないでしょうか?」
次話は二十日に投稿いたします。




