第二十話:狒々の最期と源頼光と渡辺綱
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いばらが撃退した狒々はまだ生きていた。しかしかなりの重傷を負っており、満足に動くことができない状態であった。
『あの鬼、絶対に許さない…人間の味方なんかしやがって』
地面を這いずりながら恨み言を呟くと、遠くから足音が聞こえた。その音にいつもだったら気づいていたはずのなのに、激痛で周りの注意が散漫になっていて気づくのが遅れたことに歯噛みする。
『もう子供じゃなくてもいい…っ あいつに仕返しするためにまずは力を蓄えねば…』
狒々はダメージを受けた自身を奮起させ、足音がこちらにくるまで獲物をじっと狙い待っていると足音が近づいてきた。
「あれ、ここにいると思ったんだけど、おかしいな…もしかして迷った渡辺?」
「いえ、迷っていません、頼光様、血の痕があるので近いでしょう」
一人は若い男の声である、その後の男の声も若いが低い声音だった。二人の声に狒々はニタリと笑った。複数もいるということを僥倖と二人の前に躍り出た。
「頼光様!」
「うん? なんの妖怪と思えば狒々か、弱いのに興味がないんだよね」
頼光と呼ばれた男は狩衣姿に刀を携えていた。そして渡辺と呼ばれている男も刀を差しており柄の部分を握っており、いつでも斬れるような態勢である。
狒々は頼光という男の態度に妖としてのプライドを潰された。人間は自分を前にすると恐怖と絶望で震え上がるのに、この二人は恐がるどころかそんな素振りも見せなかった。そればかりか一人はもうすでに関心がないのかそっぽを向いていた。
『くそっ』
狒々は油断している男に襲い掛かろうとするがそうはいかなかった。あくびをしている男の前に渡辺という男が前へと出てきた。
「させませんっ」
前へと躍り出た男の刀をへし折ってやろうと思った、しかし刀は折れることはできずに刀身は狒々の身体を容易く切り裂いた。
「なんだ、その刀は…」
切られたところから血の量がおびただしく吹き出した、狒々はその刀を見て不思議な力が宿っていることを悟った。
「この刀は髭切、源家に伝わる由緒ある宝刀です」
『髭切…源家だと…!?』
「妖怪でも少しは知能があるようですね…」
人の言葉を話す狒々に渡辺という大男がジリっと刀を構えた。その気迫に狒々は怖気ついて悔しそうに口を歪めて歯軋りをする。
『くそっ。あいつが邪魔をしなければ…っ』
「あいつ…??」
渡辺の後ろにいた頼光は退屈そうに傍観していたが狒々の一言が気になり初めて興味を示した。
「そういえば、気になっていたんだよね、その傷、誰から受けたものなのかなって?」
頼光が指を差した狒々の胸には脇腹に大きな傷があり内臓が飛び出し、骨が見えていた。人間ではとてもできない芸当である。それに攻撃を受けたのを悔しいが隠すこともなかった。というよりも隠す余裕がなかった。
『そうだ、あいつは鬼のくせに、人間の子供を助けて、俺の邪魔をした…っ』
「へぇ、鬼が人間の子供をね…」
狒々の恨み言よりも子供を助けた鬼に俄然興味を抱く頼光に近くに控えていた渡辺は嫌な予感がして眉間に皺を寄せた。
「そいつに会ってみたいな、渡辺、強いのかな? そいつはどんなやつだ?」
狒々は頼光に尋ねられたことに、この状況を打破できないかと頭を捻り条件を提示した。
「いえば俺を見逃してくれるか?」
「うん、そうだな…面白いのも聞けたしな」
信用できるわけではないが、勝負はもうすでについている状態で狒々はこれ以上動くことはできなかった。
「…黒髪に赤い瞳。頭には二本の角が生えている大男だ」
「ふ〜ん、なるほどね、じゃあもういいよ行って」
頼光は狒々に向かい軽く手を振った。あまりにも呆気からんとする振る舞いに狒々はこのまま去ってもいいのかと困惑する。
だがこの状態では満足に戦うことはできないと考えが変わらないように去ろうと思ったその時だった。もう一人の男から声をかけられた。
「お前は今後、人間を殺すのか…?」
「何を言っている…そんなの当たり前だろう…?」
狒々は人間を喰らう妖怪だ。それが自分にとっては別におかしなことではない。しかし男にとってそれは触れてはいけない琴線に触れてしまったことに放たれた尋常ではない殺気に狒々は気づき自分の失言に気づいた。
「そうだ…もう子供は襲わない!! この京から出て行くからっ」
「それでまた人を襲うのですか?」
狒々の必死な弁明に渡辺は目を細め柄を握る手に力が籠る。彼の低い声音を聞いた頼光は口元を怠そうに開けながら、面倒くさそうに狒々に忠告した。
「あ〜あ、お前死んだな、遠くに逃げたほうがいいぞ」
気の抜けた頼光の言葉に狒々は激痛で走り出すことも困難な状態だが命には変えられないと一目散に駆けだした。
『くそっ、どこで間違えたんだ』
その時にである。
なぜか分からないがある記憶が蘇った。自分は山の中で暮らしていたことを、そしてそこで誰かに声をかけられたことも。
【面白い話があるんです、私の誘いに乗ってくれませんか?】
そうだ、京の中には危険が多いから俺はずっと山の中で暮らしていたんだ。だけどどうして俺は山ではなく都にいるんだ…?
『一体なんだ、この記憶は』
『どうして俺は忘れていたんだ…』
『あいつの名は確か…』
狒々は思い出そうとするが霧がかかったように思い出すことができなかった。今は逃げることが先決だと頭を切り替えると思い出すのは子供を食らおうとして邪魔をしてきた鬼の顔だった。
『いや、あの鬼に会ってからだ、あいつが邪魔しにこなければ俺はこんなことに…っ』
背中に衝撃が走った。その瞬間に自分に何が起きたのか理解することができなかった。狒々の体は真っ二つになって絶命した。
「お前ら、後始末よろしく〜」
頼光が後ろの方に声をかけると近くに控えていたのか建物の影から部下たちが出てきて妖を処理していく。
「俺は帰るけど、お前はどうする?」
聞かれた渡辺は頼光に背を向けたまま言葉を発した。
「私は後で…」
「そう」
頼光はいつもは飄々としているが無神経というわけではない。ただ今の表情を主人に見せるほど従者としての渡辺は余裕がなかった。
〇〇
雲雀の鳴く音が聞こえる。もうそろそろ夜の時間が終わる頃のことだった。朝日の光が平安京を照らし始めた。
「ああ、よかった探したんですよ」
懐かしい二人の姿を見てか丘の上にある木の上でいばらは思案していると声をかけられた。いばらは見下ろすとそこには今日の都を案内してくれた妖の犬鬼が息を荒げていて、その様子に彼と一緒に来たことを思い出して慌てて下に降りた。
「すまないっ、犬鬼」
「何があったんですか、いきなり走っていきますし、全然追いつけませんでしたよっ」
憤慨し、ため息をつく犬鬼にいばらは申し訳なさそうに謝った。
「本当にすまない。少し知った顔を見た気がしてな。けど、違った…気のせいだったよ」
「そうですか、それじゃ帰りましょ。何やら人間たちが騒いでいるので早くこの場を去った方かいいと思いますよ」
「ああ、そうだな」
いばらはある方向を見て名残惜しそうに目を細めた。そして犬鬼と共に棲家へと帰っていった。
まだ痛みが引かないのでひとまずこの一話だけは…( ゜д゜)
次話の投稿の日は活動報告の方で更新いたします。




