第十六話:金童子の苦労
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私の名前は金童子。周りのものからはキンさんと呼ばれている。大江山の縄張りとしている主将、酒呑童子の四天王の内の一人である。髪は金色で琥珀色の瞳を持っている。
主将である童子とはもう彼これ100年以上の付き合いになる。近くには人里はあったがお互いに境界を守りながら過ごしてきたある日のことだった。別のところからきた妖怪が人里を襲ってきたのだ。
それに気づいた酒呑童子たちは悪い妖怪を撃退し人里を守ると、お礼として酒を贈られた。その酒を酒呑童子はたいそう気に入り、それ以来人里には足繁く通っていた。
最初は人間たちも鬼が出たことで大層怯えていたが、敵意や害を加えないことに徐々に仲良くなり、里のものたちからは畏敬と里の平和を守ってくれた鬼神「童子様」と崇められるようになった。
先日いつものように童子と二人で酒をもらいに人里まで降りていき、里のものたちが何やら騒いでいた。彼らは自分たちに気付き駆け寄ってきた。
「酒呑童子様、金童子様、ようこそお越しに、お出迎えをできず申し訳ありませんっ」
男は平謝りながらもどこか心許ない様子に、いつもは落ち着いているのにと気になり金童子は伺う。
「いえ、何かあったのですか?」
「実は娘の行方がわからなくなってしまって、あと娘の友人の女の子もいなくなってしまい…」
それに返答したのは男の話を聞いていた童子だった。
「お前は確か、酒屋のマツノスケだな、どうした?」
「はい、娘が、昼前に川へ遊びに言ったそうでうですが、夕方になっても帰ってこないんです。いつもは夕暮れ前に帰ってくるのに」
泣きそうに語る父親の姿に童子と金童子は逡巡する。
「わかった、俺たちも探すから、まだそんなに離れていないはずだ。キン、お前は西側を頼む」
「分かりました、応援を呼んだ方がいいですね」
童子と金童子の頼もしい言葉にマツノスケは何度もお礼を述べる。そして四方の内である三方を回るが空振りに終わりとなった。残るは北側だった。
童子が北の山の麓に差し掛かった時に足を止めた。いきなり足を止めたことに金童子は訝しむんでいると童子がつぶやいた。
「血のにおいだ…」
童子の青い瞳が爛々と輝く様子に嫌な予感がした。
「どう…」
呼びかけようとした瞬間に童子は駆け出していた。そのあっというまの行動に金童子は呆気に取られる。
「ああ、もうっ!?」
童子は親しみがあり一見大らかそうに見えるが、彼の身勝手さと粗雑さな振る舞いには長年苦労は耐えた事がない。金童子は思わずいつもの冷静さを失い声を荒げる。
力は岩を片手で握り潰すほどができ、体重があるはずなのに軽やかに鳥が飛ぶように風のように駆け抜けていく、なりふり構わず全速力で走る童子の快足に追いつけるはずもなかった。
そしてようやく追いつくとそれは終わっていた。辺り一面に転がっている者たちの服装を見て賊ということがわかった。そして近くにはうずくまる女性たちがいた。
あの二人がいなくなった娘たちだろうと、声をかけようとしたが女性はジッと何かを見ていることに気づいた。
何を見ているのだろうと周囲を伺うと何者かが、童子に覆い被っていたのだ。それに金童子は童子が攻撃されていると思ったが、その者と目があった。
赤い瞳。
その怪しく光る瞳の美しさに金童子は足を拘束されたかのように動かなくなった。そして満足したかのように童子から血を十分に摂取できたのか満足したかのように眠りについた。
金縛りが解けたことでようやく足が自由になり、童子の元に駆け寄ると彼を倒れないように支えていた。
「そのものは…」
「ああ、こいつは人間じゃない 俺たちと同じ同族だ。それにしてもよっぽど飢えていたな。こいつきっと人の血を飲んでねえ」
「え…」
金童子は驚いた。人の血を飲まない鬼なんて今まで見たことがなかったからだ。吸血衝動になれば激しい飢えが生じる。人間を食物で腹を満たすように、鬼は血で腹を満たす。
それを抑えるために動物を狩ったとしても渇きは満足に癒やされることはない。こんこんと眠る彼は生気がなく、青白かった。金童子は気難しい性格をしているが、そのままにするほど冷徹ではなかった。
彼女たちを家まで送り帰ると何やら騒がしい。何事だと騒がしい方向に足を進めた。庭先を見るとそこには宴会が開かれていた。
「な!?」
金童子は目の前の光景に仰天した。
「なんだ、これは…」
鬼たちは酒や獣の肉を食らっており酒盛りをしていた。それに金童子は大いに苛立った。獣の肉は長持ちしないので山から狩ってきたものかもしれないが、酒は違う。
酒を作れない鬼は人里まで降りて彼らを外敵から守るために報酬をもらっている。それを少しずつ蓄えてきたのだが、こうもなんの抵抗もなく呑んだくれになっていると管理している自分はたまったものじゃない。
近くにいる小鬼の知り合いに声をかけた。
「オニマル」
酔っ払っているあそれが誰の声なのかまだ理性はあった。
「ああ、副将、おかえりにーヒィ!?」
金童子と目が合った瞬間に酔いは完全に目が覚めて血の気が引いた。
「はい、ただいま、帰りました。童子様はどちらに?」
「た、え、えっと、あちらの方に」
指差した方向をぎっと睨みつけた。そして小鬼の方に視線を戻してにっこりと笑ったがそれが返って不気味だった。
「飲み過ぎはほどほどにしないといけませんよ」
「は、はい」
小鬼はこくこくと首肯して直立不動になった。それは金童子がいなくなるまで続いた。
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そして金童子が足早に向かった先に二人がいた。盃を豪快に呑んでいる童子とほおが赤くなっている彼の姿があった。金童子はため息をつきながら彼らの元に歩み寄る。
「童子さま、ただいま戻りました」
「うん? おう、キン、帰ったか」
童子の盃を陽気に持ち上げながら嬉しそうな笑みを向けた。そんな能天気な様子にイライラしているのがバカらしくなったのだ。
「ああ、もういいです! 私も飲みます」
「おう、お前も飲め飲め! あ、こいつ仲間になったから」
思わぬ重大な発言に金童子はぶはっと飲み始めた酒を吹き出してしまった。
「は…?」
「おう」
ニカっと笑う童子に金童子は開いた口が塞がらない。そして彼、いばらのほうを見ると口を開いた。
「いばらと申します。不束者ですが、よろしくお願いしますっ」
「おい、それ嫁入りする時の言葉じゃねえ?」
童子の鋭いツッコミにいばらは自分の失言に気づいて恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。
「え、あ、そっか!?」
その彼の慌てように真面目に考えたのがおかしくなってしまい思わず口元が緩んだ。
「あ、笑った」
「…笑っていませんよ…」
笑っていないと口に出すが明らかに口元が笑っていた。いばらはなんだか彼の含んだ笑みに気恥ずかしくなり、今にも煙が吹き出してしまいそうである。あの瀕死な状態からまるで別人のようだと酒を飲みながら思ったのだった。
次話は25日に投稿します。




