第十五話:断る理由がなかった
「さてと、私たちもお暇しましょうか」
「うん、そうだね」
スズとアオイの話からすると、自分が目覚めるまで介抱をしてくれていたらしく、申し訳なさと同時にうれしさを隠すことができなかった。
「そうだったんだな、すまない」
「あなたが謝ることじゃありませんよ!?私たちがやりたかったので…っ」
アオイの言葉にスズは同意するようにうなづいた。するとドタドタと足音が聞こえて誰かがこちらにくると三人は気づいた。
何も断りもなく襖を開けてきたことにいばらは唖然とした。一言抗議しようかと思い、声を上げようとしたが言葉にならなかった。
燃えるような赤い髪に晴天の空のように透き通るような青い瞳。
初めて見る奇抜な外見にいばらは怒りがどこかへと吹き飛んだ。そして頭には二本の角が生えていてまじまじと見てしまう。
「おう、起きたか、まさかまた気を失うなんて思わなかったからな」
スラスラと人の言葉を話す様子にいばらは頭が追いついていかない。
『人の言葉を喋った…鬼って人の言葉を喋れるのか』
ぐるぐると考えていると、スズとアオイはその鬼に向かい腰をおり頭を深く下げた。
「童子様、恩人が目を覚ましましたので、私たちはこれで失礼いたします」
「ああ、そうだな…金童子」
「はい」
童子の側で控えていたのか鬼がもう一人いたことにいばらは驚いた。背丈もいばらぐらいあるのに気づかなかったのは物静かだったからである。彼とは違って角は一本だった。
「人里まで送ってくれないか?」
「はい、分かりました」
端正な顔つきをしており、女性も放っておかないだろう。まるで人のような会釈で童子に受け答えするその所作をいばらはじっと見ているとその鬼と目が合い、ぎっと睨まれてしまった。
いばらはなぜ睨まれたのか分からなかった。あまりジロジロと見てしまったからだろうかと気をつけようと気持ちを切り替えた。
「入り口まで送らせてくれないか…?」
いばらの一言にスズとアオイはどうしたものかと童子を見つめると、
「おう、いいんじゃないか」
入り口まで行き、スズととアオイはいばらに向かい振り向いて口を開いた。
「今度里まで来てください、私のお手製の猪鍋でもてなしますので」
「ふふ、アオイ姉さんの料理は絶品ですよ」
「それはありがたい、でも大丈夫なのか…俺は…」
いばらが何を躊躇しているのか二人は気づいた。
「ああ、この麓では童子様によって守られているので大丈夫ですよ」
その一言にいばらは驚いた。村を出てからずっと一人で生きていこうと思っていたいばらにとって、まさか人と妖が共存している居場所があるとは思わなかったからだ。
「そうなのか、それじゃ遠慮なくいかせてもらうよ」
「はい、それではまた」
二人は手を振り、笑顔で別れを告げた。それを見えなくなるまでいばらは手を振り続けた。
〇〇
二人を見送った後、彼と目が合った。
「二人を助けてくださりありがとうございます」
いばらは童子向かい深く一礼をした。そのお礼に童子は頭をかきながら、どこか照れくさそうに話をした。
「俺はたまたま人里に降りてきて、里のものたちが騒いでいたから、少し時間がかかってしまった。まさか攫われていたとはな…」
自分が成り行きとはいえ賊にいたことに恥ずかしく思った。だからこそ、自分はここにいるべきではないと思った。先ほど彼女たちから誘いを受けたが、目の前で断ることができなかったのだ。
「あの童子様…でよろしかったでしょうか」
名前を聞かれた鬼、童子はそれに答えた。
「ああ、他の者からもそう呼ばれているな」
そういうや否や、いばらは地に這い蹲り土下座をしてきたことに童子はいきなりの挙動に仰天した。
「おい、なんの真似だ!?」
「私のようなものを命を救ってくださりありがとうございます」
童子はいばらを立ち上がらせようよするが、いばらの言葉に動きが止まる。いばらは心を込めて感謝を告げたのだが、彼にとってはそうではなかった。
「おい、私のようなものってなんだ」
低い声にいばらはどきりとした。
『怒っている…そうだよな』
童子が怒るのはもっともなことだといばらは忸怩たる思いで歯噛みした。村に忍び込み彼らの食料などの盗みを加担し、悪い行いをしてきた自分が許されるはずがない。
「私はあいつらに加担してきました、それが悪いと分かっていながら、だけど、あの二人を襲われるの見てどうしようもなく自分が許せなくなった…彼女たちが救えるなら私の命なんて…」
「俺が言っているのはそういうことじゃねえっ!?」
童子が不機嫌になっているのか見当がつかない。そして一生懸命に考えた。さっき何を言っていたのかを思い出す。
『私のようなものを…』
それを言った瞬間に童子は一気に不機嫌が悪くなった気がした。
「立て…」
そう言われていうことを聞かないわけにはいかない。立とうとした瞬間にむんずと胸ぐらを捕まえられた。
いばらは一瞬殴られると思ったが、そうではなかった。体ごと引き寄せられて顔に近づいた。近つけが近づくほど、美麗であることに驚く。怒っていても美形であることにまじまじと見てしまう。
「ーい、お〜い、聞いているか」
いばらはその声にしまったと現実に戻る。
「え〜と、すみません、聞いていませんでした」
「おま、」
童子に何かを言いかけるがいばらの間の抜けた様子に怒気を抜かれたのか呆れたように吐息をついた。
「俺が怒ったのは自分を大切にしなかったからだ」
「自分…?」
「そうだ」
「けど、私は仮にも賊に入っていて…」
「それじゃ、お前は一度でも人を自分が好きで殺したことはあるのか?」
「それはない!!!」
はっきりとしたいばらの答えに童子はニカリと笑った。
「お前があの二人を放って置けなかったのは、他人を大切にできるってことだろ、俺は戦うことは好きだが人と争うのあまり好きじゃない。けど里のようにいい奴等もいれば悪い奴等もいる。悪い奴らは口で言ってもわからねえから殴ったほうが早いな。そして俺が大切に思っているものが自分を大切に思わないのは俺が許さねえ」
目の前にいるのが妖怪であるはずなのに、人間ではあるはず盗賊なんかよりもあまりにも人間らしい言葉にいばらは開いた口が塞がらなかった。
「なんですか、それは…すごい、自分勝手で…」
いつの間にか目の前がぼやけてその瞳から大量の涙が溢れていた。嗚咽混じりの声に童子は笑っていた。
「ああ、俺がそう決めたんだ……お前、俺の仲間にならないか?って言ってもお前はもう俺の眷属だがな」
童子は腕を組みながら、ほくそ笑んだ。思わぬ誘いではなく決定事項にいばらは脱力した。童子にお礼を言ったらすぐにこの場を去ろうと思っていたからだ。
「仲間になっていいのですか…?」
「俺がなっていいっていうんだ、当たり前だ」
いばらはその誘いを断りたくなかった。断る理由がなかった。
あらすじの方に次話の投稿日を掲載してきましたが、減っているのを見てしまうと精神的ダメージが…_:(´ཀ`」 ∠):
一喜一憂していたらキリがないのは分かっていますが^^;
これからは後書きや活動報告の方に記載いたします。ご了承くださいませ。




