第十二話:怖がられるよりも誰かに悲しんでもらったほうがいいから…
盗賊の首領の名はカシラ。小さい頃から両親はおらず、生きるために盗むのは当たり前だった。
盗みで食い繋いで行き、数年前に大江山のハズレを根城にして仲間と酒を酌み交わし、村を襲い、食糧を奪った。大江山のハズレということで、近くの村人たちは抵抗することなく震え上がっていた。そしてついたあだ名が盗鬼賊と呼ばれた。
勢いは留まることなく悪行を重ねていたある日、仲間の一人が近くの山村で男が運ばれてきた。男は顔立ちが良く、体格もいいため何かに使えないかと考えた。力以外にも目と耳が他の者たちより優れていた。
カジカという下っ端と話すのは何度か見たが誰と話すこともなかった。人が集まっている中心よりも男はハズレの方にポツンと存在していた。盗賊たちは仲間意識というよりも同じ穴の狢という認識の方が強い。
なので新参者のいばらにちょっかいをかけるものは少なくなかった。しかしどんなに殴られても蹴られても無反応を示しその瞳を覗くとどこも見ていないことに気味が悪がられ、それ以降いばらを殴るものはいなくなった。
それがどうしたことか。周りの連中が静かになったことにカシラは抵抗する女性、アオイに馬乗りになりながら異変に気づいた。
「何があった…?」
カシラは周りを見た瞬間に目が止まった。赤い瞳がこちらをじっとこちらを見ていたことに、あまりの異質な姿に恐怖で硬直した。
恐怖を振り払うかのように棲家の首領として威勢のいい声をあげた。
「なんだ、お前は!?」
〇〇
いばらの赤い瞳にゴロつきたちは金縛りにあったように動けなかったが、カシラの声に緊張が少し解けて次々に声を出す。
「こいつ人間じゃなかったのか!?」
「赤い瞳なんて初めて見たぜ…っ」
いばらに対し仲間から敵を見るような視線へと変わった。数ヶ月同じ棲家に住んでいてもついぞ仲間意識が生まれることはなかった。
「その娘たちをどうするつもりだ…?」
いばらの質問にカシラは口を開きながらアオイを見下ろす。
「どうするかは俺の自由だ、この娘を犯そうが、殺そうが。ああ顔と体はいいから俺の女にしてもいいけどな」
下品な表情を自分の下にいるアオイに向けた。アオイは悔しそうに歯を食いしばっていた。
「おう、泣くのか、泣け泣け。泣いて俺に縋ってきてもいいぞ、ははは」
下品な笑い声が耳障りだった。それに呼応するかのように男たちは景気づく。それを無視するかのようにいばらは一歩一歩と前進した。それを見たごろつきの一人は刀を向けてきた。
「おい、何をする気だ てめえ」
「……」
ごろつきの制止を振り切りいばらは前へ進もうとすると自分の言葉を無視するいばらに男は激昂する。
「てめえ、止まれっていっただろう!?」
しかし、彼の攻撃は当たることはなくいばらは拳を振り上げて刀をおり、彼の頬に防御することなく直撃してしまうのだった。
男の体は吹き飛ばされ、地面に倒れ伏した。ぴくりとも動かない男は白目を向いて気を失っていた。あまりの怪力にゴロつきたちは悲鳴をあげる。
「ひぃ!?」
「あんなの殺れるのか?」
「俺たちが殺されるんじゃ」
ごろつきたちが次々に不安と恐怖を吐露しているのをカシラは声をあげた。
「俺たちは仲間がいるが、あいつはたった一人だ! 味方はいない!いくらあいつが強くても勝つのは俺たちだ」
自信に満ちたその姿にゴロつきたちの恐怖心が薄れた。
「そうだ、相手はたった一人なんだ…」
「たとえ強くても負けるわけねえ」
先ほどの怯えていた目つきが打って変わっていた。それにいばらは身構えた。
「いくぞ、お前ら」
「おう!」
男たちは共鳴し合いながら反響する。そしていばらに最初に突撃した男はナタを持っていた。
「おりゃ!?」
いばらはすんでのところで躱わし、蹴り飛ばした。そして次々とごろつきたちがいばらを倒そうと襲いかかる。しかしそれは当たらなければ意味がない。
「なぜだ、どうして倒せない!?」
数人がかりでいばらを倒そうとゴロつきたちは襲いかかっているのだが、倒すことができなかった。早くしないと自分の番が来ると焦っていたカシラの視界にあるものが目に入った。
『これならヤツを殺せる…!』
お頭は近くにいる男に声をかけた。そしてその男はこのナワバリで一、二を争うほど動きが速い人物だった。名は確かセキレイと名乗っていた。鳥のように素早く何よりも足が早い。
「奴を惹きつけてくれ、これであいつを仕留める」
その道具を見たセキレイとカシラはニヤリと酷薄な笑みを浮かべた。
〇〇
いばらは次々と襲いかかるごろつきを倒して行った。その時ぐらりと眩暈が起きた。
『まずい…っ』
健康状態の肉体であればたとえ数十人が束になっても薙ぎ倒していたはずなのに今のいばらでは数十人を相手するのに骨が折れた。
次に出てきたのは他のものより体が細い男、セキレイだった。セキレイは動きが早く、身のこなしが軽いという特徴があって覚えていた。
セキレイは小刀を持ち、いばらに突撃してきた。普段のいばらでは対応できるのだが満身創痍のいばらではそうもいかない。
その時気づくべきだった。先ほどまで襲ってきたごろつきたちの動きが止まっていたことに。
「離れろ!」
カシラの叫ぶ声が聞こえた瞬間にセキレイは後退した。いばらは何かがおかしいと思ったその瞬間だった。
ズドン。
背中に重い衝撃が走った。一体何がと思い後ろをとそこには矢が突き刺さっていた。いばらはあまりの激痛と熱さに膝を屈した。
その隙を狙い、ゴロつきたちは千載一遇のチャンスだと襲いかかってくる。いばらはなんとか抵抗するが襲いくる激しいめまいに耐えられなり倒れてしまう。
「よっしゃ」
「倒したぞ!!」
ゴロつきたちは雄叫びをあげて走り回り、喜びをあらわにした。しかし喜んでいないのは一人いた。
「いや、まだだっ」
カシラの一声にゴロつきたちはぴたりと止まる。
「まだ、あの男は生きている、虫の息だがな。息の根を止めるまでは安心できない。この男は人間ではないからな」
その言葉にゴロつきたちはごくりと生唾を飲み込みうなづいた。
「殺してもバチは当たらねえ」
「ああ、そうだ」
男たちは木の棒を手に取りいばらに近寄っていく。その世にも恐ろしい光景を襲われそうになったスズとアオイは震えながら見ていた。
二人は離れ離れだったが、いばらに気を取られているうちにごろつきたちの目を掻い潜くぐり合流することができた。
「あいつら…まさか」
気の強そうな女性、アオイは今から起こるであろう光景に嫌な予感がした。
「アオイ姉さん、あの人たち、何をして…」
「スズ、見たらだめだ、あんなの人がすることじゃないわ」
スズと呼ばれた女性は震える声でつぶやいた。そしてアオイの嫌な予感が当たってしまった。男たちは次々といばらは袋だたきにしていった。
「やめて…」
あまりの酷い光景にスズは目を瞑ってしまった。アオイはいばらを叩きつける重い音に、自分たちを助けてくれた人に目を背けることなんてできなかった。
「もうやめて! それ以上したらその人死んじまうよっ!?」
か細いが高く通る声にゴロつきたちは聞こえたのかニヤつきながら笑った。
「もうやめてだってよ」
ごろつきの一人はアオイの真似をしながら可笑しそうにせせら笑った。
「やめるわけねえだろ!!」
男は棒を振り上げて叩きつけた。その様子をアオイとスズはじっと見ていることしかできなかった。
「よし、それまでだ」
首領の一声にゴロつきたちは止まった。いばらはぴくりとも動かないが男たちの息は上がっていた。その様子にカシラはニヤリと笑った。いばらの赤い瞳に恐怖に怯えていたが、叩きのめしてしまえば怖いものはない。
「さてと、どうしてやろうか、こいつを」
カシラはいばらの処遇をみんなに聞くとごろつきたちの一人が口を開く。
「こいつの頭を吊るすなんてどうです」
「はは、それはいい、なら体は邪魔だな」
カシラはいばらを見て近くの者に指示を出した。
「斧を持って来い」
「はい」
〇〇
もう一歩も動かない。女性の啜り泣く声が聞こえる。すまない。助けることができなくて…。
『もうやめて! それ以上したらその人死んじまうよっ!?』
ああ、自分を人間だと言ってくれるのか。その言葉だけで心が救われた。怖がられるよりも誰かに悲しんでもらったほうがいいから…。
「もういい…」
意識がなくなりかけたとき声が聞こえた。それはあまりにも場違いで明るく陽気な口調だった。
「楽しそうなことをやっているな、俺も混ぜてくれよ」




